両さんとペルシャ絨毯
[第 話]
日本人なら誰もが知る『こちら葛飾区亀有公園前派出所』(こち亀)の1992年6号(78巻)に「空飛ぶ絨毯の巻」というのがあります。
ある日、両さん(主人公:両津勘吉)の勤務する派出所には外国人たちが道を尋ねに次々とやって来ます。
様々な言語を話す外国人たちの対応に追われる両さんでしたが、その日の勤務が終わって飲みに行けるとご機嫌な両さんの元に通行人からある一報が。
外国人の男が道端に倒れているといいます。
男は事故に遭ったのではなく、空腹のあまり行き倒れになっていたのです。
両さんは仕方なく男を寮に連れて行き、保護することに。
何をしゃべっているのかさっぱり分からず、中川に通訳してもらったところ、男はペルシャ絨毯の行商で日本に来ていることが分かりました。
助けてもらったお礼にと、男からペルシャ絨毯をもらった両さん。
どうせ偽物だろうと絨毯をぞんざいに扱う両さんですが、麗子から本物であることを聞き、専門家に鑑定してもらったところ時価5000万以上はするということを聞くと豹変します。
両さんはその絨毯を売ろうと考えますが、絨毯を売る前に儲けようとレンタル業に励み、その後、少しでも高く売ろうと資産家を探し回りました。
ペルシャ風の衣装に身を包んで商談に向かう両さんでしたが、突風により絨毯が飛ばされてしまいます。
離してなるものかと空を飛ぶ絨毯に必死でしがみつく両さんだでしたが、落ちた先は重要文化財に指定されている浅草二天門。
ペルシャ絨毯を売るだけでは払いきれない賠償責任を負うはめになってしまったのでした。
1990年代初頭、日本では出稼イラン人の存在が社会問題になっていました。
8年にも及ぶイラン・イラク戦争が終結した直後のイランには職がなく、大勢のイラン人たちがバブル景気に沸く日本にやって来たのです。
当時、日本とイランはビザ協定を締結していたため、イラン人たちはノンビザで来日。
不法滞在や不法就労が横行し(もちろん、正規の手続きを経て働いていた人もいます)、一部の者たちは偽造テレホンカードを売り捌きます。
週末になると代々木公園や上野公園はイラン人たちで溢れ、イラン料理やカセットテープ、床屋などの屋台が立ち並びました。
そうした状況を受け、日本政府はイランとのビザ協定を破棄し、イランも報復措置としてこれを行います。
当局による摘発や公園の閉鎖により出稼イラン人の数は徐々に減ってゆくのですが、このような時期に描かれた漫画としては物語に登場するイラン人は紳士的に描かれています。
作者の秋元治先生はテーマを徹底的に調べて漫画にすることで知られていますが、この巻でもペルシャ絨毯についてノット数や工房の銘などについて解説されています。
ペルシャ絨毯の専門家として登場する人物も実在の絨毯商をモデルにしていて、乗っている車までもが忠実に描かれていました。
時価5000万円はオーバーですが、そこは漫画ゆえ仕方ないでしょう。
『こちら葛飾区亀有公園前派出所』は、『週刊少年ジャンプ』に1976年から2016年まで連載されました。
単行本は全201巻に及び、2021年に『ゴルゴ13』に抜かれるまでは「最も発行巻数が多い単一漫画シリーズ」としてギネス世界記録に認定されていたそうです。