ドーハ・イスラム美術館のペルシャ絨毯

ドーハ・イスラム美術館のペルシャ絨毯

[画像:イスラム美術館の外観]

カタールの首都であるドーハは、ペルシャ湾に面した砂漠の中に広がる近代都市です。
ドーハにはアラブ諸国の中で最大の規模を誇る美術館、イスラム美術館(通称MIA)があります。
この美術館はドーハ湾の南端、市内中心部に近いドーハ港の海岸線を埋め立て造られた人工島ドーハコーニッシュに位置しており、総面積は4万5000平米。
「建築界のノーベル賞」と呼ばれるプリツカー賞を受賞した中国系アメリカ人建築家のイオ・ミン・ペイが設計し、総工費は3億5000万ドル以上といわれます。
ペイはルーブル美術館のガラスピラミッドを設計した建築家として知られており、展示室のデザインは彼がフランスから連れてきたジャン・ミシェル・ウィルモットが担当しました。
ペイとウィルモットはルーブル以来のコンビです。
美術館完成時のペイは91歳で、完成した11年後の2019年に102歳で没しています。
カイロ最古のモスクとして知られるイブン・トゥールーン・モスクのウドゥ(小浄)噴水のデザインに着想を得ているそうで、外壁には石灰岩が使われていて、時間帯による色の変化を楽しめます。
イスラム美術館はカタールの文化芸術の保護・発展のため2005年に設立された政府機関カタール・ミュージアムズ(Qatar Museums)によるプロジェクトの一つとして2008年に開館しました。
カタール・ミュージアムズの発足以来オープンした最初の施設です。

イスラム美術館は5階建で、館内には大きく4つの展示フロアがあります。 1階には受付、ギフトショップ、講堂、カフェ、特別展示ギャラリー、図書館、男女別の礼拝室があります。
2階と3階が常設展示室。
4階ではイスラム美術と文化をテーマとした特別展が開催されており、5階のIDAMレストランではアラビア風にアレンジした地中海料理も堪能できます(予約制)。
常設展では7世紀から20世紀にかけてのイスラム美術が展示されており、コーランなどの写本やカリグラフィーをはじめ、陶磁器、ガラス工芸、金属工芸、木工芸、家具調度品、織物、衣装、宝飾品、武具など、多岐にわたるコレクションが所狭しと並んでいます。
12世紀から16世紀までのエジプトとシリア、16世紀から19世紀までのイラン、16世紀から18世紀までのインド、16世紀から19世紀までのトルコの作品が含まれます。
そのコレクションは中東の国々にとどまらず、スペインや中国、アフリカといった広範囲の地域から集められており、いわばイスラム芸術のすべてがここに集約されています。
とりわけ有名なのは、1000年以上前のアッバース朝統治下の10世紀イラクで作られた、ギリシャ語の「星を取る人」を意味する個人用の天文器具のアストロラーベ。
星や太陽の位置を観察して時間を知るためなど、さまざまな計算に使用されていました。
また、16世紀に作られたシャー・タフマスプの『王書』(シャーナーメ)の写本は、古代ペルシャの支配者と英雄の物語を語る、6世紀前に書かれた叙事詩を美しいイラストで描いたものです。
さらに長方形の大きなカットのエメラルドに中央に「ジャハンギル・シャー・イ・アクバル・シャー」の銘とヒジュラ暦1018年(西暦1609~1610年)の刻印があるムガル帝国のエメラルド。
これらはまさにイスラムの至宝というべきものです。

イスラム美術館には、世界最大かつ最も貴重なアンティークのペルシャ絨毯やオリエント絨毯のコレクションが所蔵されています。
私たちにとって最も興味深いこれらの品々は3階にあります。
このアンティーク絨毯のコレクションは、美術館の設立前から国立文化芸術遺産評議会の議長であるシェイク・サウド・ビン・モハメッド・アル・サーニが所有していたもので、1997年から2005年にかけて購入されたものが多いようです。
絨毯の多くは、個人のコレクションや国際的なオークションで入手されました。
シェイク・サウド・ビン・モハメッド・アル・サーニは、美術館の建設を考えた時、単なる工芸品のコレクションではなく、真の傑作を求めていました。
建設に着手する前に、世界の貴重な作品の所有者や個人収集家と会い、彼らはアラブ世界にこれらの宝物を持ち込む貴重な機会を見出しました。
ドーハの美術館がオープンする前から、コレクションには90点を超えるアンティーク絨毯が含まれており、その中には14世紀から18世紀の部族絨毯やキリムもあります。
これらのアンティーク絨毯は、オスマン帝国とサファヴィー朝の歴史と技術の象徴であり、世界遺産の一部です。
さらに、世界中の絨毯に関する文献も充実しています。
このような努力の結果、ドーハのイスラム美術館は傑作の宝庫となりました。
息を呑むようなコレクションには宗教的なものと世俗的なものがあり、特にミフラーブや祈りのニッチをデザインした絨毯のコレクションは世界最大級です。

