ペルシャ絨毯に対する日本人の勘違い
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ペルシャ絨毯が日本で広く知られるようになったのは1970年代のことです。
そのきっかけを作ったのが日本橋三越が開催した「ペルシア5千年美術絨毯」展と三越・東宝合作映画「燃える秋」でした(このあたりの事情については【ペルシャ絨毯の歴史詳細】をご覧ください)。
何世紀ものあいだペルシャ絨毯と関わってきたヨーロッパとは異なり、わが国ではたかだか50年ほどの歴史しかないのです。
そうした短かさがもたらすペルシャ絨毯についての誤解が日本人のあいだには存在します。
私たち日本人がイランの誇る伝統工芸品に対して抱く誤解は、しばしばその実際の特徴や文化的意義から離れたものです。
こうしたはペルシャ絨毯に対する理解を深める妨げとなり、その魅力を完全に享受できない原因ともなっています。
最初の勘違いとして、ペルシャ絨毯の品質に関する誤解があります。
日本人は、ペルシャ絨毯に対して高級絨毯のイメージを持ち、「すべてのペルシャ絨毯が高品質である」と考えがちです。
しかし実際には、ペルシャ絨毯の品質には大きな幅があります。
素材やノット数、職人の熟練度などにより、価格や耐久性は大きく異なるのが実際です。
端境期に一般の農家の女性が製作した絨毯と、徹底した品質管理がなされた一流工房でプロの織師たちによって製作された絨毯では品質がまったく異なるにもかかわらず、多くの人々がペルシャ絨毯を一括りに評価してしまうのです。
この誤解は消費者が絨毯を選ぶ際の判断基準を曖昧にし、本物のペルシャ絨毯の持つ特性を見落とす原因となっています。
また「すべてのペルシャ絨毯はシルクで作られている」という勘違いが存在します。
確かにシルク製のペルシャ絨毯は存在し、その繊細さや光沢から高級品として知られています。
しかし実際には、ペルシャ絨毯は9割以上がウールを用いて製作されているのです。
ウール絨毯のノット数は9万ノットから225万ノット以上まであります。
81万ノットのシルク絨毯よりも225万ノットのウール絨毯の方が遥かに高価になるのは当然です。
しかし、日本ではシルク絨毯が高級品と考えられたいるため、ペルシャ絨毯に対する認識もシルク中心に偏りがちです。
このため、ウールのペルシャ絨毯が持つ魅力や価値が見落とされることになります。
さらに、日本にはペルシャ絨毯の本質に関わる誤解もあります。
「ペルシャ絨毯は床を美しく飾るためのアイテムである」として捉えられがちです。
それは勿論なのですが、ただそれだけではありません。
ペルシャ絨毯はそのデザインや模様にストーリーや歴史が込められています。
地域や部族によって固有のデザインには、それぞれの文化や伝説が秘められており、単なる敷物としての絨毯以上の意味を持っています。
こうした深いメッセージを理解しないまま、表面的な美しさや装飾性だけを価値判断の基準にしてしまうのは、ペルシャ絨毯の真の魅力を見逃すことになりかねません。
「ペルシャ絨毯を使う機会がない」という誤解もあるかもしれません。
伝統的な日本家屋の床は畳敷が一般的であり、ペルシャ絨毯のようなパイル絨毯が日常的に使われることはありませんでした。
しかし同じアジアのものだからか、ペルシャ絨毯は和式のインテリアにとてもよく合います。
和室にペルシャ絨毯を敷いた明治の人のセンスには脱帽しなければなりません。
多様化した現代の住宅においては、ペルシャ絨毯は敷物としてだけでなくアートとしての役割も果たし得ています。
既成概念に囚われてしまい、ペルシャ絨毯を選ぶ機会が少なくなるのは実に残念なことです。
加えて「ペルシャ絨毯は手入れが大変である」という誤解もあります。
確かに、ウールやシルクの絨毯は特別なケアが必要な場合がありますが、手入れが難しいというのは過剰な一般化です。
適切な掃除やメンテナンスを行えば、ペルシャ絨毯は長持ちします。
逆に言えば、適切な手入れをすることで、その美しさを長きにわたって保つことができ、価値も維持されるのです。
この点を理解せずに手入れが難しいと思い込み、ペルシャ絨毯の購入を避けるのは、単純に情報不足に起因する誤解です。
もう一つ「すべてのペルシャ絨毯は高価である」という思い込みも根強いようです。
日本には安価で大量生産された機械織絨毯が溢れているため、ペルシャ絨毯を手がけること自体が高いハードルとなります。
しかし、ペルシャ絨毯の市場は価格帯が多様であり、品質やサイズによって様々な選択肢が存在しています。
予算に応じて入手できるものも多く、必ずしも高価であるとは限りません。
このようにペルシャ絨毯を高価なものしかないと錯覚することは、より多くの選択肢を見逃すリスクを孕んでいます。
ペルシャ絨毯に対する日本人の勘違いは、主に情報不足や文化の違いから生じています。
これらの誤解を解消することができれば、ペルシャ絨毯の本当の魅力、即ちその豊かさやデザインの深さ、文化的背景に触れる機会が増え、さらには本物のアートと認識されることにより、より多くの日本人がこの素晴らしい伝統工芸品を享受できるようになるでしょう。
ペルシャ絨毯の伝統や歴史を理解できれば、日常生活の中で共にある喜びを味わう道を開くことが可能となるのです。
ペルシャ絨毯が日本のインテリアにさらなる深みを与え、人々の暮らしを豊かにする役割を果たすと信じて疑いません。

