トルクメンのトライバルラグ

トルクメンとは

トルクメンとは

トルクメンは伝統的に中央アジアに住む遊牧民および半遊牧民の民族で、現在はトルクメニスタン、イラン、アフガニスタン、コーカサス、パキスタン北部に居住しています。
トルクメンはテッケ、ヨムート、エルサリ、チョウドル、サリクなどのいくつかの部族グループで構成されていますが、最も数が多いのはテッケです。
遊牧民のトルクメンは馬や羊を飼育する牧畜民で、群れに新鮮で豊かな牧草地を提供するために頻繁に移動していました。
トルクメンは折りたたみ式で持ち運び可能な織機で織物を織りました。
ほとんどのトルクメンが定住していますが、今日でも絨毯や織物を織り続けています。
彼らは豊かな文化の歴史を生かし続けているのです。

トルクメン絨毯

トルクメン絨毯

トルクメン絨毯は、何世紀にもわたって芸術愛好家やコレクターを魅了してきた、精巧な手織りの織物です。
中央アジアの遊牧民トルクメン族に由来するこれらの絨毯は、比類のない職人技、複雑なデザイン、豊かな文化遺産で知られています。
絨毯作りの技術は古代にまで遡ります。
最初に登場したのは彩色陶器か絨毯かはまだ確定していません。
紀元前 3 千年紀のナマズガ デペ遺跡の発掘調査で彩色陶器が発見されました。
この陶器のデザインの中には、絨毯のシンボルと非常によく似ているものもあります。
12 世紀には、イタリアの旅行家マルコ ポーロがトルクメン絨毯を世界で最も美しく薄い絨毯と見なしました。
14 世紀には、イタリアのルネサンス画家リッポ・メルンモとニコロ・ブオナロッソの 2 人が、トルクメン絨毯を絵画に描きました。 ドイツ、フランドル、イタリアの画家がトルクメン絨毯に精通していたことは非常に興味深いことです。

トルクメン絨毯はどれも、細心の注意を払って作り上げる織り手の熟練の技の証です。
これらの絨毯は主に、柔らかさと耐久性で知られる地元の羊から採取した高品質のウールを使用して作られています。
ウールは天然色素を使用して丁寧に染められ、鮮やかで長持ちする色になり、時が経つにつれて美しく変化します。
主に家庭での使用を目的に女性によって織られた織物ですが、中央アジアの都市中心部のバザールで売られて家計の足しになることもありました。
トルクメン絨毯の際立った特徴の 1 つは、絨毯のパイルを飾る複雑な幾何学模様とモチーフです。
これらの模様は、動物、植物、天体など、トルクメンの遊牧民の生活様式の要素を象徴することがよくあります。
トルクメン絨毯に見られる最も象徴的なモチーフは、幸運と守護の象徴として繰り返し登場するギュル、つまり「象の足」です。
トルクメン絨毯は美しい芸術作品であるだけでなく、トルクメン人の文化的アイデンティティと伝統を反映しています。

ギュル

ギュル

トルクメンのギュル(Gul)は、トルクメン族が伝統的に使用してきた、織り物や刺繍などのパターンやモチーフの一つです。
ギュルは、トルクメン族の文化や信仰、生活様式を象徴する重要なデザイン要素として用いられています。
ギュルのデザインは、花や星、動物、幾何学模様などを組み合わせて構成されており、独自の意味や象徴が込められています。
ギュルはしばしば幾何学的な繰り返し模様や対称性を持ち、美しさと力強さを表現しています。
トルクメン族の絨毯や刺繍、織り物などには、ギュルが豊富に使われており、家庭用の装飾品や衣服、馬具、バッグなどにも見られます。
ギュルは、トルクメン族のアイデンティティや伝統を表現する重要な要素であり、家族や部族の象徴としても重要視されています。
ギュルのパターンやモチーフは、トルクメン族の歴史や信仰、自然や環境に関連した意味を持っており、独自の文化的背景や物語が伝承されています。
トルクメン族のギュルは、美しさだけでなく、文化や歴史を伝える重要な要素として、世界中で愛されています。

テッケ・ギュル

テッケ・ギュル

トルクメニスタン南部を主なテリトリーとするテッケ族のギュル。
ギュシュリー・ギュルあるいはゴリー・ギュルとよばれるギュルのひとつですが、ギュシュリー・ギュルは「ギュシュル」(鳥)に、ゴリー・ギュルは「ゴル」(花)に由来する名です。
この種のギュルの中ではもっとも男性的で、ギュルを4分割する黒い縦横線が通っているのが特徴。
テッケ・ギュルはイランやパキスタン、ウズベキスタンで産出される絨毯にも多く用いられていますが、よく聞く「象の足」を形どったという話は全くの事実無根です。

