トライバルラグの魅力とは?

トライバルラグの魅力とは?

トライバルラグの魅力とは?

[第 話]

トライバルラグは、ある部族の民族性、歴史、宗教、地域性などを背景に延々と培われてきた、伝統的なデザインやスタイルを持つ絨毯です。
それらは職業人たる絨毯作家が手がけた「高級なペルシャ絨毯」とは異なり、素人が製作した、いわゆるフォークアートの部類に属するものです。
それゆえ本流のペルシャ絨毯とは区別されることが多く、美術品や工芸品のコレクターの収集対象にはなることはあまりありません。
しかし、アフリカの仮面や古伊万里の皿に熱を上げる人たちに同じく、トライバルラグに魅せられてしまった人たちは、その世界から抜け出せなくなってしまうようです。

別の機会に紹介しますが、欧米にはトライバルラグの熱狂的コレクターが何人もいて、古いイランやコーカサスのものを中心に、博物館と肩を並べる、あるいはそれ以上の素晴らしいコレクションを築いています。
今日、トライバルラグを収集する意義は、おおかた作品の工芸的な価値にあります。
目利きはデザイン、色彩などの表現力に基づいて、最も美しい作品を選択します。
しかし、どのように美しい作品ではあっても、それは芸術品として製作されたものではありません。
それぞれの部族が共有する価値観と美学を伝え、文化の独自性を表すものがトライバルラグなのです。
つまりトライバルラグは部族のアイデンティティの具現であり、だからこそ部族民の女性たちは自らの魂を込めてそれを織るのです。

経験を積むと、作品に魂が宿っているのをを感じ取ることができるようになります。
トライバルラグは私たちの五感に訴えかけます。
それらのデザインと色彩は未知なる歴史に対する私たちの隠れた浪漫をくすぐり、まるで詩を奏でるが如くにモダンなリビングルームにも古(いにしえ)の浪漫に包まれる喜びをもたらすのです。
トライバルラグをインテリアに採り入れるのは、とても楽しいことです。
トライバルラグを愛する人たちは、それが織られた場所の風景やそれを織った者の人生を想像します。
更に作品が古いものであるならば、今日までどのような運命を辿ってきたのかが加わり、時が経つことさえ忘れてしまいます。 海外旅行が当たり前となった今日です。
多少の困難さえ覚悟すれば、部族が暮らす地域を訪れることも不可能ではありません。
しかし、その一端に触れることはできたとしても、部族民たちが過ごしてきた過去の時間を共有することは絶対にできないのです。

トライバルラグの魅力とは何でしょう。
前述したようにトライバルラグは部族のアイデンティティの具現です。
つまり、トライバルラグは部族と一体化したものなのです。
人は自らが得ることができないものに憧れます。
管理化された文明社会に暮らす私たちが憧れるのは時計に指図されない時間であり、自由で奔放な生活であり、手付かずの自然に囲まれた環境です。
それらを想起させるもの、それがトライバルラグです。
「憧れる」の古語は「憧る」(あくがる)で、それは心が彼方の世界に向けて遊離することを意味しました。
つまり、私たちが現実と呼ぶこの世界を包み込む何かを強く志向することを意味していたのです。
トライバルラグの魅力とは現代人の誰しもが憧れる超現実への誘引。
まさにその一点に尽きるのではないでしょうか。

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