ここでイスラム美術館で特に注目される絨毯の一部を紹介します。
カタールのイスラム美術館に収蔵されている「パラダイス・パーク絨毯」は、その中でも有名な作品の一つです。
この絨毯には、様々動物や植物が描かれた鮮やかな色の庭園が表現されています。
世界で数少ない貴重な絨毯の一つであり、ロサンゼルスカウンティ美術館とルーブル美術館にそれぞれ1枚ずつ存在しているだけです。
これらは16世紀に製作され、当時の上流階級や宮廷の人々によって注文されたものと考えられています。
このカーペットは、16世紀以来その鮮やかな色彩を保っている点も貴重です。
また、コレクションの中には「アシュタパダ絨毯」と呼ばれる傑作もあります。
アシュタパダは、チェスよりも古いインドのボードゲームです。
この絨毯は1997年にカタール国民評議会が文化芸術遺産のために購入したもので、鮮やかな色合いと厚みのあるシルクのパイルが特徴です。
保存状態も非常に良好で、デザインの中には、8マス×8マスのゲームボードが含まれています。

ロスチャイルド家が所有していたシルクのメダリオン絨毯は、かつてアメリカのタバコ産業の相続人で億万長者であったドリス・デュークのコレクションに入っていた有名な絨毯です。
16世紀半ばにイスファハンで織られたもので、シャーの宮廷工房で製作されたものと考えられています。
完璧な状態で保存されており、この時代の絨毯の中でも特に保存状態がよいものです。
この絨毯は2008年にクリスティーズのオークションで445万ドルで落札されました。
「ハイデラバード絨毯」も、コレクションの中でも特に印象的な作品です。
10’8″ x 52’4″の大きなランナーで、約550平方フィートの面積をカバーしています。
この絨毯は17世紀にインドで製作されたもので、恐らく宮廷の注文品と考えられます。
とにかく、その存在感は圧巻です。
これらの絨毯コレクションは、イスラム世界の歴史を通じた貿易や経済交流を浮き彫りにしています。
その他にも、トルコのホルバイン絨毯や、サファヴィー朝のスルタン・ムラドに捧げられた小さなシルクの礼拝用絨毯、16世紀後半にエジプトで製作されたマムルーク絨毯などがあります。
これらの宝物を将来の世代のために保存するために細心の注意が払われており、照明を暗くすることや、害虫の検査、絨毯に「休息」を与えるための展示替えなどが行われています。

イスラム美術館は2022年10月、カタールの国家的な文化活動プロジェクト「カタール・クリエイツ」の一環として、FIFAワールドカップ・カタール大会の開催に合わせてリニューアルオープンしました。
常設展示が再構成されたほか、「東南アジアのイスラム」に関するコーナーなどが追加されています。
イスラム美術館へは、ハマド国際空港からタクシーで約15分、またはスーク・ワキフから徒歩約20分です。
入館チケットは大人(16歳以上)50リヤル(約2000円)で、16歳以下は無料。
また学生は50%オフの25リヤル(約1000円)で入ることができます。
開館時間は金曜日以外は午前9時から午後7時までで、金曜日(イスラム諸国の休日)のみ午後1時から午後7時までとなっています。
曜日ごとに様々テーマで無料のガイド付きツアーが催行されており、MIAパークへの入場も無料です。
また、交響楽のコンサートが毎月開催されています。
予定されているイベントの詳細については、MIA の公式ウェブサイトでご確認ください。

【イスラム美術館】(The Museum of Islamic Art)

所在地 : Doha Port, Doha, Qatar
開館時間:土曜~木曜:09:00~19:00、金曜:13:30~19:00
電話番号:+974 4422 4444
公式HP:https://mia.org.qa/en/

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