ペルシャ絨毯展示販売会での話

ペルシャ絨毯展示販売会での話

ペルシャ絨毯展示販売会での話

[第 話]

取引先の販売応援で都内の百貨店で開催されたペルシャ絨毯展示会に行ったところ、トルコのシルク絨毯を探しているというお客様がいらっしゃいました。

「国内でトルコのシルク絨毯を取り扱っているところはほとんどなくなっているし、いまでは多くが中国からの輸入品になっているというのが業界内の常識ですから、気をつけた方がいいですよ」と申しあげたところ、「そんなことはありません。私は見てきました。全部トルコで作っています!」とムキになっておっしゃるので、それ以上は何も言いませんでした。
おそらくトルコ行きのツアーに参加して、イスタンブールやカッパドキアの絨毯屋で製作実演でもご覧になったのでしょう。
トルコ旅行に行った年配の方にはこのような人が随分と多くて閉口してしまいます。
あげく現地で聞いてきた絨毯の話を延々と聞かされたりで……こちらは曲がりなりにもプロなのですから、おっしゃるようなことは百も承知しているのですが、如何にも教えてやっているのだから、ありがたく思えみたいな態度なので苦笑いさえ出てしまいます。

現地の絨毯屋から聞いた「子供の小さな指でしか織れない」だの「織りあがったときには目が見えなくなっている」だのといったインチキ話を疑いもなく信じた上、あちらこちらで吹聴しているのがこうした人たちなのですね。
製作実演を見たぐらいで、全部トルコで織っているなどとよく断言できるものだと感心さえしてしまいますが、日本語を巧みに操る現地のトルコ人にすっかり洗脳されてしまっているのでしょう。
こんな人たちがいる限りは日本人をターゲットにしているトルコの絨毯屋は安泰なのかもしれません。
以前、中国鎮平の絨毯業者から(勝手に)大量の写真がメールで送られてきたのですが、昔と違って、いまのヘレケ産のコピー品はとてもよくできています。
もはや写真だけでは判別できないほどです。
その絨毯業者曰く「現在トルコで販売されているシルク絨毯の約80%は当社で製作したものです」。
写真にはヘレケ産もあればカイセリ産もありました。
もちろん、すべてコピー品です。
写真には絨毯とともに、はっきりと中国人と分かるる人物が何人も写っていました。

実はイランでも同じようなことがあります。
カシュガイの一部の人たちは「遊牧民ビジネス」というのをやっていて、遊牧民ツアーで訪れた人たちに昔ながらの生活を見せるのを生業としています。
テントの中で紅茶を振る舞ったり、紡錘で糸を紡いだり、ギャッベを織っているところを見せたりと、言ってみれば北海道のアイヌ村のようなものなのですが、それを信じてしまう人がいるのです。
そうした人たちは「ギャッベは遊牧民が織っている。自分は織っているとこころを見た!」などと言い始めるのですね。
21世紀のいま、遊牧民たちはバイクや軽トラで移動するのが普通になっています。
いまどきラクダに乗って移動しているなどといいのは、日本人の男性が刀を差しているというのと同じで時代錯誤も甚だしい訳です。
一度、見たぐらいで、すべてがそうだと決めつけてしまうのは如何なものでしょうか。

ペルシャ絨毯と関わるようになってから30年近くが経ちますが、まだまだわからないことばかりでペルシャ絨毯の奥の深さを痛感する毎日です。
もし、デモンストレーションを見ただけですべてがわかってしまうような超能力をお持ちなら、ぜひ伝授していただきたいものです(笑)。

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