ペルシャ絨毯に掘り出し物はあるのか?
[第 話]
ペルシャ絨毯に限らず「掘り出し物」を探しているという方が結構いらっしゃいます。
よい品を安く買いたいというのは誰もが思うことでしょう。
よって掘り出し物という言葉にはとても魅力がある訳ですが、実はこの言葉には大きな落とし穴があることも知っておかなければなりません。
中古市場であれば掘り出し物は存在するかもしれません。
ただし、中古市場は玉石混交ですから、本物と偽物を見分ける眼がないといけません。
しかしながら新品となると……取扱店が経営難で資金繰りに困っているとか、倒産してしまい商品が競売にかけられているとかといった例を除けば、そんなものは存在しないと考えた方が賢明です。
当ホームページにて偽物についての記事を掲載していますが、偽物に引っかかる典型的なタイプが、こうした「掘り出し物狙い」の人たちなのです。
(新品の)ペルシャ絨毯について言えば、掘出し物などないと考えるのが賢明です。
ものには「相場」というものがあり、市場においては相場をもとに商行為がなされるのは常識。
それは何もペルシャ絨毯に限ったことではないでしょう。
まともな商人であれば、相場で100万円はする商品を10万円で売る人はいません。
翻せば常識外に安い値段が付いているものには、必ずカラクリがあるということ。
美味い話には必ず裏があるのです。
もちろん、中古市場であればその限りではありません。
しかし、掘出し物を探しているという人は例外なく新品がほしいと言います。
新品を取扱う市場で掘出し物など存在する筈がないことは、常識的に考えれば理解できるにもかかわらずです。
セーラフィアンのドザールを百万円ぐらいで買いたいという人がいました。
そんな価格で買えるならこちらが欲しいぐらいです。
「その値段ではイランに行っても買えませんよ」と申しあげたら、「そうですか、それでは気長に探します」と言って電話をお切りになりました。
リッツカールトン東京は一泊10万円以上しますが、何とか1万円で泊まれるプランがないかとネットで探しまくる。
これと同じで、単なる「ない物ねだり」にすぎません。
挙句、詐欺サイトに引っかかって、まんまとお金を騙し取られてしまうのは、よく聞く話です。
それでもというのなら、借金の支払に追われて首が回らない廃業寸前の店を根気よく探すしかないでしょうね。
とはいえ、そんな店にまともな商品があるとは思えませんが。
いつもお世話になっているご同業の先輩は次のようにおしゃっていました……「物の価値を理解せず価格で判断するから騙されるのです」……まさにその通りです。
悪徳絨毯屋に騙される人というのは、まず自分というものを持っていません。
自らの価値基準に基づいてではなく、皆がよいと言っているから欲しいという訳です。
だから有名工房の名をちらつかされて半額などと言われると、いとも簡単に騙されてしまう。
物の価値をわかっている人というのは、商品の内容を理解して、それに相応しい値段で買おうとします。
こうした人たちは絶対に工房名で選びませんし、掘出し物など探しもしません。
「絨毯の価値を決めるのは工房名ではなく内容である」「真っ当な市場に掘出し物など存在しない」ということを十分にわかっているからです。
だからこそ「類は友を呼ぶ」で、次々とよい品が集まってくるのです。
以前、某上場企業の社長様のペルシャ絨毯コレクションを拝見したことがあるのですが、それはそれは酷いものでした。
都内の一等地に建つ豪邸に敷かれている十数枚のペルシャ絨毯は、偽物のオンパレード。
本物は一枚としてありません。
社長様はとにかく掘出し物が大好きなご様子。
一流店には興味がなく、怪しげな店を渡り歩いては法外に安い値段で買うことを楽しみにしているようでした。
豪華な家具の傍に敷かれた質の悪い偽物がとてもアンバランスで、「◯◯を安く買ったよ!」と自慢する言葉がとても虚しく感じられたものです。
駄物もまた、駄物を呼ぶのです。
「500万円の絨毯を100万円で買った!」と悦に入っていても、見る人が見れば値段相応かそれ以下である場合がほとんど。
悲しいかな、これが現実です。
掘り出し物を狙うというのは潜在的に他人よりもよい思いをしたい、他人を出し抜きたいと考えているからであって、そこにあるのは「欲」以外の何者でもありません。
「類は友を呼ぶ」で、欲は欲を呼ぶもの。
「いや〜お客様、実は掘り出し物があるのですよ。これは有名な◯◯工房の作品なのですが、実は◯◯が急にお金が必要になり、赤字で手放すというのを買ったものです。ラッキーでしたね、相場の半額以下ですよ!」などと言われて◯◯工房の偽サイン入りのマラゲ産を相場よりも高く買ってしまうのが、こうした人たちです。
偽物の他、致命的な瑕疵がある品などもこの手口で販売されることがよくあります。
掘り出し物にはくれぐれも注意しましょう。