樹木を描いたペルシャ絨毯

樹木を描いたペルシャ絨毯

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ペルシャ絨毯の主要なパターンや文様の中でも、樹木は最も特別なものの一つです。
樹木には文化、信念、夢、信条、宗教的信念などの意味が込められているのをご存じでしょうか?
それらはペルシャ絨毯のデザインを語る上で大切な要素であり、今日に至るまで変わることなく受け継がれています。
ペルシャ絨毯の主要なパターンや文様の中でも、樹木は最も特別なものの一つと言えるでしょう。

本題に入る前にペルシャ絨毯のデザインにおけるパターンと文様について解説しておかなければなりません。
パターンと文様は一般には同じ意味合いで使われますが、ペルシャ絨毯では異なります。
パターンがデザインの主題を指すのに対し、文様はデザインを構成する要素を指します。
つまりパターンは文様によって成り立っているということです。
樹木パターンとは、その名のとおり樹木を主題とするデザインですが、それには樹木文様が用いられることが必須です。
しかし、樹木文様が必ずしも樹木パターンを構成するとは限らず、他のパターンにもこの文様が用いられることは多々あります。
つまり樹木文様は樹木パターンの必要条件ではあっても、必要十分条件ではないということです。

樹木は世界各地の様々な文化において独自の象徴的な意味を持っています。
そして、それはイランや他の国々の美術工芸において最も古く、最もよく使われているものの一つです。
どこの国でも樹木は、幸運、健康、吉兆、幸福、繁栄と卓越性、独創性の象徴となっていますが、とりわけ東洋においては、神聖さも兼ね備えています。
それゆえ樹木文様は、絨毯だけでなく陶器、織物、絵画、岩面彫刻、彫刻などあらゆる美術工芸に使用されているのです。

さて、樹木は象徴学においても最も意味のあるモチーフの1つとされています。
象徴学とは、抽象的な概念や感情を具体的な形や事物に置き換えて表現する「象徴」(シンボル)の意味や機能、体系を研究する学問分野です。
大衆文学における樹木の概念は、これを人間の生活に結び付け、人間と樹木の間に共通項を見出そうとしています。
神話や説話では樹木は若さ、豊かさ、調和などの象徴であり、これらはすべて人間の属性でもあります。
つまり、樹木を生きた知的な存在であると捉えているのです。
それを具象化したものが「生命の樹」です。
それでは生命の樹とはどのようなもので、何を意味するものなのでしょうか?

生命の樹は最古の伝説上の植物で、不死と不滅の象徴とされています。
パラダイスにあり、誰の手も届かないところにある樹。
人々はこの樹を見つけるために過酷な旅に挑みます。
木の葉や果実、さらには樹液を手に入れて不死を達成するために神や自然と戦うのです。
ゾロアスター教ではハム・ツリー、イスラム教ではシャジュレ・トゥビと呼ばれる生命の樹は「宇宙の樹」とも称され、祝福、誕生、健康、強さ、癒し、そして不死を与えるものとされています。
生命の樹は文化が異なれば意味や姿が若干異なりますが、基本的な部分は同じです。
太い幹、幹の両側に伸びる枝、先端にある花々が生命の木の視覚的特徴と言えます。

ペルシャ絨毯に用いられる樹木には糸杉、椰子の木、柘榴の木、葡萄の木、オリーブの木などがあります。
ときに木の葉の間に果実が見えたり、鳥や動物の姿が見えることもあります。
また樹木がミフラブと組み合わされて、新たなデザインが形成されることもあります。
ミフラブとはモスクメッカの方向に設けられた壁龕(へきがん)のことで、イスラム教徒にとっては天界への入口を意味するものです。
霊性の象徴であるミフラブの中央に置かれた樹木は、パラダイスにある生命の樹を連想させます。

樹木とともに、青または青緑色の池が描かれることもあります。
このデザインは最も人気のある樹木パターンの1つで、1世紀以上にわたる歴史を持っています。
ケルマン州のラバーで生命の樹が初めてペルシャ絨毯のデザインに採用され、のちにカシャーン、イスファハン、タブリーズ、テヘラン、クムなどで多用されるようになりました。
ペルシャ絨毯のデザインは、複数の大小の樹木が隣り合ってデザインを形成するような場合があります。
場合によっては、2本の樹糸木が中央に置かれたメダリオンを貫通することもあります。

糸杉はペルシャ絨毯のデザインにおいて、最も頻繁に登場する樹木の1つです。
糸杉はイラン人にとって聖なるシンボルです。
ペルシャ語で「シャーバン」と呼ばれます。
この樹は針状の樹皮と長い葉を持つ円錐形の木です。
糸杉の最大の特徴は常緑樹であることです。
糸杉は気象条件や風に強く、立っていること、緑、抵抗、自由の象徴です。
糸杉を神聖なものとする思想は、エラム、アッシリア、そしてアケメネス朝の時代にまで遡ります。
それはダリオス1世の岩面彫刻における杉の役割からも分かります。
樹木文様の中でも糸杉が使用されている場合、そのデザインは別に扱われることが多いようです。
それは糸杉が樹木の中でも特別な存在であることを意味します。

ペルシャ絨毯には昔から今に至るまで、木の模様や柄が必ず登場します。
かつては手織絨毯にしかなかったパターンですが、最近では機械織絨毯にもこのパターンが採用されています。

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