映画『国宝』に登場するペルシャ絨毯

映画『国宝』に登場するペルシャ絨毯

映画『国宝』に登場するペルシャ絨毯

[画像:映画『国宝』]

映画『国宝』が11月24日までの公開172日間で、観客動員数1231万1553人、興行収入173億7739万4500円を突破。
「踊る大捜査線 THE MOVIE 2」を抜き、22年ぶりに邦画実写歴代1位になったそうです。
この映画は吉田修一氏の同名小説を原作とし、『悪人』『怒り』の李相日監督がメガホンを取った作品で、戦後から高度経済成長期の日本を舞台に、血筋や才能、信頼と裏切りの中で、伝統芸能に人生を捧げた者たちの栄光と挫折を描いています。

この映画ではペルシャ絨毯が一つのキーワードになっていると聞きました。 ペルシャ絨毯は、喜久雄(きくお)を支える幼馴染の福田春江(高畑充希・画像)の愛情、そして歌舞伎の世界の華やかさや贅沢さの象徴として重要な役割を果たし、劇中で「楽屋にペルシャ絨毯買うたる」というセリフと共に登場、話題を呼んでいるといいます。
劇中、何度かペルシャ絨毯が登場するらしく、ネット上にはその絨毯を巡り、イスファハン産であるとか、はたまたナイン産であるとかの憶測が飛び交っているそうです。
結論を出すべく1月6日の夜に観に行きました。
ちなみに高畑充希氏はペルシャ絨毯愛好家として知られているだけに、この役には因果があるのかもしれません。

15歳で父を失った任侠一家の少年、立花喜久雄(吉沢亮)が、上方歌舞伎の名門、花井半二郎に才能を見出され歌舞伎の世界へと入るところから物語は始まります。
半二郎の跡継ぎ息子、俊介(横浜流星)と兄弟のように育ち、またライバルとして切磋琢磨しながら芸を磨いてゆく喜久雄ですが、半二郎が事故で入院した際、代役に俊介ではなく喜久雄が指名されたことで、二人の関係と運命が大きく変化しました。
喜久雄は「血筋」、俊介は「才能」を渇望し、愛憎が入り混じる中で歌舞伎に青春を捧げ、人生の栄光と挫折を経験します。
そんな激動の人生の中で、二人は「人間国宝」を目指し、それぞれの苦悩を抱えながら芸の道を究めてゆくというのがあらすじです。

ペルシャ絨毯が登場するシーンは2つあったように記憶します。
どちらも10秒ほどと決して長くはありませんでしたが、産地を特定するには十分でした。
初めにペルシャ絨毯が登場したのは中盤に入ってから。
ある大物俳優の楽屋のシーンです。 この絨毯に言及している人はいないようですが、こちらは濃紺のフィールドに赤のメダリオン・コーナーとボーダーのサルーク産ウール絨毯でした。

もう一つ、ペルシャ絨毯が登場するシーンがありました。
人間国宝となった喜久雄の楽屋のシーンです。
こちらは印象的なドーム・パターンの絨毯でした。
イスファハンやナインにも同じパターンはありますが、残念ながらどちらもハズレ。
正解は、マラゲ産のシルク絨毯です。

さて、件の「ペルシャ絨毯買うたる」の台詞ですが、時代考証の観点から言うと、これはおかしいです。
件のシーンのすぐあとに「8年後、1980年」のテロップが映し出されました。
ということは、このシーンは1972年より前という設定になります。
その当時、わが国にはペルシャ絨毯専門店はまだ存在していませんでした。
百貨店でもペルシャ絨毯を取り扱っているところはなかったはずです。

わが国では1970年代半ばに三越がパフラヴィー朝成立50周年を記念し、三井物産とイラン絨毯公社協力のもと1000枚のペルシャ絨毯を直輸入したのが、契機となりペルシャ絨毯が知られ始めます。
三越は1977年に『ペルシア五千年美術絨毯展』を開催するとともに販促映画『燃える秋』を10億円の予算をかけて東宝と合作したほか、テヘラン支店を開設して(イラン革命に伴い閉鎖)本格的にペルシャ絨毯の販売に乗り出したのです。
つまり、1972年当時に歌舞伎の楽屋にペルシャ絨毯が敷かれているはずがなく、「ペルシャ絨毯買うたる」の台詞は明らかな間違いであることが分かります。

タニマチがペルシャ絨毯を贔屓の役者にプレゼントするのは、特に珍しいことではありませんし、歌舞伎役者の楽屋にペルシャ絨毯が敷かれているのもよくあることです。
しかし、時代が違っているのは何ともいただけません。
「(中国)緞通買うたる」なら問題なかったのでしょうが……。

もう一つ、この台詞は、やがて人間国宝となり、歌舞伎役者として頂点を極めた喜久雄の楽屋にペルシャ絨毯が敷かれていることの伏線になっているようです。
それはそれでよい演出だとは思うのですが、であるならばマラゲ産はないでしょう……というのが正直な感想です。
人間国宝の楽屋に敷かれるペルシャ絨毯は、セーラフィアンの作品であってほしかったです。

血筋と才能が対照的な喜久雄と俊介が、多くの出会いと別れの中で運命を狂わせ、人生の苦悩を抱えながら「国宝」を目指す、壮大な人間ドラマはシニア層から若年層まで幅広い層に支持され、異例のロングランヒットとなり社会現象化しました。
個人的にはそれほどまでに人気がある理由が理解できませんでしたが、映画の素人が見解を述べるのは分不相応なので控えておきます。
いずれにせよ、映画を通じてペルシャ絨毯に興味を持たれる方が一人でも現れれば、絨毯商にとっては大きな喜びです。

映画『国宝』公式サイト:

https://kokuhou-movie.com/

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