鑑定団でペルシャ絨毯と鑑定されたイラク絨毯

鑑定団でペルシャ絨毯と鑑定されたイラク絨毯

鑑定団でペルシャ絨毯と鑑定されたイラク絨毯

2013年6月18日に放送されたテレビ東京の看板番組『開運! なんでも鑑定団』に、当時、自民党の広報部長で、現東京都知事である小池百合子氏がゲストとして出演されました。
小池氏が持ち込んだのは1990年に人質解放を求めてイラクのバグダッドを訪れた際、骨董店で購入したというイラク絨毯でした。

鑑定士は神戸にある絨毯ギャラリーの大熊克己氏で、小池氏の本人評価額100万円に対して大熊氏の鑑定額は80万円。
大熊氏曰く、「染料と素材が融合して爛熟期に入った素晴らしい絨毯。イラク王国がイランに発注して織らせたものではないか。イランの町ごとに様々な絨毯が作られていたが、依頼品はおそらくケルマンという町で織られたものだろう。上部に「バスラ刑務所で織られた」というアラビア文字があるが、これは後から入れられたものではないか。この字で紋様の上半分が欠けてしまっている。こういうことはまずあり得ない。小池先生はイラクで織られた物と仰るが、代表的なペルシャ羊の毛で、織り方もペルシャの物であり、イラン以外は考えられない」とのことだったようです。
小池氏は「先生、これはイラン製じゃなくてイラク製ですよ!」と言い出し譲らなかったとか。
鑑定結果にクレームをつけたのは彼女が初めてだそうですが、結論から言うと小池氏の方が正しいです。

イラクでは1930年代からまで、バスラだけでなく、バグダッドやモスールなど、国内各地の刑務所で絨毯が製作されていました。
これはイラクに限らず、トルコやインドでも同じでした。
内務省は刑務所内の産業をさまざまな意味で成果とみなしていました。
絨毯織りは、手工業は規律の手段であり、自社製品の販売によって刑務所の運営資金を調達しており、刑務所で生産される絨毯の多くは品質の高いものでした。
刑務所の看守たちは、特に反復的で単調な作業であったカーペット織りと結び目を受刑者への規律の一形態として好んでいたようです。
この産業は、受刑者を更生させ、釈放後に社会におけるスキルを身に付けさせるためでもありました。
インドの刑務所で製作された絨毯は「ジェイル・カーペット」と呼ばれ、いまではコレクターたちから珍重されています。

イラクの刑務所で製作された絨毯のデザインはペルシャ絨毯に倣っており、タブリーズ風、カシャーン風、ケルマン風など、いくつものデザインがありました。
中でもイラク王国(1938〜1958年)の紋章を織り出したものは代表的で、ベースカラーは濃紺の他、生成り色のもものあり、素材もウールだけでなくシルクで製作されたものもありました。
ケルマンの絨毯作家であったアルジュマンドがこれによく似たデザインの絨毯を製作しており、小池氏のイラク絨毯はこれに倣ったものと考えられます。
他にはイラクの地図を織り出したものや、タブリーズのハジ・ジャリリやカシャーンのダビール・サナイの作品を真似たものなどがありました。
これらの絨毯には製作された刑務所の名や囚人の名が織り込まれています。

初期のイラク絨毯は品質も高いのですが、今日、眼にする機会はほとんどないと言えます。
この種のイラク絨毯は極めて希少価値の高いもので、80万円などという鑑定額はあり得ません。
その後イラク絨毯の品質は低下し、イラクの名所を織り出した小さなものが主流になっています。

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