カシャーン産のペルシャ絨毯について
[第 話]
カシャーン絨毯は、おそらく一般の人々の間で最もよく知られているペルシャ絨毯です。
オーソドックスなメダリオン・コーナーのパターンはカシャーン絨毯の代名詞であり、イラン人が人生でこのデザインを見なかったということはあり得ないほどです。
その有名な茜色の絨毯は、長い間ペルシャ絨毯の中でも人気を獲得していました。
カシャーン絨毯のこのデザインは昔の写本の装丁のデザインから採られたもので、サファヴィー朝期からカシャーンの絨毯工房で使用されてきたと考えています。
カシャーン絨毯のメダリオン・コーナー・パターンにはいくつかのバリエーションがあり、カシャーンの絨毯デザイナーであったミールザ・ナスロッラー・ハーン・ナグシュザデやセイエド・レザー・ハーン・サナイの影響を受けているものがあります。
これらに使用されているパルメットは「シャー アッバスの花」としても知られていますが、カリンプール、サイード・アリー・サナイ、タグディシ、ハサン・マラファティ、モハンマド・サイード、フォルーザンら、現代の絨毯デザイナーもこのスタイルの作品を発表しています。
パルメットをあしらったアフシャンは、メダリオン・コーナーに次いで有名なパターンです。
ミールザ・アッバス・サナイとその息子、ハジ・モハンマド ・サナイはアフシャンの作品をよく製作していました。
彼らの作品は現在でも織り直され、模倣されています。
その他のカシャーン絨毯のパターンには、ミフラブ、ツリー、ペイズリー、ピクチャーなどがありますが、とりわけピクチャー・パターンについてはアフサリ家、特に故セイエド・モハマド・アフサリ氏と故セイエド・ネザムディン・アフサリ氏、そしてカシフ氏、モハマド・アガー・カセミ氏、モハマド・サイード氏らによって素晴らしい作品が製作されていました。
アフサリの母親と姉妹は、絵葉書を使って絨毯を織っていたことが知られています。
これらの作品は通常、約90ラジのノット数があり、コンピューターや意匠図を使用せずに製作することを考えると、これらの作品の並外れた品質の高さが理解できます。
ピクチャー・パターンのカシャーン絨毯には主に次の3つのタイプがありました。
1. 風景:
このタイプでは、自然の風景やイランの遺跡、細密画に描かれた祝宴の風景などを織り出しています。
これらの中には、いくつかの博物館に展示されているものもあり、かつてのカシャーン絨毯のクォリティの高さを物語っています。
2. カリグラフィー:
このタイプでは、イスラム教の神や預言者、宗教指導者の名前、またはコーランの文言などが、フィールド上に配置され、場合によっては余白で囲まれます。
肖像が描かれることはなく、ペルシア語またはアラビア語の文字が使用されます。
3. 肖像:
このタイプでは、肖像を実際の写真や絵画に基づいて織り出します。
1970年代には、王室の命により、各国の元首や政府首脳の肖像絨毯がアフサリ兄弟たちによって製作されました。
カシャーン絨毯には、ウールの絨毯とコルク・ウールの絨毯、シルクの絨毯の3つがあります。
ウール絨毯は35ラジ(25万ノット)前後のノット数で手頃な価格ですが、踏まれることにより柔らかさが出てきます。
このためカシャーン産のウール絨毯は、サルーウク絨毯に次いで、モスクに敷かれることがよくあります。
コルク・ウールを使用したカシャーン絨毯ではノット数が増えて40ラジ(36万ノット)前後となり、パート・シルクの技法を用いた、より精巧な絨毯となります。
シルク絨毯はイラン産の絹糸(正絹)を用いた高級品で、ノット数も70ラジ(100万ノット)以上になります。
生産数は少なく、希少価値の高い絨毯としてコレクターにも人気です。
カシャーンは古くから絨毯織り業のほかに、染色の分野でも名を知られてきました。
カシャーンの人々の歴史的背景と高い技術により、この町の染色方法は世界最高水準のものとなっています。
カシャーンの職人たちが持つ染色の知識は、この町の絨毯によい影響を与えました。
カシャーン絨毯の色は、ペルシャ絨毯の中でも最も美しい色の一つとされています。
有名な茜色のほか、クリーム色、紺色、淡緑色、水色は、カシャン絨毯で最もよく使われる色です。
カシャーン産のペルシャ絨毯は、優雅さ、色の安定性、多様性、ノットの密度、パイルの柔らかさなど、絨毯として重要なあらをる要素を備えています。
結びにはペルシャ結びが用いられますが、ジュフティ結びはいっさい使われません。
ザロチャラケからガリまでのすべてのサイズが揃っており、毎年、多数の国内外の貿易業者がカシャーン絨毯を世界各地に輸出します。
ただし、カシャーン絨毯には他産地で製作された質の劣るコピー品があることを知っておかなければなりません。
評判の良いペルシャ絨毯専門店からを購入することにより、信頼性と品質についての安心感が得られます。
俗に「ホワイト・カシャーン」と呼ばれるキナリ色をベースにしたカシャーン絨毯。
メダリオンとコーナー、メイン・ボーダーは灰緑色で、全体的に落ち着いた配色になっています。
カシャーン絨毯は赤色と濃紺色をベースにしたものが多かったのですが、1950年代に恐らくナイン絨毯の影響を受けて、こうした明るい色の絨毯が製作され始めたようです。
以後、昔ながらの赤色や濃紺色ベースの作品と並んで、カシャーン絨毯の定番となりました。
やがてアルデカンやヤズドでも、ホワイト・カシャーンを真似た絨毯が製作されるようになります。