サリク・ギュル

サリク・ギュル

トルクメニスタン南東部を主なテリトリーとするサリク族が用いるギュル。
テッケ・ギュルに似ていますが、中心を縦横断する黒線がなく、全体的にややマイルドな雰囲気です。
こちらもゴリー・ギュルあるいはギュシュリー・ギュルに分類されるギュルのひとつ。

エルサリ・ギュル

エルサリ・ギュル

トルクメニスタン東部を主なテリトリーとするエルサリ族が用いるギュルのひとつで、いくつかの派生形があります。
ゴリー・ギュルあるいはギュシュリーのギュルの中ではもっとも垢抜けた印象。
アフガニスタン北部のアンドホイ周辺で製作されるエルサリ族の絨毯には、テッケ・ギュルを簡素化したようなギュルも見られます。
エルサリ族はテッケ族に次ぐトルクメン第二の勢力。

タウクナスカ・ギュル

タウクナスカ・ギュル

トルクメニスタン北部を主なテリトリーとするチョドル族の紋章で、タウク・ナスカは「鶏文様」の意。
ギュルの中心を囲む文様が鶏に似ているとしてそう呼称されますが、鶏というより馬やロバのような四つ足の動物に見えます。
エルサリ、ヨムート、チョドル、アラバチのトルクメン各部族の他、ウズベキスタンやカラカルパクスタンで産出される絨毯にも使用されています。

オムルガ・ギュル

オムルガ・ギュル

サリク族の他、エルサリ族もこれを用いています。
エルサリ・ギュルやタウク・ナスカ・ギュルに似ていますが、中に配されているのがリーフになっているのが特徴。

サロール・ギュル

サロール・ギュル

サリク族が用いるギュルの中では、もっとも多く目にするのがこれ。
「サロール」はトルクメニスタン東部をテリトリーとし、かつてはトルクメンの一大勢力であったサロール族に由来するもの。
1832年にカジャール朝ペルシャとの戦いに敗れたサロール族は、その後テッケ族やサリク族との領地争いにも敗れ弱体化しました。
サリク族のテリトリーであるアフガニスタン南東部で最大の町マリーの名をとり、マリー・ギュルとよばれることもあります。

ジュヴァル・ギュル

ジュヴァル・ギュル

ジュヴァルは寝具や衣類などを収める大きな袋のこと。
ジュヴァル・ギュルはジュヴァルだけでなく、サリク族やヨムート族のメインラグの他、アフガニスタンのマウリ族が製作する絨毯やパキスタンやインド北部で産出される絨毯にも用いられています。

ハルチャンギ・ギュル

ハルチャンギ・ギュル

エルサリ族の分派であるキジル・アヤク族が用いるギュルのひとつ。
ハルチャンギは「蟹」の意ですが、それに似ていることから付せられた名で、蟹を意匠化したものではありません。
キジル・アヤク族の名は「赤い頭」を意味し、かつて彼らが着用していた赤い帽子に由来するもの。
同じくエルサリ族の支族であるベシル族とともに、アム・ダリア中流域をテリトリーにしています。

エルトマン・ギュル

エルトマン・ギュル

チョドル族の他、エルサリ族の支族であるキジル・アヤク族やチョボシュ族が用いるギュル。
エルトマンは19世紀のドイツ人画家、ヨハン・エルトマン・フンメルに由来し、彼の作品にこのギュルを織り出した絨毯が描かれていることから、そう呼称されています。

ヨムート・ギュル(イーグル・ギュル)

ヨムート・ギュル(イーグル・ギュル)

トルクメニスタン北部から西部にかけてを主なテリトリーとするヨムート族が用いるギュルのひとつ。
鷲が羽を広げたように見えることからイーグル・ギュルともよばれます。

ケプセ・ギュル

ケプセ・ギュル

ヨムート族が用いるギュルのひとつ。
ヨムート・ギュル、ディルナク・ギュルと並び、ヨムート族の絨毯には見かける機会が多いギュルです。

Cギュル

Cギュル

ヨムート族が用いるギュルのひとつ。
「C」の形をした文様が配されていることから、Cギュルと俗称されます。

セラーテッド・ロゼット・ギュル

セラーテッド・ロゼット・ギュル

ヨムート族が用いるギュルのひとつで、ケプセ・ギュルとCギュルとを組み合わせたようなデザイン。
ロゼットは花の正面形を図案化したものですが、セラーテッド・ロゼットとは「ノコギリ状のロゼット」のことです。

