ペルシャ絨毯に見られるシャー・アッバス文様とは?

ペルシャ絨毯に見られるシャー・アッバス文様とは?

ペルシャ絨毯に見られるシャー・アッバス文様とは?

[画像:シャー・アッバス文様]

ペルシャ絨毯に織り出された文様は、イランの文化とイラン人たちの世界観・宗教観を表すものです。
中でもシャー・アッバス文様は、イラン各地で製作されるペルシャ絨毯に欠かせない存在となっています。
シャー・アッバス文様は欧米では「パルメット」と呼ばれ、ペルシャ絨毯だけでなく様々な工芸品や装飾品の文様として有名ですが、その由来については案外知られていません。

シャー・アッバス文様はサファヴィー朝第5代君主であったシャー・アッバス(アッバス1世)の名に由来したものと言われます。
多くの絨毯商が、シャー・アッバスの時代にこの文様がペルシャ絨毯に採用されたと説明しています。
しかし、これは事実ではありません。
それは、シャー・アッバスが即位する前に製作された狩猟文様絨毯(1524年または1544年製作)やアルデビル絨毯(1539/40年製作)にこな文様が使用されていることからも明らかです。
15世紀のイランの細密画には、シャー・アッバス文様と思われる文様の絨毯が描かれています。

シャー・アッバス文様のモチーフとなっている花は、蓮(はす)の花と考えられています。
蓮の花は古くからいくつもの地域において神聖なシンボルとされてきました。
古代エジプトでは蓮の花は「再生」「復活」「豊穣」「創造」などを象徴するものとされており、とりわけ青い睡蓮(実は睡蓮は蓮とは別種)は壁画や神話に頻繁に登場し、薬や香料としても用いられています。
またインドにおいても、蓮は仏教やヒンズー教との関わりが深く、泥水の中から清らかな花を咲かせる特性から神々の象徴とされてきました。
美と富の女神ラクシュミーや、仏陀(ブッダ)の蓮華座として描かれることが一般的で、「浄化」「創造」「悟り」「純粋」を象徴するものとされます。

シャー・アッバスの治世中、イランの絨毯産業は最盛期を迎えました。
シャー・アッバス文様とイスリム文様は、この時代のペルシャ絨毯のデザインとして最も重要なものです。
サファヴィー朝は18世紀前半に終焉しますが、デザイナーたちは300年が経過した現在においても、それらの文様を用いてペルシャ絨毯に命を吹き込んでいます。
この文様はイラン全土で製作されるペルシャ絨毯に見られるものの、産地により異なる形状を持つのは実に興味深いことです。
また、この文様には、メダリオン・コーナー、ミフラブ、樹木や動物、などと組み合わされた多くの派生形があります。

シャー・アッバス文様はカラフルに織り出されるのが一般的です。
マヒ(ヘラティ)文様やボテ(ペイズリー)文様などと違い、使用されている色が4色に満たないものはほとんどありません。
文様には緑色、煉瓦色、水色などが、縁取りには濃紺色や白色あるいはキナリ色がよく使用されます。

シャー・アッバス文様を用いたペルシャ絨毯は、タブリーズ、カシャーン、マシャド、イスファハンなど、イランの様々な都市で織られています。
しかし歴史を紐解いてみると、タブリーズが最初に絨毯にこの文様を用いた町ではなかったかと思います。
ティムール朝より前に描かれた細密画にこの文様が見られないことに加え、タブリーズはティムール朝期にイランの首都だったからです。

【蓮(はす)】

蓮(はす)は、インド原産のハス科多年性水生植物です。
池や沼に生え、泥の中から伸びる大きな葉と美しい花が特徴で「はちす」とも呼ばれます。
地下茎は「蓮根」(れんこん)として食用にされ、仏教では「清らかな心」や「再生」の象徴とされ、インド、ベトナムなどでは国花にもなっている植物です。
睡蓮(すいれん)と混同されがちですが、蓮は葉や花茎を水面より高く立ち上げる点で異なります。

お問い合わせ

     

お問い合わせは
お電話もしくはメールフォームにてお受けしています。
お気軽にご連絡ください。