模倣されるケルマンのペルシャ絨毯
[第 話]
ペルシャ絨毯の全生産量の90%が輸出用ですが、イラン政府の無為無策により、ペルシャ絨毯の輸出額は過去10年間で年間5億ドルから5000万ドルにまで減少しています。
かつてケルマンのペルシャ絨毯は、その品質の高さや多様なデザインにより世界的に有名でした。
しかし、ケルマン州は長年にわたる深刻な不況に見舞われており、絨毯産業への影響が深刻となっています。
やがてケルマン絨毯は姿を消し、博物館でしか見ることができなくなるかもしれません。
政府の統計によると、ケルマン州には現在7万2000人の織工がおり、そのうち5万500人が絨毯織りのライセンスを持っているとされます。
しかし、この数字に同州で絨毯産業に携わる人たちは疑問を抱きます。
ケルマン州の絨毯作家の一人であるシャハラム・ヴァジリ氏は、「もし州内に7万2千人の織工がいて、各々が年間少なくとも3平方メートルを織っていれば、年間21万平方メートルの絨毯が生産されることになるが、そのようなことはあり得ない」と語ります。
ケルマンの絨毯店にある絨毯の3割以上が他の都市で生産されていることも考えられます。
現在、ヤズドとイスファハンはケルマン絨毯を製作しています。
イランで最も多くの生産量を誇るマシャドでは、織工の多くがケルマン絨毯のデザインを用いた絨毯を製作しています。
ケルマンの絨毯産業は長い歴史を持ち、ケルマン絨毯は世界中の多くの美術館の東洋美術部門で最も価値のある作品として展示されています。
研究者、芸術家、大学教授であるアキール・シスタニ博士は、「イラン、そして時には世界中にあるが、今日ではこの国の州の中でも最後の部類に入る。絨毯産業が抱えるの諸問題に対する真剣な関心が欠如しているため、ケルマン絨毯は過去のような地位、商業的優位性を失っている」と言います。
彼によると、現在のケルマン絨毯の課題の一つは、今日の市場のニーズや好みに合わせて生産されておらず、その生産に創造性や革新性がないことです。
国内外の絨毯業者がブランド化が進めているにもかかわらず、ケルマンでは何らの措置も講じられていません。
シスタニ博士によれば、インド、トルコ、中国、パキスタン、アフガニスタンは、世界市場におけるペルシャ絨毯の古くからの競合国であり、更に近年、エジプト、ルーマニア、ネパール、モロッコ、ブルガリアなどが加わり、計画的に高品質の絨毯が生産されています。
現在ではインドが絨毯の輸出で世界第一位となっています。
ケルマンには長い絨毯織りの歴史があるにもかかわらず、効率的な生産体系や、産業振興のための組織はないままです。
かつてケルマン絨毯には様々なデザインがありましたが、残念ながらその記録は残されていません。
そしてケルマン絨毯はもちろんのこと、ペルシャ絨毯のデザインが他国に盗用されているという現状があります。
シスタニ教授は「競合国がペルシャ絨毯のデザインを使って絨毯を生産するようになり、わが国の絨毯産業に大きな損害を与えた。さらにイランのいくつかの都市では、ケルマン絨毯のデザインをコピーした絨毯を製作している。これらのデザインを保護する一つの方法は博物館に保存することだが、残念ながらケルマン市にもケルマン州にもまだ絨毯博物館はない」と言います。
ペルシャ絨毯のマーケティングに関して行われた調査によれば、顧客の趣向に対する情報が欠如しているなどの弱点が明らかであり、そのため市場のニーズにあった製品が供給されていないといった問題が生じています。
ある絨毯作家は、ケルマン絨毯のデザインに多様性がないことがこの産地の弱点の一つであるとし、「顧客の好みに合わせてデザインが変更されていないため、人々は多くの色柄を取り揃えた機械織絨毯を購入するようになった」と語りました。
外国人顧客の趣向に注意を払っていないこと、マーケティングに基づく生産計画が行われていないこと、市場のニーズに対する情報を把握していないこと、国際的な展示会に参加していないことなどが、販売不振を招いている主な原因のようです。
残念ながらイランとケルマン州のマーケティングの手法は科学的でなく、旧態依然としたままです。
今日の市場におけるケルマン絨毯の知名度を上げるためには、従来とは異なる宣伝が不可欠でしょう。
これまでの宣伝方法を見直し、顧客の趣向や市場のニーズを見据えた上で。新たな方法を導入しなければなりません。
シスタニ博士は続けて、ケルマン州の絨毯産業に関わる人々に対する十分な経済的・精神的支援が欠如していることを指摘しました。
これを解決するには、法律の整備と、絨毯産業に従事者たちをサポートするための奨励金を与えるなどの対策が必要です。
さらに彼は、「絨毯の生産と輸出における競争力を高めることを目的として、ケルマン州の絨毯作家や織織人、貿易業者の教育・訓練に投資することが不可欠だ」と続けます。
ウールの洗浄、梳毛、紡績、染色などの事前作業と、絨毯の洗浄、仕上、梱包などの事後作業が、生産や輸出の向上に関わるのは間違いありません。
また、この産業に従事する者のスキルを強化し、モチベーションを高めるための投資や、若い世代の人たちの参入を促すことも、現状を打開するために必要なことでしょう。
ケルマンの絨毯商の一人であるヘラヴィ氏も、生産は今日の市場のニーズを満たすものでなければならないとし、「私たちは世界から遠く離れており、世界の好みを知らない」と話します。
「いま制裁が解除されたとして、国境の向こう側の誰が絨毯を買うためにドルを持って来ると思うかい? そんなことはないよ、俺たちは世界市場の旨味を失ってしまったのさ……」と落胆します。
ヘラヴィ氏はさらに、「この問題に対する関係者の答えは、いま、この国には絨毯の輸出よりも大事なことがあるというものだ。俺たちもよく言うよ、輸出は諦めて国内で絨毯を売りたいと思っているとね。この国で絨毯を売らなければならなくなった原因はどこにあるのかね?」と政府を批判しました。
彼はサッカーチームのペルセポリス・クラブがサウジアラビアチームのポルトガル人選手、クリスティアーノ・ロナウドに贈呈したペルシャ絨毯について、メディアで発表された価格を批判し、なぜそのような価格を発表して人々をペルシャ絨毯から遠ざけるのかという疑問を投げかけました。
ヘルヴィ氏は「彼らは選手に絨毯を贈ったが、その値段は40億トマンだそうだ。俺はチームのオーナーたちに尋ねるよ、『教えてください。その絨毯に、なぜそんな値段がついたのですか?』とね。値段を大袈裟に言うと、誰も絨毯を買おうとしなくなる。なぜ、そんな嘘をつく必要があるのかね?」と憤ります。
1995年のペルシャ絨毯の輸出額は17億4000万ドルで、非原油輸出の40%に相当しました。
タスニム通信によれば、原材料の価格がここ数年で急激に上昇したことを受け、イラン手織絨毯協同組合連合の最高経営責任者(CEO)は「私たちは他国と競合している。競合国は10年前とほぼ同じ価格でいまも絨毯を生産している。一方、わが国は毎年のインフレの進行により、生産者の生産コストが大幅に上昇している」と述べています。