ペルシャ絨毯をめぐる事件(欧米編)

ペルシャ絨毯をめぐる事件(欧米編)

ペルシャ絨毯をめぐる事件(欧米編)

[第 話]

前回のペルシャ絨毯をめぐる事件(イラン編)に続き、今回はヨーロッパとアメリカで起きた事件を紹介します。
かつて、タブリーズの著名な絨毯作家であるアリー・ハサン・アラバフの最高傑作が、東京のペルシャ絨毯専門店から盗まれたことがありました。
ここで紹介するいくつかに似た事件は、わが国においても実際に発生しているのです。
前回同様、注意喚起を促すために事件について記すことにします。

事件1
2013年にドイツで起きた事件です。
13名のメンバーからなるロマ(ジプシー)のグループが詐欺の容疑で指名手配されました。
被害者は高齢者ばかりで、犯行グループはオーバーエスターライヒ州とシュタイアーマルク州で少なくとも57件の詐欺行為を働き、50万ユーロ以上の被害を与えたとされます。
20歳から51歳までの13名は、同じ手口による犯行を繰り返していました。
グループは、まず正式な営業許可を得て絨毯クリーニング店をオープンし、相場を遥かに下回る料金で大々的に新聞広告を掲載するとともに広告物を配布。
クリーニングの依頼を受けるたびに、表面だけを洗ったり、とりわけ高級なペルシャ絨毯についてはよく似た安物の絨毯とすり替えて客に納品していました。
60歳代から90歳代までの被害者たちは、絨毯がすり替えられていることに気づかなかったといいます。
また「これは凄く価値のあるペルシャ絨毯だから」と言って法外な追加料金を請求することもあったようです。
客の中には彼らを家から追い出すためだけに料金を支払った者もいました。
詐欺師らに2万1500ユーロを盗まれた老婦人は、お金を引き出すためにすぐに3人の男に銀行まで車で連れて行かれたといいます。
しかし、1万5000ユーロを受け取るはずだった別の被害者については、銀行員らが不審に思い、警察に行くよう勧めたことにより事件が発覚しました。
捜査官がリンツの店舗を訪れた翌日、容疑者たちは跡形もなく姿を消しました。
翌月、彼らはクニッテルフェルトに新しい店をオープンしました。

事件2
2014年にアメリカで起きた事件です。
カンザスシティの不動産開発業者デビッド・クリスティとマラナサ夫妻は、ノッティ・ラグに対して2万8000ドルの返還訴訟を起こしています。
クリスティ夫妻がジョンソン郡地方裁判所に提出した訴状によると、夫妻は2014年のクリスマスの数日前にアンティークのペルシャ絨毯にその金額を支払いました。
後に専門家から、「絨毯はアンティークではなく、イラン製でない可能性さえあり、古く見えるように手が加えられているようだ」と言われたとのことです。
この訴訟では、ノッティ・ラグのオーナーのダレル・ウィンゴ氏、従業員のフランク・オブジ氏が被告となっています。 塗装請負業者だったウィンゴ氏は、顧客から絨毯探しの相談を受けたことをきっかけに、2003年にカンザスシティでノッティ・ラグを開業しました。
訴状によると、ノッティ・ラグは、2014年9月に3万9258.75ドルで購入した14枚の絨毯と、同年12月に購入したペルシャ絨毯について「虚偽の表示を行った」とされています。
ウィンゴ氏は従業員の対応を支持するだけでなく、夫婦がそれほど多額のお金を使ったことを否定しました。
クリスティ夫妻は「ノッティ・ラグの従業員は、店で結び目を見せるために絨毯をひっくり返すことすらしなかった」と言います。
また取引を通じて、絨毯の価格は変化し続けたようです。
この絨毯には当初2万2000ドルの値札が付いていました。
ところが、2014年12月23日には3万5000ドルになっており、夫妻は結局2万8000ドルを支払いました。
価格が上がった理由を尋ねたところ、従業員は最初の価格は間違いだったとし、「この絨毯は150年前のヘリズで極めて希少であり、それだけの価値があるのだ」と述べたそうです。
クリスティ夫妻はまた、「敷物はかなり使い古されているため、より価値がある」とも言われたとしています。
その後、ノッティー・ラグのオブジ氏が夫妻に、同じような絨毯がドイツのオークションで9万5000ドルで落札されたとメールを送ってきましたが、それを裏付ける証拠は一度も示されませんでした。
更に「自分たちが販売した絨毯はニューヨークで最大15万ドルの値が付いている」とし、「そのような宝物を見つけられたのは幸運だった」と告げたといいます。
訴訟に際しノッティ・ラグ側は、「私たちは(絨毯について)すべてを知っている訳ではないので、仕入先の言ったことを信じる」と述べています。

