「ヘレケ」はペルシャ絨毯ではない

「ヘレケ」はペルシャ絨毯ではない

「ヘレケ」はペルシャ絨毯ではない

時折、ペルシャ絨毯とトルコ絨毯を混同している人がいるのですが、ヘレケ産やカイセリ産などのようにトルコ絨毯でもペルシャ絨毯のデザインを取り入れたものについては、それも致し方ないのかもしれません。
トルコに旅行に行った日本人が土産として買ってくる代表格がヘレケ産のシルク絨毯ですが、ヘレケ絨毯をペルシャ絨毯と思い込んでいる人は結構多いようです。
緻密な織りやデザインはペルシャ絨毯に似ているものの、ヘレケ絨毯はトルコで手織された絨毯、つまりはトルコ絨毯ですから、ペルシャ絨毯ではありません。
ヘレケはイスタンブールから60キロほど東にあります。
ヘレケ絨毯については詳細な説明を見ることがあまりないようなので、この場で解説しておきます。

ヘレケ絨毯の歴史は1890年、オスマン朝第34代皇帝アブドゥルハミド2世の命により、イスタンブール東方のヘレケ村に絨毯工房が開設されたことにはじまります(宮廷直轄の織物工房の開設は1843年。その後、火事で焼失し1890年に再建)。
トプカプ宮殿に代わり新しく建設されたドルマバフチェ宮殿用の絨毯を製作させるため、トルコ全土から優秀な織子が集められました。
西洋風の宮殿に合うよう、伝統的な幾何学文様のトルコ絨毯とは異なる流麗な花葉文様のデザインを採用。
こうしてヘレケ村でペルシャ様式の優美なシルク絨毯が誕生します。
その後、同村とイスタンブール市内のクムカプに開設された宮廷工房で製作されるようになったシルク絨毯は、皇帝からの御下賜品として使われるようになったほか、一部のイスタンブールの絨毯商にも取扱うことが許されるようになりました。
その陰にはイランのタブリーズの絨毯作家、ホセイン・ターヘルザデ・ベヘザードの活躍があったといいます。

1922年にトルコ革命が勃発。
翌年トルコ共和国が成立すると、ヘレケとクムカプの宮廷工房は共和国営となり、さらに40年代に入るとヘレケの工房は民営化、クムカプの工房は閉鎖されるに至ります。
オザベック、デリーン、シュメール、ハンなどの企業がヘレケの工房を引継ぎ、第二次世界大戦後にはウール絨毯の製作も始まります。
しかし、のちにオザベック、デリーン、シュメール工房は廃業し、大手として現在も製作を続けているのはハン工房だけになってしまいました。

ハン工房(屋号はハン・ハリ)は、オスマン朝末期に開設された宮廷工房で監督を務めていたヴェイス・アーにより設立された絨毯工房です。
設立はトルコ革命後の1923年と言われており、宮廷工房の流れを汲む唯一の工房として知られています。
代々アー一族によって営まれ、現在はヴァイスの孫たちが運営にあたっています。
ヘレケ絨毯協会の代表を務めるエルハン・アーが生産部門、ヌルハン・アーは財務部門、そしてセルハン・アーが販売部門を担当。
セルハンが統括するイスタンブールの直営店は、観光の中心であるスルタンアフメット地区から遠く離れたアジア・サイドのバーダット通りにあります。

シルク絨毯については1平方センチメートル中の結び目の数が81(9×9)個以上あることが条件ですが、ペルシャ絨毯に対抗する手段として織りの緻密さを追求したヘレケ・シルクには、1平方センチメートルに1,024(32×32)個の結び目を持つものまで存在しています。
ヘレケ・ウールについては1平方センチメートル中36(6×6)〜49(7×7)個前後が一般的です。
ただし、同じクオリティで他産地にて製作されたものもあり、例えばトカットで製作された同じクオリティの作品は「トカット・ヘレケ」と呼ばれたりもします。

かつてトルコ政府は国内の絨毯産業を保護するため、海外からの手織絨毯の輸入を禁止していました。
ところがその規制が撤廃されると、トルコより人件費の安いイランに製作を依頼する絨毯商が現れます。
その後、イランの経済成長に伴う物価高騰を受け、シフトした仕入先が中国でした。
いまではトルコで販売されているシルク絨毯のうち、前述したハン工房などで製作されたものを除く多くが中国からの輸入品になったと言われています。

なお、トルコへ旅行した日本人の中にはイスタンブールやカッパドキアの現地ガイドが説明する「10歳代の少女が何年もかけて織っている。あまりに細かい作業なので織りあがったときには目が見えなくなっている。だから一生のうち一枚しか織れない」などというお伽話を本気で信じている人がいます。
「私はトルコで現地の人から聞いたのだから間違いない!」とムキになって肯定する人さえいるのですが、こうした類の話はトルコの絨毯屋の完全な作り話。
もし事実であれば、国連なり人権団体なりが黙っているはずがありません。

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