1億円オーバーのペルシャ絨毯???
[第 話]
2018年1月14日に放映されたテレビ東京の某番組で「1億円オーバーのペルシャ絨毯」なるものが紹介されていました。
ドザールかパルデのサイズのクム・シルクでしたが、クム・シルクであれば最高級といわれる121万ノットの作品としても、高くてドザールで500〜600万円、パルデなら700〜800万円ほどです。
白鶴美術館や遠山記念館、徳川美術館などが所蔵する19世紀の作品をも含めて、現在わが国に存在するペルシャ絨毯の中でサザビーズなりクリスティーズなりの一流オークションで1億円以上の値がつくのは、おそらくミホ・ミュージアムが所有する「サングスコ絨毯」だけでしょう。
このサングスコ絨毯は16世紀末にサファヴィー朝下のケルマンで製作されたとされるもので、サイズは約6m×約3m。
ポーランドの旧貴族が長年メトロポリタン・ミュージアムに寄託していましたが、バブル期に宗教法人の神慈秀明会が10億円で譲り受け、同会が建設したミホ・ミュージアムに収蔵したものです。
ちなみに、この時期、神慈秀明会はオリエント美術の超逸品を何点か購入しており、その中の一つ、イラクのニルムドの宮殿にあったアッシリア時代の「精霊と従者浮彫」に対し、当時のサダム・フセイン大統領が返還を迫ったことは大きな話題になりました。
それはさておき、湾岸諸国の王族らの注文によりイラン絨毯会社が製作したモスクの床一面を覆うほど巨大な絨毯は別にして、過去に1億円以上で取引されたペルシャ絨毯はすべてサファヴィー朝期の作品です。
現代物のペルシャ絨毯で1億円を超えるものなどまず存在しません。
ましてや、ドザールかパルデのクム・シルクなら当然中の当然です。
自身で1億円以上の価値があると思い込むのは勝手ですが、ものには「相場」というものがあります。
曲がりなりにも絨毯商であるのなら、ペルシャ絨毯の相場はよく分かっているはずです。
相場の10倍を超えるような値段をテレビで誇示してみたところで、価値が分かる人からは品性を疑われるだけでしょう。
そうした軽はずみな言動が「ペルシャ絨毯などとても買えるような値段のものではない」との意識を消費者の間に蔓延させ、客足を遠ざける原因になる、つまり自分で自分の首を絞めることになるというのをしっかりと認識してもらいたいものです。
テレビというのは諸刃の剣です。
一方ではとても役に立ちますが、もう一方では大きな損害を与える危険を孕んでいるのです。
つまり、使い方を間違えれば自らはおろか、業界全体にまで損害を及ぼしてしまう可能性さえあるということです。
弊社ではテレビ出演に際しては、それを肝に銘じています。
「正直に勝る王道なし」。
私たちはそれを信じて疑いません。