ペルシャ絨毯の文化的価値
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今回はペルシャ絨毯が持つ文化的価値について掘り下げてゆこうと思います。
文化的価値とは、文化財や文化活動が人間社会に与える、精神的・社会的・歴史的な価値のことです。
精神的な価値とは人々に生きがいや精神的な充足感、共感、自己理解をもたらすもの。
社会的な価値とは、人と人との連帯感を生み出し、コミュニティ形成の土台となるもの。
歴史的な価値とは、特定の時代の生活様式、社会構造、技術水準などを物語るもののことです。
具体的には、歴史的景観資源に宿る生活や社会の姿、文学、芸術、道徳、政治などが持つ、人間を豊かにする普遍的な価値を指します。
まず第一に、ペルシャ絨毯は何世代にもわたって伝承されてきたイランの伝統工芸を代表する存在です。
イランの伝統工芸にはガラムカール(更紗)、ミナカーリー(ホーロー細工)、ミニアチュール(細密画)など様々なものがありますが、ペルシャ絨毯ほど知られたものはないでしょう。
ペルシャ絨毯の技術は職人たちによって代々受け継がれており、そのデザインは地域や時代によって異なります。
専門家は絨毯を見れば、いつ頃、どこの町や村で製作されたものかを判別できるのです。
個々の絨毯が地域特有の文化や歴史を物語る作品となっていることは、他の工芸品にはない特徴と言えます。
また、ペルシャ絨毯の文様には特定の意味が込められています。
植物や動物、幾何学図形など、多様なモチーフが使用されており、それぞれが自然や宇宙、宗教的なテーマに関連しているのは実に興味深いことです。
例えば、蓮の花は豊穣を、鳥は幸運を、八芒星は永遠を表すなどですが、それぞれの文様が持つ意味については【ペルシャ絨毯のデザイン(図柄、文様)】で解説していますので、ぜひそちらをご覧ください。
これらの文様はイラン人の持つ文化的な価値観や哲学、自然観を理解する手助けをしてくれます。
文様の意味を知ることで、新たな視点からペルシャ絨毯を見ることができるようになるでしょう。
ペルシャ絨毯は、コミュニティ内での社会的地位や富を示す象徴ともなってきたことにも触れなければなりません。
特に高品質なペルシャ絨毯は、贈答品や奉納品として使用されることも多く、コミュニティの結びつきを強める役割をも果たしていました。
ビクトリア・アルバート美術館が所蔵する「アルデビル絨毯」が、のちにサファヴィー朝を建国するに至ったサファヴィー神秘教団の教祖であるシェイフ・サフィ・ウッディーンの廟に奉納されていたものであることは有名です。
このようにペルシャ絨毯には、人々の生活や文化共同体の一部となってきた歴史があります。
さて、ペルシャ絨毯は国際的な交易品として、古くからシルクロードや海上航路を通じてヨーロッパ、アジアの国々へと運ばれてゆきました。
これは異文化交流の一環ともなり、その媒体たるペルシャ絨毯自体も他の文化の影響を受けることになります。
中国伝来の龍や鳳凰、帆船に乗ったヨーロッパ人がフィールドを飾り、ペルシャ絨毯はよりエキゾチックなものへと変化してゆきました。
こうした異文化交流の歴史は、やがてペルシャ絨毯が様々な国の人々に愛され、高く評価されることにも繋がっています。
ローマは一日にして成らずなのです。
そうした時代から何世紀かを経た今日においても、ペルシャ絨毯は文化的価値を持ち続けています。
アートとしての評価も高く、エルミタージュやメトロポリタンをはじめとする多くの美術館や個人コレクションに収蔵されています。
また、デザインのインスピレーションとしても利用され、現代のファッションデザインにおいても重要な役割を果たしています。
エルメスやグッチなどのスーパーブランドが、コレクションに採用したのは記憶に新しいところです。
また、幾多の音楽イベントでもペルシャ絨毯は登場し、インテリアの垣根を超えた活躍を見せるようになりました。
このようにペルシャ絨毯は歴史的な背景や文化的な意味を持つだけでなく、現代においてもなお影響を及ぼし続けています。
ペルシャ絨毯は豊かな歴史を持つ類い稀なる工芸品として、世界中で人気を得ています。
その悠久の歴史が生み出す文化的価値は計り知れません。
今日、イランを巡る情勢は悪化の一途を辿っています。
それは政治的な齟齬のみにあらず、イランが欧米とは異なる文化を持った「未知なる国」であることも理由かもしれません。
人々がペルシャ絨毯を通じてイランの文化を知り、それを次世代に伝えてゆくことは、ペルシャ絨毯の文化的価値を世に広めるだけでなく、イランという国を理解することに繋がるものと信じてやみません。

