ファラハンのペルシャ絨毯について
[第 話]
イラン中西部のアラク地方で製作された「ファラハン・サルーク」と呼ばれるアンティークのペルシャ絨毯は、優れた品質とユニークなデザインが際立っています。
ファラハン・サルークにはメダリオン・コーナーのパターンがよく見られますが、それらは19世紀のペルシャ絨毯らしい、滑らかな曲線と幾何学的なスタイルを組み合わせた素朴な雰囲気のあるものです。
ファラハン・サルークはヘリズ絨毯やセラピ絨毯の角張ったデザインに似たものが多いのですが、それらに比べるとより繊細です。
このデザインの繊細さは、緻密な織りと密接に関係しています。
ファラハン・サルークの色彩は、テラコッタ・レッド、繊細なブルーとグリーン、パステル アプリコットとイエローを強調した、豊かでありながら柔らかな色合いです。
ファラハン・サルークはサルークの周辺で製作されていましたが、同じ地域の他の絨毯と区別するために「ファラハン」という名が冠せられました。
ファラハン・サルークとして区別する必要があったのは、もちろん品質が秀でていたからです。
ファラハン・サルークは、18世紀半ばから100年にわたって製作されたといわれますが、19世紀の半ばから製作されるようになったとする説もあり、現存しているものから推察すると、後者の方が正しいように思えます。
それはさておき、ファラハン・サルークはウールのパイルに木綿の縦横糸で、横糸は青またはピンクがかった赤に染められています。
織りはペルシャ結びでとても細かく、多くのパターンは都市部のデザインと部族のデザインの両方が組み合わされています。
多くの場合、花柄のボーダーと、柔らかく淡い赤またはピスタチオ・グリーンのフィールドがあります。
ファラハン・サルークは、サルークとも呼ばれ、2本の横糸を用いるダブル・ウェフトで、村のスルタナバードの絨毯よりも結び目が多く重いです。
地は青や象牙色であることが多く、デザインには大きなメダリオンや木や鳥の表現が描かれるのが一般的です。
ファラハン・サルークに対する西洋の関心は、1873年のウィーン万博で展示されたことに端を発しています。
これらはペルシャ絨毯を西洋に輸出していたタブリーズの商人への対応として開発されました。
デザインはスルタナバードの織手たちに託されましたが、彼らは細かい模様を織り上げるのに苦労しました。
そのため、これらのカーペットはややアンバランスで、不均衡になりがちです。
紛らわしいのですが、アラク地方ではファラハン・サルークの他に「ファラハン」と呼ばれるペルシャ絨毯が製作されていました。
スルタナバード地方のファラハン平原は、テヘランとハマダンの間に位置する肥沃な農業地帯です。
ファラハン絨毯はここで生まれました。
ファラハン絨毯は、この地域の裕福層向けにデザインされたため、ペルシャの古典的な伝統的なラグに似た花柄のスタイルを多数持っています。
タブリーズ文化の多葉のメダリオンとペルシャのサルーク絨毯のデザインの花柄やパルメットを融合させた結果、真似のできない荘厳でありながらシンプルなデザインが生まれました。
ファラハンは、1870年代から1913年にかけて生産されていましたが、横糸が1本のシングル・ウェフトで、幅が狭くて長い、またはリビングサイズのものでした。
全体にヘラティ模様あるいは花とカールした葉のモチーフが描かれています。
あらゆる天然染料を使用して、落ち着いた色合いから繊細で非常に魅力的な色合いまでがあります。
フィールドの地色としてよく使われるミッドナイト・ブルーは、アンティークのファラハン絨毯に使用されていた独特の色です。
ファラハンの絨毯は、深い森の緑から柔らかい青磁色、濃いアップル・グリーンまで、珍しい緑の色合いを巧みに使用していることが特徴です。
またファラハンは他のスルタナバードの絨毯よりも織りが細かく、ドザールのサイズでは80万ノットに達するものもあります。
エッジはラウンドで、一部の作品は珍しいライト・グリーンからアップル・グリーンの色合いになっています。
ファラハンが純粋に商業的な理由で生産されるようになったのは、1910 年代に入ってからです。
19世紀に製作されたオリジナルのデザインは、いまでは見つけにくくなっていますが、その優れた職人技、ウールの品質、多様なカラーオプション、耐久性は、当時としては驚異的でした。
これらの要素の組み合わせにより、1900年代半ばにヨーロッパやアメリカで高い需要があったユニークなペルシャ絨毯が誕生したのです。
しかし、ファラハン・サルークやファラハンの人気は、アメリカン・サルークが台頭するにつれて衰えました。
アメリカン・サルークは、アメリカ人の趣向に合わせてデザインされました。
色は、通常はバーガンディやローズですが、青もあり、木製家具と調和する色が選ばれました。
モチーフは、伝統的なペルシャ絨毯よりもまばらに花、蔓、葉が展開されたデザインです。
染料はアルカリ洗浄に耐えられなかったため、赤色の背景を塗って色を濃くしました。
そのため「ペインティング・サルーク」とも呼ばれます。
今日もこの地域では、ファラハン・サルークとファラハンの伝統を受け継いだ、天然染料を使用した良質のペルシャ絨毯が製作されています。
カシャーンやイスファハンのような都市部のペルシャ絨毯はより細かい装飾が施されています。
ファラハン・サルークやファラハン絨毯の個性的なはデザインはこれらとは一線を画しています。
「完全な芸術」とは、都市部の絨毯を指した言葉なのです。
一方、ファラハン地方の絨毯は、パターンや色、スタイルにそれほど正確さがないため、各職人のセンスが個々の作品に反映されています。
デザインやサイズの曖昧さ、色の不均等さが、ファラハン・サルークとファラハンのユニークな性質を物語っています。
化学染料の使用と、類似した標準的な構造のデザインの採用により、1920年代以降に製作された作品は魅力が薄れ、人々はそれらを避けるようになりました。
18世紀後半から 19世紀初頭のアンティークのファラハン地方の絨毯は、様々なサイズで見つけることができます。
アンティークのファラハン絨毯の大部分は部屋サイズや小さな散らばりサイズで見つかりますが、宮殿用の特大サイズの絨毯もあります。
しかし、本物のアンティークのファラハン・サルークやファラハンは、特に状態が良好な場合は極めて高く評価されていますが、ますます見つけにくくなっています。
これらはアンティークのペルシャ絨毯の中でも高いランクにあるコレクターズアイテムです。
愛好家やコレクターは、最高のファラハン絨毯を常に探しています。
比類のない美しさと、エリート層からの需要により、市場価値は絶えず上昇しているのです。