ペルシャ絨毯とトルコ絨毯の違い

ペルシャ絨毯とトルコ絨毯の違い

ペルシャ絨毯とトルコ絨毯の違い

[第 話]

ペルシャ絨毯とトルコ絨毯は、どちらも職人が長い月日をかけて丁寧に織りあげたものです。
時折、混同されることがあるペルシャ絨毯とトルコ絨毯ですが、それぞれに独自の特徴があり、それらに着目することにより、容易に判別することができます。
一般にペルシャ絨毯は、流麗なデザインや優雅な色使い、緻密な織り有名です。
一方、トルコ絨毯は力強いデザインと個性的な色使い、耐久性の高さで知られています。
両者はともに遊牧民文化から派生したものですが、今日までに至る歴史的背景は大きく異なり、それが絨毯にも現れているのです。
ペルシャ絨毯とトルコ絨毯の違いは、パイルの結び方、ノット数、使用される素材、デザインなどに見ることができます。

1. 結び方
ペルシャ絨毯とトルコ絨毯はいずれも手織ですが、結び方が異なります。
パイルは2本の縦糸に巻き付けられますが、ペルシャ絨毯はパイル糸を1本の縦糸に完全に巻き付け、もう1本の縦糸には添わせるだけのペルシャ結びを用いて製作されています。
一方、トルコ絨毯はすべて、2本の縦糸にパイル糸を巻き付けるトルコ結びを用いて製作されています。
ペルシャ結びは「左右不均等結び」あるいは「セネ結び」、トルコ結びは「左右均等結び」あるいは「ギョルデス結び」とも呼ばれます。
トルコ絨毯に使用されているトルコ結びは、ペルシャ結びより耐久性があり、ほどけにくいとされますが、ペルシャ絨毯に使用されているペルシャ結びは、細かいディテールの表現を可能にします。
ペルシャ結びは、トルコ結びよりもタイトになることから、ペルシャ絨毯は結びを密集させてノット数を増やすことができます。
ノット数が多いと耐久性が向上するため、多くの人がトルコ結びで作られた絨毯よりペルシャ結びで作られた絨毯の方が価値があると考えています。
ただし、トルコに近いイラン西部で製作されたペルシャ絨毯にはトルコ結びが使われています。

2. ノット数
ペルシャ絨毯は結び目数が多いことで知られており、特別なものを除くと1平米あたり16万から144万ノットの範囲になります。
一方、トルコ絨毯のノット数はやや少なく、通常は9万から49万の間ですが、ヘレケ産のシルク絨毯だけは例外で、81万から400万ノットを超えるものまであります。
ただし、あまりにもノット数が細かいものは敷物としては使えません(敷物として使えないものを絨毯と呼ぶのはどうかと考えますが……)。
結び目数が多いほど、デザインがより細かく詳細となり、ディテールは明確になります。
とはいえ、ノット数は比較する対象によっては品質に関わる決定的要素とはなり得ず、必ずしもトルコ絨毯がペルシャ絨毯に劣るという訳ではありません。
ちなみに、トルコ絨毯は幾何学的なデザインのものよりも曲線的なデザインのものの方がノット数は多いのはペルシャ絨毯と同じです。

3. 素材
ペルシャ絨毯とトルコ絨毯のパイルに使用される素材は、ともにウールが主流です。
とはいえ細かな違いはあって、ペルシャ絨毯の高級品にはコルク・ウールが使用されますが、トルコ絨毯には織りが緻密なものがないこともあって、普通のウールだけが使用されています。
また、ペルシャ絨毯には部分的にシルクを使うパート・シルクの技法がよく用いられますが、トルコ絨毯にはこの技法はほとんど使用されません。
縦横糸に木綿を用いるのはペルシャ絨毯もトルコ絨毯も同じですが、織りが緻密になればなるほど縦糸は細くなるので、織りが緻密なペルシャ絨毯の高級品にはシルクがよく用いられます。
トルコのウール絨毯には前述した理由から縦横糸にシルクを使用したものはありません。
ペルシャ絨毯の中でも部族が製作する絨毯には縦横糸にウールが用いられるのが一般的です。
トルコにもユリュックやクルドなどの遊牧系部族(現在は多くが定住)がいて、彼らが製作する絨毯の縦横糸には、同じくウールが使用されたものがあります。
シルク絨毯については、イランでは16世紀から製作されるようになりましたが、トルコでシルク絨毯が製作されるようになったのは19世紀末になってからのことです。
シルク絨毯にはイラン、トルコともにシルクの縦糸が使用されますが、横糸にはシルクのほかに木綿が使用されることがあります。
シルク絨毯の産地としてはイランではクム、カシャーン及びそれらのコピー品を製作しているザンジャン、マラゲ、農村部ではグーチャンがあります。
トルコのシルク絨毯はヘレケとカイセリで製作されていますが、最近は中国から輸入されたものが増えています。
ちなみにカイセリでは、かつてパイルにレーヨンを使用した「フロシュ」と呼ばれる手織絨毯が製作されていました。
しかし、トルコで機械織絨毯が生産されるようになると取って代わられ、姿を消してしまいました。

