説話に登場するペルシャ絨毯

説話に登場するペルシャ絨毯

説話に登場するペルシャ絨毯

[第 話]

ペルシャ絨毯は高価な工芸品であり、その美しさへの憧憬から説話の題材となることがありました。
空を飛んだり、巨大なダイヤモンドの代わりになったり……。
絶世の美女が妖艶の象徴となるように、ペルシャ絨毯も妖艶の象徴として、神秘性をまとうものになったのでしょう。
わが国では『千夜一夜物語』としても知られるアラビアン・ナイトには、絨毯にまつわる説話が収録されています。
『千夜一夜物語』はペルシャ王、シャフリヤルの妻となったシャハラザードが、毎夜、夫に物語を語る形式を採ったイスラム世界の説話集です。

妻の不貞を知ったシャフリヤル(架空の人物)は妻と相手の奴隷たちを処刑します。
それからというもの、王は街の生娘と宮殿で一夜を過ごし、翌朝には殺してしまうという荒んだ毎日を送るようになりました。
ほとほと困り果てた大臣に、娘のシャハラザードは王の妻となることを願い出ます。
シャフリヤルのもとへ嫁いだシャハラザードは毎夜毎夜、王に面白い物語を聞かせますが、話が佳境に入ると「続きは、また明日」と話を止めるのでした。
王は話の続きが聞きたいあまりシェヘラザードを生かし続け、やがて1000日が経ち、彼女は王の悪習を止めさせることに成功します。

『千夜一夜物語』は、ササン朝期にペルシャ、インド、ギリシャなどの民話を集めて古代ペルシャ語で編纂された『ハザール・アフサーナ』(千の物語)が、アッバス朝期にアラビア語に翻訳されてその原型ができたとされます。
アラビア語の題名は『アルフ・ライラ・ワ・ライラ』で、これを訳すと千夜一夜になります。
1704年にフランスでフランス語版『千一夜』として、1706年にはイギリスで英語版『アラビアンナイト・エンターテイメント』として出版され、世界中に知られるようになりました。
日本では英語版から翻訳が行われて1875年に『暴夜物語』として出版され、以来英語・フランス語などのさまざまなバージョンからの重訳が行われています。

アラビア語の写本では282夜(約35話)しかありませんでしたが、フランス語版では、約480夜(260話)となりました。
魔法の絨毯の話もこのときに追加されたものです。
その後、ヨーロッパでは残りの物語を探すことが盛んになり、19世紀には現在の1001夜分を含む形で出版されるに至ったといいます。

『千夜一夜物語』にはいくつもの版があり、魔法の絨毯が登場するのはヨーロッパに初めて『千一夜』を紹介したアントワーヌ・ガランの版では「アフマッド王子と妖精パリ・バヌー」、ジョゼフ・シャルル・マルドリュスの版では「ヌレンナハール姫と美しい魔女の物語」です。

インドのスルタンが亡くなった兄の娘であるヌーロニハルの結婚相手を選ぶため、3人の王子にこの世で一番珍しいものを持って来るよう命じます。
そこで長男のフセインが、ヴィジャヤナガル王国で見つけたのが、空を自由に飛ぶことができる魔法の絨毯でした。
紆余曲折ののち、ヌーロニハルと結婚できなかったフセインは、魔法の絨毯に乗って旅に出てしまったという話です。

実は魔法の絨毯の伝承は『千夜一夜物語』よりも古くからあり、旧約聖書にも登場しています。
それによれば、古代イスラエルのソロモン王が所有していた魔法の絨毯は、縦横約90kmという巨大なもので、緑色の絹の生地に金色の横糸が入っていたとされます。
空を速く飛び、ダマスカスで朝食をとり、メディアで夕食をとることができたとのこと。
メディアは紀元前550年まで存在した古代イランの王国です。

また13世紀のユダヤ人学者、アイザック・ベン・シェリラが書いた写本では、トランの王子が敵の城を攻撃するに際して、魔法の絨毯の上に弓兵部隊を配置し、その用法を実演したといいます。
更にイスラム神秘主義の伝承では、水の上へ絨毯を敷き、その上で祈ろうとした聖人に対し、ラービア・アダウィーヤという聖女が空へ浮かべた絨毯に乗り、「私はこっちで行いますので」と告げたというものがあります。
しかし、魔法の絨毯をイスラムの支配者たちは邪悪なものと考えていたようです。

魔法の絨毯についてはそれぐらいにして、ペルシャ絨毯の起源を示唆する別の説話があります。
バラッシュ王の絨毯の物語です。
エラム王国のバラッシュ王は巨大なダイヤモンドを所有していましたが、盗まれて岩だらけの平原に落とされ、何千ものきらめく破片に砕け散りました。
王は、まるで絨毯のように一面に砕け散ったダイヤモンドを見てとても悲しみ、その場を離れようとしませんでした。 王を宮殿に誘い戻すために、ペイエムと見習い絨毯職人とその仲間たちは、砕け散ったダイヤモンドと同じくらい鮮やかな色の絹の絨毯を織りあげました。
研究者の中には、これを実話に基づくものとする者もいます。

ペルシャ絨毯は実際に空を飛ぶことはありませんが、その美しく精緻なデザインを見ると空を飛んでいるが如く、心が躍ることでしょう。

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