事件3
2018年にアメリカで起きた事件です。
ニューヨーク市でアンティークのペルシャ絨毯が盗まれました。
標的にされたのは20世紀初頭にカシャーンで製作されたペルシャ絨毯の名品です。
中央のメダリオンの周囲を複雑な花文様で飾られたこの絨毯は、美しさはもちろん、歴史的かつ文化的な面からも貴重なものでした。
こうしたアンティーク絨毯の名品は、イランの歴史的遺産の一つとして高い評価を受けており、この事件はアメリカの愛好家やコレクターたちに強い衝撃を与えたのです。
2018年のある冬の夜、犯人は闇に紛れて、この絨毯を保管していた倉庫に侵入。
防犯装置を巧みにかわし、この貴重なペルシャ絨毯を持ち去りました。
犯人はどうやらその道のプロのようです。
盗難が発覚すると、ニューヨーク市警は直ちに捜査を開始します。
監視カメラの映像、現場に残された痕跡、目撃証言が集められましたが、時が経つにつれ手がかりは薄れてゆきました。
警察による懸命な捜査も虚しく、絨毯はいまだ見つかっていません。

事件4
2019年にマルタで起きた事件です。
ポルトガル人の兄弟2人が、富裕層に偽物のペルシャ絨毯を売りつけたという詐欺の容疑で逮捕・起訴されました。
2人は著名人らをターゲットにし、機械織の絨毯を手織のペルシャ絨毯であると偽り、法外な値段で販売したとされます。
警察は犯人の領収書控えから、数人が詐欺の被害に遭っており、騙し取られたとされる金額は数千ドルに上ることを明らかにしました。
捜査の過程で、ポルトガルの銀行を通じて第三者に複数の支払いが行われたことも確認したとのことです。
兄弟は、犯罪の共謀、5000ユーロ以上の詐欺、付加価値税領収書の提出を怠った、登録なしで付加価値税が課税されるサービスを行ったなどの罪で起訴されました。
兄弟のうち1人は、偽造運転免許証を使用した疑いでも起訴されました。

事件5
2019年にフランスで起きた事件です。
偽物のペルシャ絨毯を販売したとしたとして、警察は80代の夫婦を詐欺の容疑で逮捕しました。
夫婦は5000ユーロ相当のペルシャ絨毯を半額で提供するとして87歳の女性を執拗に勧誘。
被害者は電話による執拗な勧誘に屈し、2000ユーロを小切手で支払いましたが、やりとりを知った娘が警察に通報したことで事件が発覚しました。
2人はパウ在住のペルシャ絨毯専門店の店主から顧客の個人情報を盗み、店主が死去したので相続したペルシャ絨毯を処分していると嘘をついて犯行を繰り返していました。
専門家によると、販売された絨毯は150ユーロにも満たない機械織絨毯であったといいます。

事件6
2020年にフランスで起きた事件です。
絨毯販売業を営む男が詐欺の容疑で逮捕されました。
マイエンヌ県ラヴァル出身のこの男には、客の無知につけ込み、偽物のペルシャ絨毯を本物であると偽って販売した容疑がかかっています。
警察の調べによると、娘の結婚式の資金に困った容疑者は、カーニュ・シュル・メール在住の86歳の女性にペルシャ絨毯を販売しました。
専門家が鑑定したところ、この絨毯はほとんど価値のない機械織の安物であったといいます。

事件7
2020年にフランスで起きた事件です。
偽物のロダンの彫刻やペルシャ絨毯を本物と偽って販売したとして、犯行グループ16名がマルセイユ署に逮捕されました。
彼らは資産家に近づいては美術工芸品の購入を持ちかけ、2年間で約10人から1500万ユーロを騙し取っていました。
偽物の中には、ロダンやカミーユ・クローデルの署名が入った青銅や象牙の彫像もあったといいます。
犯行グループは南フランス、ジロンド、パリで逮捕され、アジトからは12万ユーロ以上の現金、70万ユーロ以上が入った通帳、金の延べ棒3本、ダイヤモンド、高級時計や宝石、キャラバンや車両を含む数台の車両が見つかりました。

事件8
2022年にドイツで起きた事件です。
絨毯販売業者を名乗る者からの突然の電話や訪問が相次いでおり、警察は事件に巻き込まれる可能性があるとして注意を呼びかけています。
彼らは相手のことを以前の営業から知っているとして電話をよこし、事業を辞めて海外に移住したいと考えているため、直接別れを告げてペルシャ絨毯をプレゼントしたいとも言いました。
被害者が断っても、電話の発信者は数分間にわたって彼らを説得し続けたといいます。
ある例では絨毯販売業者の息子と名乗る男が玄関前に立っており、ドアを挟んでのやり取りがありました。
既に警察に通報していたため、警察の指示に従いドアを開けなかったそうです。
警察は、そのような業者から絨毯を購入してしまった場合は、業者から返金を求めることができるとし、それ以外の場合は無視するか、必要に応じて警察に通報するようアドバイスしています。

このような事件は、あなたの周りでも十分に起こり得るものです。
とりわけ、質の劣るマラゲ産の絨毯をクムの○○工房の作品と偽って販売するような詐欺的商法は、日常茶飯事的に行われています。
九州のとある県ではカシャーン産のシルク絨毯として購入した絨毯が、マラゲ産であったことが判明して訴訟にまで発展したと聞きました。
こうした事実があることを知っておけば、被害に遭う可能性は低くなるはずです。

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