ジャーファル・ラシュティアンの作品
ヤドッラー・サフダルザデ・ハギーギの工房で製作され、「サロッラー」と命名された絨毯。
カルバラ(イラク)にあるイマーム・ホセイン廟に奉納するために作られたもので、構想は1957年に始まり、以後57年の歳月を経て完成に至ったといいます。
アシュラ(殉教の日)の一日をテーマにしたフィールドをマフムード・ファルシュチアンが4年をかけて、後述するボーダーはジャーファル・ラシュティアンが数ヶ月をかけてデザインし、更に8年をかけて製織されました。
本作はヤドッラーの死後、息子のホルムズによってイマーム・ホセイン廟に奉納され、現在、隣接するイマーム・ホセイン博物館に展示されています。
ラシュティアンがデザインしたサロッラー絨毯のボーダー部分。
イランでは「カシ・カリ」とよばれるタイル文様とアラベスクを伴うイスリム文様によって構成されており、等間隔に配置された八芒星の中にはメッカのカーバ神殿やエルサレムの岩のドームをはじめとするイスラムの聖なる建造物が描かれています。
画像にあるのがイマーム・ホセイン廟で、イスラムの始祖ムハンマドの孫であったホセインがカルバラの戦いで殉教した地の近くにあります。
光の反射をうまく表現したドームや尖塔の描写はもとより、力強いボーダーとは対照的にガードに優し気な花々を配し、うまくバランスをとっている点は流石といえるでしょう。
ちなみに本作を所蔵するイマーム・ホセイン博物館は2009年に開館。
中世の時代にイスラム諸国の皇帝や王、カリフ(宗教指導者)から奉納された品々が収められており、国連の代表者からは世界のトップ10に入る博物館と賞されました。
ラシュティアンのデザインをもとに製作されたクム・シルク。
マッルージの作品です。
ケルマン風の大きな楕円形のメダリオンとボーダーの四隅に置かれた円の中にはシラーズにあるハーフェズ廟が、フィールドに配された八芒星にはシラーズのサーディー廟(上左)、トゥースのフェルドーシー廟(上右)、ニシャープールのオマル・ハイヤーム廟(下左)、ハマダンのババ・ターヘル廟(下右)というイランが生んだ大詩人の霊廟が描かれています。
また一面に展開するアラベスクを伴うイスリムは力強さに満ちており、サロッラー絨毯との共通性がはっきりと見てとれます。
本作は1980年代のものですが、こうした西洋絵画的技法を用いた作品は当時もいまもクムではほとんど製作されておらず、意匠図の作成をラシュティアンが手がけたのはそのためでしょう。