シャリキャト工房のペルシャ絨毯?

シャリキャト工房のペルシャ絨毯?

シャリキャト工房のペルシャ絨毯?

[第 話]

最近、お客様から「シャリキャト工房」(あるいは「シャリキャット工房」)についてお尋ねいただくことが増えてきました。
どこかのサイトに掲載されているのだと思いますが、結論から言えばシャリキャト工房というのはICC、つまりイラン絨毯会社のことです。

ICCはIran Carpet Companyの略で、ペルシャ語ではシャリキャテ・セハーミーイェ・ファルシェ・イーラーン。
シャリキャト=会社、セハーミー=株式、ファルシュ=絨毯、イーラーン=イランですから、正確にはイラン絨毯株式会社となります。
シャリキャ”ト”がシャリキャ”テ”と変化するのはペルシャ語では名詞もしくは形容詞が別の名詞を修飾する際、修飾される名詞の語尾に-eもしくは-iを付けるからです。
母音の後ろではさらに-y-を加えて-yeなどの形にするのですが、この法則をエザーフェと言います。
ですから、例えば日本石油株式会社ならシュリキャテ・セハーミーイェ・ナフテ・ジャーポンになります。
ペルシャ語の解説はまたの機会に譲るとして、シャリキャト工房などと呼んでのはペルシャ語をまったく理解していない日本人ならではでしょう。
「会社工房」とはおかしなものです。
イランではシャリキャテ・ファルシュもしくはシャリキャテ・バフト(製織会社)と呼ぶのが普通です。

それに似た話で「べナム工房」というのがあります。
べナムというのはタブリーズの絨毯デザイナーであるモハンマド ・べナムのことなのでしょうが、彼はデザイナーであって絨毯作家ではありません。
実際に彼の名前は、例えば「タルハ・べナム、トゥーリード・○○」と織り込まれているはずです。
タルハはペルシャ語で「デザイン」のこと、トゥーリードは「製作」のことです。
名前の前にちゃんとデザインと書いてあります。
つまりデザインはべナムがして、製作は○○がしたということなのです。
○○は△△になったり□□になったりします。
これは他の産地でも同じで、イスファハンのアフマド・アルチャングはセーラフィアンのデザインも手掛けていたし、ハギーギのデザインも手掛けていました。
ただし、絨毯作家の名前とともにデザイナーの名前を織り込むのはタブリーズだけで、他の産地においてはそうした例は稀です。

もっと酷いのになると「こちらはクムのサーベ工房で製作された最高級のシルク絨毯です」などと説明している絨毯屋がいます。
サーベというのはクムの北西にある町で、かつてはクムのウール絨毯に似た、むしろそれよりも質の高い絨毯を製作していました。
いまはクムに居を構えているマスミが、以前サーベで絨毯を製作していたことはよく知られています。
最近ではラフシャニなどの絨毯作家が、マスミの作品に似た高品質なシルク絨毯を製作していました。
これらサーベで製作されたシルク絨毯には「サーベ・○○」と記された銘が織り込まれているのですが、サーベは地名であって人名ではありません。
そもそもクムとサーベは別の町です。
クムはクム州、サーベはマルカジ州と、属する州さえも違います。
これなどは「東京の埼玉工房で製作された作品です」と言っているようなもので、意味が分かりません。
サーベではシャーサバンの一派が絨毯やソマックを製作していて、そうしたことでもサーベは有名です。
サーベを知らないようでは絨毯屋として失格です。

揚げ足を取るつもりは毛頭ないのですが、こういう絨毯屋に限って、ありもしない美辞麗句を並べ立てて消費者の購買意欲を煽ろうとしています。
ここではお客様への注意喚起の意味から敢えて採りあげた次第です。
イランには絨毯工房は星の数ほどもあります。
これが意味するのは一部の超一流工房を除くと、工房名など、あまり意味を持たないということです。
ペルシャ絨毯の価値は工房名ではなく、あくまで内容にあることを忘れないでください。

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