トライバルラグとギャッベの違い
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最近、よく耳にするであろうトライバルラグとギャッベという言葉ですが、その意味を正しく理解している人は案外少ないのではないでしょうか?
両者を紛らわしいと感じる人もいるかと思いますので、今回はトライバルラグとギャッベの違いについて述べることにします。
トライバルラグとギャッベは、いずれも手織絨毯の一種であることはご存知かと思いますが、それぞれがどのようなものなのかを知ることで、使用する際の選択に役立てることができるでしょう。
まず、トライバルラグは、主に中央アジアや西南アジア、とりわけイランやトルコの部族民によって製作される絨毯を指します。
トライバルラグには各部族が先祖代々受け継いできた技法やパターンが用いられており、そのデザインには部族や地域ごとの文化が色濃く反映されています。
羊のウールが使用されているため、柔らかさと耐久性を兼ね備えています。
トライバルラグのデザインには幾何学模様や象徴的な動植物が多く見られ、カラフルな色彩で表現されるのが一般的です。
これは、特定の文化や地域の価値観、生活様式を反映しており、各部族ならではのユニークな特徴を持つ理由となっています。
一方で、ギャッベはイラン中西部を中心に居住するカシュガイやルリの部族民によって製作される絨毯です。
ギャッベはもともと普段使いに供するために製作され、それゆえ織りは粗く、デザインはシンプルなのが特徴です。
ギャッベもウールを用いて製作されており、そのため温かさと耐久性を備えています。
カシュガイやルリはギャッベだけでなく俗に「メイン・ラグ」と呼ばれる精緻な絨毯も製作しており、ギャッベも彼らが製作するトライバルラグの中に含まれます。
つまり、ギャッベはトライバルラグの一種であるということです。
実はトライバルラグという言葉の意味は結構複雑で、狭義には「部族民が製作するパイル織の絨毯」を指しますが、広義には綴織のキリムやソマック、ジャジムなども含めます。
いわばトライバルラグというのは部族民が製作する絨毯あるいは敷物全体を表す言葉ということです。
ちなみにトライバルは英語で「部族」を意味し、これにはモロッコのベルベル族やネイティブ・アメリカンのナバホ族なども含まれます。
ちなみにベルベル族が製作する絨毯やキリム、ナバホ族のキリムにも根強いファンがいて、専門書なども出版されています。
さて、ギャッベがトライバルラグの一種だということはご理解いただけたと思いますが、ここではトライバルラグ=メインラグとして話を進めてゆきましょう。
トライバルラグは、いわば「ハレ」の絨毯であり、そのデザインには部族の象徴的な意味に基づく模様が用いられます。
そのため各部族によって異なる特徴があり、専門家はデザインを見ただけで、どの部族のものであるかを特定できます。
つまり、トライバルラグは独自のスタイルを持つ一方で、地域性や部族性が強調される傾向があります。
これに対し、ギャッベは「ケ」の絨毯として製作され、デザインはトライバルラグに比べるとよりシンプルで、色数もあまり多くありません。
染色されていないウールが用いられることも珍しくなく、素朴な雰囲気の絨毯と言えるでしょう。
製作過程についても違いがあります。
トライバルラグは、部族民の資産として織られることが多く、それゆえ織りは緻密で部族特有の技術やスタイルが凝縮されているのが特徴です。
織り手の思いや願いが込められており、そのため商業的に製作される絨毯とは一線を画した価値があるとされています。
一方のギャッベは作業時間を短縮して製作されるため織りが粗いのが特徴です。
トライバルラグのように資産としてではなく、あくまで普段使いとして製作されるもので、かつては使い捨てにされてきました。
アンティークのギャッベの現存数が極めて少ないのには、こうした理由があります。
以上がトライバルラグとギャッベの概要ですが、当然、価格帯にも違いがあります。
トライバルラグはその複雑なデザインや織り方から、一般的に高価なものが多い傾向があります。
一方で、ギャッベはそのシンプルさから比較的手頃な価格で手に入れることができる場合が多く、特に日常使用を目的としたい場合には選びやすいものと言えるでしょう。
このように価格面から見ても、トライバルラグとギャッベは異なる特性を持っており、選択の際の重要な要素となります。
これらの違いから、トライバルラグとギャッベはそれぞれ異なるライフスタイルや空間に適するアイテムとして存在しています。
トライバルラグは、装飾的な美しさや文化的価値を重視する人々におすすめで、個性的なデザインを通じて空間を華やかに演出します。
対照的に、ギャッベは、安らぎや温かみを求める家庭に適しており、日常使いにも耐えうる実用的なアイテムとして人気があります。
このように、トライバルラグとギャッベは共に魅力的な手織り絨毯でありながら、そのデザイン、技術、使用目的、価格などにおいて違いが存在します。
それぞれの特徴を理解し、自分のライフスタイルやインテリアに合った絨毯を選ぶことで、豊かな空間作りや日常生活の質を向上させることができるでしょう。
どちらも、その背景には深い文化や歴史があり、それぞれの絨毯が持つ物語や意味を知ることで、より深い愛着を持って使用することが可能になります。
トライバルラグとギャッベのどちらを選ぶにしても、自分自身の価値観や生活環境に合ったテキスタイルを取り入れることで、より充実した生活空間をつくることができるのです。

