農村部のペルシャ絨毯の魅力を知る
地方へのIターンやキャンプブームなどは何よりもの表れでしょう。
そうした趣向はインテリアについても同様で、田舎の生活に憧れる人たちはカントリースタイルのインテリアを採り入れることが多くなっているようです。
カントリースタイルのインテリアにとって、絨毯はなくてはならないものの一つといえます。
カントリースタイルのインテリアにはゴージャスな都市部のペルシャ絨毯は合いません。
ギャッベなどのトライバルラグもよいのですが、お勧めしたいのはイランの農村部で製作されるペルシャ絨毯、いわゆるビレッジラグです。
トライバルラグについては最近知られるようになってきましたが、ビレッジラグについて知る人はいまだ多くありません。
イランのビレッジラグにはトライバルラグ同様、ユニークなものがたくさんあります。
トライバルラグの素朴さを残しつつ、都市部のペルシャ絨毯の要素も採り入れたもの、それがビレッジラグなのです。
ビレッジラグは、いわばカントリースタイルの絨毯であり、カントリースタイルのインテリアにこれほど合うものはありません。
一般にイランの農村部の家は簡素で家具は数個を超えず、絨毯はインテリアを構成する最も重要なものとなっています。
母屋のほかに離れが建てられることも多く、一家の女性たちはそこで絨毯を織っては自分たちで使用したり、販売して現金収入を得たりするのです。
ビレッジラグは基本的にウールと木綿の繊維で織られており、それぞれの地域ならではの特徴があります。
畜産業や農業を生業にする定住民たちは、副業として絨毯を織ることを考えるようになりました。
しかし、テント暮らしの遊牧民とは違い、家の中に水平型織機を設置するスペースはありません。その問題を解決するために、竪型織機が導入されます。
竪型織機の導入は作業期間を短縮させ、より多くの収入を得る手段として効果的でした。
こうして続々と生産されたビレッジラグは、ペルシャ絨毯の一つのスタイルとして確立されるに至ったのです。
ビレッジラグのデザインは、遊牧民または半遊牧民である前の世代から継承されたものが多く、様々なパターンや文様が見られます。
トライバルラグは織手のイメージに基づいてデザインされていましたが、ビレッジラグでは意匠図もしくは「ワギレ」と呼ばれる織見本が使用され、これにより作業の効率化が図られました。
また、遊牧民は都市へのアクセスが容易ではなかったため、トライバルラグに使用される色は6色から8色に限られていました。
しかし、ビレッジラグでは色数は8色から12色に増えています。
糸が太いため、複雑なデザインを表現することはできませんが、一般に使用されているウールの質は高いといえるでしょう。
ビレッジラグにはペルシャ結びを用いて製作されているものが多いのですが、縦糸の重なり方には二つのタイプがあります。
一つは、縦糸が上下に完全に重なるダブル・ノットです。
このタイプの結び目は、主に都市部で使用されており、高い強度を持っています。
もう一つは縦糸が半分だけ重なるセミ・ダブル・ノットです。
この結び方はダブル・ノットほどの強度はありませんが、ほとんどの村では遊牧民時代からの伝統として、このセミ・ダブル・ノットが用いられています。
サイズはドザール(約200cm×約140cm)以下のものが多く、6平米を超えるものはあまりありません。
上下あるいは左右の寸法に違いが認められるものもありますが、都市部のペルシャ絨毯ほど品質管理が徹底していないビレッジラグでは、ごく当たり前のことです。
よってビレッジラグを購入する場合は、あまり神経質にならないようにしてください。
ビレッジラグは、例えばネハーバンド、マラヤー、トイセルカン、ダルジェジンなどの産地ごとによる特徴が顕著であり、ハマダンのペルシャ絨毯バザールでは、これらの村々で製作された個性豊かなビレッジラグを目にすることができます。
そんなビレッジラグですが、生産量は年々減少しているという現実を知っておかなければなりません。
一部の村では都市部の絨毯作家の注文を受けて、有名な町のデザインのペルシャ絨毯を製作するケースも見られるようになっています。
統計によると、イランの農村部には絨毯織りに従事する者が約45万人おり、この仕事で生計を立てている家庭も少なくないといいます。
最近、政府機関が地方の絨毯織り業者に無利子融資を与えて支援しようと計画していることが明らかになりました。
これが実現すれば、農村部における絨毯産業の衰退を緩和できる可能性があります。
ともあれ、ビレッジラグはトライバルラグ同様、その素朴な美しさだけでなく、独特の文化や歴史を感じさせるのが何よりもの魅力です。
カントリースタイルのインテリアだけでなく、モダンやクラシカルなインテリアにもよく合い、安価でもあるため、欧米では高い人気を博しています