美しくてリーズナブルなヤズド産のペルシャ絨毯

美しくてリーズナブルなヤズド産のペルシャ絨毯

美しくてリーズナブルなヤズド産のペルシャ絨毯

[第 話]

カシャーン絨毯は、世界で最も知られているペルシャ絨毯かもしれません。
赤いフィールドと濃紺のボーダーの組み合わせは、ペルシャ絨毯の代名詞ともいえます。
しかし、絨毯産業のレジェンドたるカシャーン以外にもペルシャ絨毯の生産に携わっているイラン中央部の町はいくつもあり、これらの町の絨毯作家たちはセンスと技術を発揮し、様々なデザインのペルシャ絨毯を製作しているのです。
そんな中でもヤズドのペルシャ絨毯は、手工芸品の分野でカシャーンやケルマンと競合するペルシャ絨毯産地の一つといえるでしょう。
ヤズドといえば、イラン人の誰もがゴッターブ、バグラヴァなどの菓子を連想します。
しかし、ヤズドは織物の町でもあり、テルメと呼ばれる織物やペルシャ絨毯の産地としても知られているのです。
しかし、この町が有名なペルシャ絨毯の産地であることは日本ではほとんど知られていません。
その理由は後で述べます。

ヤズドはカビール砂漠の南部に位置する、降雨量の少ない乾燥した町で、カナート(地下水路)とバードギール(採風塔)は砂漠に暮らす人々の生きるための知恵が生み出したものでした。
当然、農業には向いておらず、この町の人々は手工芸品の生産に糧を求めるしかなかったのです。
ベネチアの旅行者ジョセファ・バルバロは、イラン旅行中にヤズドについて次のように記しています……ヤズドの人々はすべて織物業に従事しており、一部の者は中国、マチン、インド、ジョグタイ、ロシア、トルキスタン、およびハタの一部に輸出している。
ヤズドでは織物はシャエル・バフィと呼ばれ、ヤズドの人々の間で昔から人気がある。絨毯織りは過去1世紀にヤズドで盛んになり、織物と絨毯はこの町を代表する工芸品になっている……。

かつてヤズドで産出するペルシャ絨毯はヘラティ文様で知られていました。
しかし、ケルマン絨毯のデザインを導入した後、デザインのレパートリーが格段に増えました。
このようにケルマン絨毯がヤズド絨毯に大きな影響を与えたことは言うまでもありません。
ヤズド絨毯で目を引くのは、幾何学模様の装飾が施された花々やメダリオン、庭園文様です。
ケルマン絨毯では、ヤズド絨毯の赤色よりも赤色がはるかに鮮やかで、ヤズド絨毯では茶色がかって見えます。
その主な理由は、レンガ色の横糸の存在です。
以前は、ヤズド絨毯はケルマン絨毯よりも価値がありませんでしたが、ヤズドの絨毯業界で起こった投資と変革により、ヤズド絨毯はケルマン絨毯と肩を並べるまでになりました。
古い絨毯の中にはケルマン産かヤズド産かの判断がつかないものもあります。
ただし、ヤズド絨毯にはケルマン絨毯によく用いられるジュフティ結びはありません。

かつてヤズド絨毯の色は暗かったのですが、この町に多くの絨毯工房が設立されたことにより、ヤズド絨毯の色やデザインに様々な変化が見られるようになりました。
現代のヤズド絨毯には青、カーキ、クリーム、ベージュ、クリーム、アイボリーなど、明るい色も使用されています。
通常、ヤズド絨毯のパイルの染色には、天然染料と化学染料の両方が使用されます。
ヤズド絨毯は「ケルマン式」と呼ばれる巻取式の織機を用いて製作されるので、カシャン絨毯のように織師が座る位置を上げてゆく必要はありません。
通常、ヤズド絨毯の横糸は綿糸で作られており、ダブル・ウェフトです。
ラジ数は20ラジから40ラジの間です、かつてはトルコ結びが使われていましたが、現在はペルシャ結びが用いられています。

他産地のペルシャ絨毯と同様に、ヤズド絨毯にもファンがおり、とりわけテヘラン、イスファハン、マルカジ、ファースの各州でよく売れています。
もちろん、ドイツ、パナマ、クウェート、インド、サウジアラビアなど、国外にも輸出されています。
ヤズドで最も使用されているデザインはカシャーン絨毯に倣ったものです。
しかし、ここ十数年では、タブリーズとイスファハンの美しく優雅なデザインがヤズドの絨毯にも採用されるようになりました。

他の産地のペルシャ絨毯に比べると、この町の絨毯は丈夫な上、リーズナブルなのが利点です。
それにも関わらず、わが国でヤズド絨毯の知名度が低いのは、日本の絨毯業者の多くがヤズド絨毯を「カシャーン産」と偽って販売しているからです。
前述したようにヤズド絨毯はカシャーン絨毯よりも安価であるため、カシャーン産として販売することでより利益が得られるカラクリです。
これは同じくカシャーン絨毯によく似ているアルデカン産の絨毯についても言えることです。

ペルシャ絨毯は、織師たちが一段一段、指先でパイルを結ぶことによって美しさを現出させます。
そのひと結び、ひと結びに込められた幸福への願いが、私たちに感動をもたらすのです。
精巧な機械織絨毯が大量に出回る世の中になっても変わることはありません。
ペルシャ絨毯に込められた絨毯作家やデザイナー、そして織師たちの魂は永遠に輝くのです。

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