ペルシャ絨毯はイランのアイデンティティを映し出す鏡
[第 話]
ペルシャ絨毯はイランのアイデンティティを映し出す鏡です。
ペルシャ絨毯はこの国の波瀾万丈たる歴史の中で生き続け、いまもその存在を確固たるものとしているのです。
絨毯織りは、イランにおいて最も古く、最も有名な手工芸の一つです。
世界最古の絨毯はアケメネス朝期のイランで作られたと信じる人たちがいます。
その真偽はともかく、ペルシャ絨毯が悠久の昔より存在し、その技術が様々な地域に伝搬していったことは紛れもない事実です。
色柄の美しさは、ペルシャ絨毯が存続してきた主な要因の一つでしょう。
かつての絨毯作家たちは、試行錯誤を繰り返し、ペルシャ絨毯を世界で最も美しい敷物へと昇華させました。
イラン人は誰しもが、わが家にペルシャ絨毯を敷きたいと願望しています。
そしてペルシャ絨毯を敷くことで、室内に更なる美観と最適さを与えようとしてきました。
床を絨毯で覆うことは、たとえそれが粗末な家であったとしても、イランにおける室内装飾の揺るがざるべき鉄則であるのです。
ペルシャ絨毯は高価であるため、すべての人が購入することはできません。
しかし、ペルシャ絨毯を自宅に敷くことは、イラン人にとっての憧れである以上に特別の意味さえ有しているのです。
昔はイランにおけるインテリアのスタイルが、いまとは少し異なっていました。
ソファや椅子を使用することはあまりなく、それらを室内に持ち込むのは上流階層ならでは趣味だったのです。
イランの一般家庭では部屋の床一面を絨毯で覆い尽くすスタイルが普通で、ソファや椅子の代わりに壁にクッションを立て掛けていました。
当然、床一面を覆い尽くすような大きな絨毯は高価です。
そこで大きな絨毯の代わりに小さな絨毯を何枚も並べて敷くスタイルが人気になりました。
モスクもまた、昔からペルシャ絨毯が敷き詰められている場所の一つです。
かつての王たちは自らの信仰の証しとして高価な絨毯をモスクに奉納していました。
イラン人にとってペルシャ絨毯は特別な存在であることは先に述べましたが、モスクや宮廷では、それらを美しいまま維持する仕事は指定された管理人に委ねられていました。
管理人は貴重な絨毯が傷まないよう絵画のように壁に掛けたり、丸めて部屋の隅に置いて特別な儀式にだけ使用したりしたのです。
このようにペルシャ絨毯は敷物という物質としての存在を超越し、イラン人の、思想、精神、信仰さえをも包括した、形而上または理念的な存在として崇められてきたのです。
織手たちはペルシャ絨毯を織り始めるにあたって『コーラン』の一節を唱えます。
『コーラン』は神の言葉そのものです。
ペルシャ絨毯は神によって作ること、使うことを許された、神からの賜り物でもあるのでしょう。
イランの歴史はペルシャ絨毯とともにありました。
言い換えればペルシャ絨毯は、イスラムの国家イランの歴史を通して進化を遂げてきたといえるのです。
いずれにせよ、ペルシャ絨毯がイランのアイデンティティを映し出す鏡であることは疑いようがありません。
今日、イランの輸出産業の柱の一つになっている商業的役割とは別に、ペルシャ絨毯は文化的役割も担っています。
ペルシャ絨毯の価値は、そうしたソフト面における価値をも含んでいることを私たちは認識する必要があります。