4. デザイン
ペルシャ絨毯とトルコ絨毯の明らかな違いは、そのデザインです。
いずれの絨毯も伝統的なデザインを継承していますが、ペルシャ絨毯には曲線的なデザインが使用されるのが一般的です。
ペルシャ絨毯では、大きなメダリオンがフィールドの中心に置かれているものが多いのですが、メダリオンはトルコ絨毯には見られない複雑な形状をしており、イスリムやパルメットなどに囲まれています。
またペルシャ絨毯には、人物や動物、樹木や花などが写実的に描かれることがよくあります。
一方、トルコ絨毯には直線的な幾何学文様で構成されているものが多く見られます。
また、トルコ絨毯では花や動物は抽象的に描かれるのが一般的で、その中にはアジアの帝国の興亡を伝えるシンボルも取り入れることがあります。
こうしたデザインの違いは、使用されている結び目の種類の違いにも起因しており、ペルシャ結びは曲線を表現のに向いていますが、トルコ結びは直線的なデザインを表現するのに向いています。
これらのデザイン違いを理解することは大切ですが、ペルシャ絨毯とトルコ絨毯の中には型にはまらないものがあることに注意することも同様に重要です。
幾何学的なデザインのペルシャ絨毯があるのと同じように、エレガントなデザインのトルコ絨毯もあります。

5.
ペルシャ絨毯の色は鮮やかで豊かな色彩で知られています。
イランでは20世紀初めに政府が化学染料の使用を禁じていたこともあり、それが浸透するのは20世紀半ばになってからのことでした。
それ以降は化学染料が主流になってゆきますが、一部の地域または高級品には天然染料が使用され続けました。
1990年代になるとシラーズやヘリズなどの産地を中心に天然染料が見直され、以降、天然染料を使用したペルシャ絨毯の割合は増加する傾向にあります。
トルコはヨーロッパに近く、そのため化学染料が19世紀末には既に使用されていました。
政府による規制がなかったこともあって、その後も全土で使われ続け、現在もほとんどのトルコ絨毯に化学染料が使用されています。
一般にペルシャ絨毯に比べるとトルコ絨毯の色数は限られています。

6. 産地
イランとトルコはどちらも全土に絨毯産地があり、産地ごとに独自のスタイルやデザインを持っています。
ペルシャ絨毯の有名な産地としては、タブリーズ、カシャーン、クム、イスファハン、ナイン、ヤズド、ケルマン、マシャド、シラーズなどが挙げられます。
一方、トルコ絨毯の有名な産地としては、ヘレケ、カイセリ、ウシャク、ミラス、ベルガマ、シワス、コンヤ、クラ、ギョルデス、ヤージュベディルなどがあります。

ペルシャ絨毯の時代を超越した魅力に惹かれるか、トルコ絨毯の活気に満ちたエネルギーに惹かれるかは個人の好みの問題で、ペルシャ絨毯とトルコ絨毯のどちらかが他方よりも優れているといえるものではありません。
両者の特徴を知り、自身の好みに合ったものを選ぶことが大切です。
なお、トルコ絨毯はヨーロッパでは人気があるのですが、デザインや色使いが日本人の趣向に合いにくく、よってわが国にはトルコ絨毯を取り扱う店はあまりないのが実際です(トルコ・キリムを取り扱う店はたくさんあります)。

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