「タシェ」と呼ばれるトライバルラグについて
[画像:バクチアリのタシェ(1945年製)]
トライバルラグの愛好家や収集家に人気のタシェ。
タシェとは「穀物袋」のことです。
かつてバクチアリやルリの農家は皆、穀物や小麦粉を保管するために数個のタシェを所有していました。
しかし、ビニール袋や機械で作られた麻袋の出現により徐々に廃れてゆきます。
そんなタシェですが、今日、一風変わった面白さが多くの人を惹きつけているのです。
ほとんどのタシェは模様のある部分はパイル織、その他の部分は平織と、2通りの織り方を用いて製作されています。
平織の部分は2つに分けられ、1つは染色されていないウールで織られており、模様がありません。
もう1つは異なる幅の縞模様が、対照的な色または茶色の濃淡で織り出されています。
パイル織の部分はちょうど真中にあり、平織の無地の部分とは対照的に華やかでカラフルです。
タシェは単品で製作されることもあればペアで製作されることもありました。
半分にカットされてから縫い合わされると、しっかりとしたバッグのような入れ物になります。
タシェのパイル織の部分はとてもユニークです。
ナマクダン(塩袋)と同じように凸形に織られますが、そこに織り出された模様は一家のアイデンティティを象徴していました。
タシェに穀物が詰められると、パイル織の模様がはっきりと見えるようになります。
パイル織はナマクダンやホルジン(鞍袋)など他の平織の袋とは異なり、摩耗から保護することを目的としていました。
それはタシェが穀物や小麦粉(主食であるパンの原料)を入れるためのものだったことが理由です。
イランではパンと塩は「神の恵み」と考えられていました。
日常的な使用を目的とした実用品であるタシェですが、そのデザインは神の恩恵を目に見える形で讃えるものです。
また、中身が敬意と注意とをもって取り扱うべきものであることをも表しています。
タシェのデザインは、バクチアリやルリのメインラグよりもギャッベとの関連性が強く、タシェとギャッベの両者にまったく同じ文様を見ることができます。
バクチアリやルリに限らず、すべての部族の絨毯やキリムのデザインには象徴的な意味が込められています。
タシェのパイル織と平織のコントラストは偶然の産物ではなく、象徴的な意味を持っているに違いありません。
おそらく大地から育つ作物と、乾燥した不毛の土壌から生まれる命を表しているのでしょう。
ほとんどのタシェには、袋の上部を示す逆V字の文様があります。
これは、貴重な穀物が袋に注がれることを象徴的に表しているのかもしれません。
タシェのデザインは家ごとに違っていたため、どのタシェが自家の物であるかを容易に識別できました。
そのデザインをどう解釈するかは個々人に委ねられますが、民俗学的にも極めて興味深いものであることは間違いないでしょう。


