ペルシャ絨毯に描かれた糸杉について
[第 話]
イラン文化の中にある糸杉は、永遠の美と民族の魂の象徴です。
イランでは、3月6日から13日までが「天然資源週間」に制定されており、その初日に当たる6日は「植樹の日」として様々な行事が開催されます。
古来、イラン人たちは樹木を尊んできました。
とりわけ糸杉は崇拝の対象とされ、イランの国樹にもなっています。
植樹の日には多くのイラン人たちが故人を偲んで木を植えるのです。
イランにおいて最も有名な糸杉がカシュマール糸杉で、ゾロアスター教の開祖であるザラスシュトラ(ゾロアスター)の神聖な糸杉として知られています。
この糸杉の物語は古代の預言者ザラスシュトラの教えに遡ります。
ゾロアスター教の教典であるアベスターによると、カシュマール糸杉はザラスシュトラが天から持参してカシュマールの地に植えさせたものでした。
とても大きくて美しいカシュマール糸杉でしたが、それは単なる樹木ではありませんでした。
地上の美と神との繋がりの象徴でもあったのです。
その存在は何世代にもわたって人々の想像力を掻き立て、文学、芸術、説話などの中心的な役割を果たしました。
しかし、カシュマール糸杉の物語は悲劇と災いの物語でもあります。
神聖なる存在であったにもかかわらず、この糸杉は人間によって伐採されてしまうのです。
カシュマール糸杉の噂はムタワックル・アッバシ・カリフに伝わり、カリフはニシャープールの総督であるアブ・アッタイブにカシュマール糸杉を切って自分に届けるよう命じました。
カシュマールのゾロアスター教徒は、金貨5万枚を支払う代わりに糸杉を切らないでほしいと懇願します。
しかし、彼らの願いは聞き入れられず、糸杉は切り倒され、バグダッドのカリフの元へと運ばれてゆきました。
糸杉がバグダッドに到着する前日、ムタワックルは殺害されます。
これは、カシュマール糸杉を自分のものとした者は殺されるというザラスシュトラの預言に合致していました。
この糸杉は伐採された時点で樹齢1400年以上だったと言われます。
カシュマール糸杉の伐採は時代の終焉を告げ、地上の栄光の儚さを知らしめました。
しかし、その伝説は残り、ペルシャ絨毯の文様やイランの人々の記憶の中に生き続けています。
ペルシャ文学では、糸杉は節度、強さ、誇りの象徴として言及されています。
モハマド・タキ・バハールやカーニなどの詩人は、詩の中でその高さを称賛し、それをイランの魂の崇高な理想に例えています。
何世紀にもわたって、糸杉はイランの土地の誇り高いシンボルとして立っており、変化の風や時代の潮流に対してしっかりと立っています。
ペルシャ絨毯では、糸杉に新たな生命を吹き込み、鮮やかな色と複雑なデザインの中にその壮大な魂が織り込まれています。
ペルシャ絨毯に描かれた糸杉は、永遠の優雅さを呼び起こし、イラン文化の不朽の精神を反映しているのです。
糸杉は卓越性と高揚感の象徴です。
この永遠の木は、地上の世界と天上の世界との繋がりを可能にし、それゆえ、イランの歴史上のあらゆる時代においても崇拝されてきたのです。
糸杉は様々なペルシャ絨毯の中でその永遠の魂を物語り、イランの美しい自然と悠久の歴史の中に私たちをいざないます。
糸杉で飾られたペルシャ絨毯を目にするたび、イラン文化の素晴らしさを感じ取ってください。