ディルナク・ギュル

ギャッベ

ヨムート族が用いるギュルのひとつですが、エルサリ族の一部もこれを用いています。
鉤状の飾りが付いた菱形は「蠍」を意匠化したとする説があるものの、確証はありません。

用途による分類

トルクメンとは

ガリ

もとはテント内に敷かれる絨毯で、ドザール(約140×約210)からキャレギ(約200cm×約300cm)のサイズ。
部族民の絨毯としてはもっとも大きなものですが、テントの大きさに合わせて製作されるため、サイズにばらつきがあります。
特別な機会に使用される、いわば「ハレ」の敷物で、カシュガイやルリが製作する絨毯については、普段使いのギャッベと区別されます。
部族民の財産ともなるメインラグはかつて嫁入り道具として製作されたほか、バザールで換金されることもありました。
メインラグ。

ナマーズリク

礼拝に用いる絨毯です。
イランでは「ナマーズリク」あるいは「アーヤトリク」とよばれ、ミフラブ文様を織り出したものが一般的。
ザロチャラケ(約80cm×約120cm)からザロニム(約100cm×約150cm)のサイズですが、小さな子供用のポシュティ(約60cm×約90cm)サイズのものもあります。
トルクメンは礼拝用としてだけでなく、葬儀用として死者を墓に運ぶ際にも用いていました。
プレイヤーラグ。

エンシ

トルクメンがユルタ(トルコ・モンゴル系部族が用いる被覆型テント)のドア代わりにする絨毯。
ユルタの出入口の外側から吊るされ、それを巻きあげて使用します。
フィールドは十字型に四分割されており、上部にはミフラブ(壁龕)が配されているものが多いことから、礼拝用としても使われると言われてきました。
しかし現実にはそうした使用例はほとんどなく、単に魔除けの意味のようです。
ザロニム(約100cm×約150cm)からハフトチャラク(約120cm×約180cm)のサイズが一般的。
ハッチカバー。

カプヌク

トルクメンがユルタの装飾として使用するもの。
カプリックとも呼ばれ、出入口の内側から吊るされます。
コの字の形状で、飾り紐が取り付けられています。

ジュバル

トルクメンがユルタの横フレームにかけて使用する大きな袋のこと。
トルクメンが製作する袋類の中ではもっとも大きく、ペアで製作されるのが通常です。
ジュバルには寝具、衣類、その他日用品等を収納していました。
背面はキリム状になっています。

トルバ

トルクメンが使用する袋の一つで、ジュバル同様ユルタの横フレームにかけて使用されます。
ジュバルとほぼ同じ幅ですが、より浅いのが特徴。
作りもジュバルと同じです。

カプ

トルクメンの女性が使用する小型の袋。
トルバよりも狭い幅で作られ、肩掛け用の紐が付いています。
鏡を仕舞うためのものはアニアカプと呼ばれます。

アスマリク

トルクメンの花嫁が乗る駱駝を飾るためのもの。
アスマリクは「吊り下げるもの」の意で、名の如く駱駝の左右の側面に吊り下げて使用されます。
そのためペアで製作されますが、ジュバルのように袋状にはなっていません。
五角形が一般的です。

ホルジン

馬や驢馬、駱駝等の背に掛けて使用する袋。
俗に言う「鞍袋」(サドルバッグ)で、ペアの袋を向かい合わせた形状になっています。
家畜の種類によってさまざまなサイズがありますが、形状はすべて同じ。
ホルジンをいつの頃、どの部族が考案したかは不明ですが、イランに居住するすべての部族がこれを用いてきました。
絨毯だけでなくキリムやソマックを表面に用いたものもあり、最近ではバイクの荷台に使用する例も見られます。

ナマクダン

岩塩を保存する袋です。
凸型のユニークな形状が特徴ですが、これは家畜たちが悪戯できないようにしたもの。
手を入れる開口部を最小限にしています。

ダラクバシュ

トルクメンが緯打具(ダフティーン)の金属部分に被せる袋。
ドクメダラクとも言います。
緯打具は絨毯を製作する際にパイルと横糸を固定させるために用いる道具で、櫛状になった金属部分を保護するためのものです。

ウクバシュ

トルクメンがユルタを収納する際、束ねた支柱の先端部に被せる袋。
先端と側面を縫い合わせ、筒状にして使用します。

マフラシュ

いわゆる寝具袋で、カシュガイやシャーサバン、トルクメンなどが使用しています。
横長の形状で、キリムとパイル織りもしくはソマックを組み合わせて製作。
衣装袋としても用いられます。

イグサリク

トルクメンが使用する紡錘を収納するための袋。
紡錘とは糸を紡ぐための道具で、スピンドルとも言われます。
心棒をクルクルと回転させることにより撚りをかけてゆきます。

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