人気上昇中のペルシャ絨毯「クム・ウール」

人気上昇中のペルシャ絨毯「クム・ウール」

オールシルクシルクで有名なクム産のペルシャ絨毯ですが、その生産量は少なくなっています。
イランでシルクのペルシャ絨毯の生産数が減少している理由は、複数の要因が複合的に絡み合っています。
まず、シルク自体の入手が難しくなっていることが大きな理由です。
高品質のシルクはコストがかかり、イラン国内での生産量が減少しているため、材料を確保することが難しくなっています。

また、国際的な輸出規制や政治的な経済情勢が影響を及ぼし、シルクの輸入が制限されることも、入手難を助長しています。
さらに、シルクのペルシャ絨毯に対する需要は高いものの、トルコやインド、アフガニスタンといった他国の競合が激化しており、これらの国でも高品質な絨毯が生産されていて、価格やデザインの面でイランの絨毯に対抗される状況が生まれています。
その結果、イランのシルク絨毯の価格が他国に比べて高くなり、消費者が選択肢を広げる中で需要が減少しています。

加えて、熟練した職人が減少している問題も深刻です。
若者は安定した職を求めて都市部に移住する傾向が強まり、伝統的な技術を学ぶ人材が不足しているため、製作技術の継承が難しくなっています。
さらに、イラン経済は国際的な経済制裁の影響を受けており、資源がばら撒かれた状態に制限がかかっているため、特に高級品の生産となると製造コストが上昇し、企業や職人が利益を上げるのが難しくなります。

このような経済的な背景が、シルク製品の生産数減少に拍車をかけているのです。
また、消費者の好みの変化も重要な要因であり、現代の消費者はデザインやスタイルに多様な好みを持つため、伝統的なペルシャ絨毯に対する需要は減少し、代わりに低価格のアイテムや異なる文化圏からの影響を受けた製品が人気を博しています。
これらすべての要因が重なり合い、イランにおけるシルクのペルシャ絨毯の生産数が減少している現状は、ペルシャ絨毯文化への危機感を生んでおり、その美しさと伝統を保つための新たな取り組みが求められています。

そんな中、最近注目されているのがクム産のウール絨毯、いわゆる「クム・ウール」です。
クムウールは、その卓越した品質、デザイン、製作技術など、さまざまな要素が融合し、独自の存在感を生み出しています。
クムでペルシャ絨毯の生産が始まったのは1930年代後半のことといわれます。
クムに工房を構えたカシャーンの絨毯商たちは、ウール絨毯の製作を始めました。

クムでラシュティザデやアロサロニ、ラジャビアンらがシルク絨毯を製作し始めるのは1960年代のことですから、それまではシルク絨毯といえばカシャーン産が有名でした。
生産比が逆転するのは1980年代に入ってからのことで、クム産のシルク絨毯、いわゆる「クム・シルク」はカシャーン産のシルク絨毯だけでなくクム・ウールをも圧倒し、その存在を世界に知らしめることになったのです。

クム・シルクはバブル景気に沸く日本やアラブの産油国などで人気となりますが、その成功の影には新興産地ならならではの既成概念に囚われない自由さがあったことは否めないでしょう。
シルクという素材が成金嗜好の日本人やアラブ人の心を捕らえたのも疑いようがありません。
クム・シルクの人気の高まりと反比例するようにクム・ウールは姿を消してゆきました。

再びクム・ウールの生産が始まった理由はもちろんイラン絨毯業界が抱える経済的問題によるものですが、これによりクムの絨毯職人たちのクラフトマンシップが掻き立てられることになるのは大いに歓迎されるべきことでしょう。
近年のクム・シルクに見られた伝統を無視したコンピュータグラフィックスへの傾倒は、どう見ても「行き過ぎ」でした。
産業の停滞が原点に回帰するきっかけとなったのは、まさに不幸中の幸いです。

クム産ペルシャ絨毯の原点でもあるクム・ウールですが、それが如何なるものなのかについて解説してゆきましょう。
まず、クムウールには高品質なウールが使用されています。
このウールは、クム地域特有の気候や環境で育てられた羊から取られたもので、柔らかく、耐久性に優れています。
高品質なウールの使用は、クムウールの魅力の一部であり、その質感は温かみがあり直接踏んでも心地よい感覚を与えます。
また、ウールは湿気を吸収する特性があり、室内環境を快適に保つのにも役立ちます。
さらには、シルクが混ぜられることもあり、これにより光沢感がプラスされ、さらに豪華な印象を与えます。

次に、クムウールのデザインは非常に精巧で、文化的な要素が色濃く反映されています。
模様には幾何学式や植物のモチーフが広がり、デザインは視覚的な美しさだけでなく、地域の文化や伝統を物語るものでもあります。
例えば、地域に根ざした神話や伝説が描かれることがあり、これによって見る者に歴史やストーリーを伝えます。
鮮やかな色彩も特長で、天然の植物や鉱物から抽出された染料が用いられ、深みのある美しい色合いが実現されています。
このように、色使いも地域の特徴を反映しており、ここでも文化的な意義が感じ取れます。

クムウールの製作には、高度な手織り技術が求められ、熟練した職人たちが手作業で一つ一つ丁寧に織り上げています。
ノットの結び方は非常に緻密で、これによって絨毯は高い耐久性と美しさを兼ね備えます。
これは、一般的な機械織りの製品にはない、手作業の特別感や品質をもたらす要因となり、ペルシャ絨毯の真髄がここに詰まっています。

また、クムウールは利用シーンが非常に多彩です。
家庭のインテリアとしてはもちろん、商業スペースや公共施設での装飾にも適しており、機能的な美しさを持っています。
個々のニーズに合わせたデザインやサイズが用意されているため、特定の空間にマッチするオーダーメイドの絨毯を作成することも可能です。
これにより、クムウールはデザインの多様性と実用性を兼ね備えた存在となり、さまざまなスタイルやプロジェクトに合わせて活用されます。

最近では、クムウールの価値が特に高まっており、絨毯収集家やアート愛好者の間で需要が増しています。
高級質感とデザインの多様性により、コレクターたちにとって魅力的なアイテムとなっており、購入の際はそのデザインや質に注目されることが一般的です。
現代においても、クムウールは伝統を尊重しつつ、新しいスタイルやデザイン要素を取り入れ続けており、ますます多くの人々を惹きつける存在として、ペルシャ絨毯市場で重要な役割を果たしています。

最後に、クムウールは単なる装飾品ではなく、その製作過程やデザインに込められた職人の思いや地域の文化が深く反映された芸術作品となっています。
絨毯を生み出す過程には、その地域の家族やコミュニティの絆が表現されており、製作された絨毯には職人たちの情熱や誇りが込められています。
これにより、クムウールは見る者に視覚的な喜びを与えるだけでなく、深い感動や文化的理解を与えるものとして、長きにわたり愛され続けることでしょう。

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