ペルシャ絨毯に見るロスタムの「七道程」
[第 話]
こちらは1890年頃に製作されたケルマン絨毯。
ケルマンで絨毯産業が興った最初期に製作された、とても貴重な作品です。
最初期の作品ゆえケルマン産に見えないかもしれませんが、古いケルマン絨毯ならではのトリプル・ウェフトなので、ケルマン産に間違いありません。
フィールドの最上部にペルシャ語で「アサレ・アクバル」(アクバル作)の銘が2箇所織り込まれていますが、同じ工房の同じデザインの作品の色違いが2015年にクリスティーズのオークションに出品されました。
本作はフェルドーシが著した叙事詩の大作『王書』(シャー・ナーメ)に登場する英雄、ロスタムの「七道程」(ハフト・ハーン)のうち、第三道程と第四道程の場面を描いたものです。
ロスタムはペルシア文学の中で、最も偉大な英雄とされ、その栄光と悲劇に彩られた生涯は世界的にも有名です。
彼は英雄ザール(白髪のザール)とカブールの王女ルーダベの息子で、巨象のような立派な体格を持ち、『王書』ではたびたび獅子に喩えられます。
また、傑出しているのは体格だけではなく、腕力や勇気、そして策謀もイランで彼に並ぶものはなく、英雄としての素質をすべて備えていました。
特に武術と投げ縄の腕は、敵う者がいなかったとされます。
ロスタムは700年もの生涯のうち、イランを守るためトゥラーン(トルコ系民族)や化け物とたびたび戦いました。
イラン国王カーヴースが白鬼と戦争をして苦境に陥った際、これを救出するために旅に出たロスタムは、七つの試練を越えることになります。
これがロスタムの偉業の一つである「七道程」です。
その第三道程では、ロスタムが水場で眠りに就くと、そこへ一頭の龍がやってきます。
実は、その水場は龍の憩いの場で、悪鬼すら近寄らない危険な場所だったのです。
危険を感じたロスタムの愛馬ラクシュは主を起こしますが、ロスタムが目を覚ますと龍は姿をくらましてしまいました。
ラクシュはロスタムに怒鳴られながらも何度も彼を起こし、三度目にしてロスタムは龍を視認し、剣を抜いて格闘します。
龍は強力でしたが、ラクシュの力を借りて、ついにロスタムはこれを倒しました。
続く第四道程では、魔物の国に入ったロスタムが泉を発見し一休みします。
その泉のほとりに酒とギターが置いてあったので、ロスタムは酒を呑み、ギターを弾いて歌いました。
すると、一人の美女がロスタムのもとにやってきます。
二人はすぐに意気投合しました。
しかし、ロスタムが神の名を口にすると女は顔色を変えたため、これを怪しいと感じたロスタムは輪縄を投げて女を拘束します。
すると、女はたちまち醜い老婆の正体を現したので、ロスタムはこの魔女を倒しました。
左が弊社が所有するもので、右が2015年のクリスティーズのオークションに出品されたもの。
当時はまだ意匠図に方眼紙が使用されるのが一般的ではなく、意匠図はただの「絵」でした。
そのため同デザインの作品であっても微妙な差異が生じています。
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