ペルシャ絨毯とアフガン絨毯の違い
[第 話]
イランの東に位置するアフガニスタンは、かつて高品質な絨毯の原産国として知られていました。
日本人にはあまり馴染みのないアフガニスタンの絨毯=アフガン絨毯ですが、実は長い歴史があります。
アフガン絨毯の歴史はアフガニスタンの人々が装飾として、また寒い冬の間家を暖かく保つ手段として絨毯を使い始めた16世紀にまで遡ると考えられています。
アマヌッラー・カーン王(在位1919~1929年)の治世中、アフガニスタンの絨毯作りは芸術的な高みに達しました。
アマヌッラー・カーンは、これまでに作られた中で最も美しく精巧な絨毯のいくつかを発注し、その多くは今日でも博物館や個人のコレクションで見ることができます。
しかし、1979年のソ連のアフガニスタン侵攻により、アフガニスタンの絨毯産業は大きな打撃を受けました。
同国の最高の絨毯職人の多くが逃亡を余儀なくされ、絨毯作りの伝統は永久に失われる危機に瀕したのです。
幸いなことに、アフガニスタンの絨毯産業は近年復興し始めています。
2003年、国連教育科学文化機関 (UNESCO) は、アフガニスタンの絨毯織りを「人類の口承および無形遺産の傑作」と宣言しました。
この出来事は、アフガン絨毯に対する認識を高め、その生産に対する新たな関心を刺激しました。
今日、アフガニスタンの絨毯は、その美しさと職人技により再び高く評価されています。
2008年、2013年、2014年には、ドイツのハンブルクで毎年開催される国際展示会でアフガニスタンの絨毯が国際的な賞を受賞しました。
現在、アフガニスタンの絨毯産業には約120万人から200万人が関わっているとされます。
ここでは初心者向けにアフガン絨毯とペルシャ絨毯の違いについて解説します。
アフガン絨毯にしてもペルシャ絨毯にしても、様々な産地において様々なスタイルやデザインのものが製作されています。
そのすべてを比較することは膨大な作業となりますので、以下に解説するのは、あくまで一般論であることをご承知おきください。
1. 地理的起源
アフガニスタン絨毯とペルシャ絨毯の真髄を真に理解するには、まずその地理的起源を探る必要があります。
ペルシャ絨毯はイランの歴史的な地域に深く根ざしており、何世紀にもわたる伝説的な遺産を持っています。
ペルシャ絨毯はどれも、タブリーズの複雑なデザインであれ、イスファハンの繊細な芸術性であれ、その特定の地域特有の織り方や文化的ニュアンスを反映しています。
一方、アフガン絨毯の起源は、アフガニスタンの険しい地形に根ざしています。
パシュトゥーン人やバルーチ人など多様な民族が暮らすこの岩だらけの地域は、アフガン絨毯に見られる独特のデザインに影響を与えてきました。
この地域の部族の伝統は、アフガン絨毯に余すことなく織り込まれています。
2. 素材
素材は、手織絨毯の品質を定義する上で重要な役割を果たします。
ペルシャ絨毯は、シルクとウールの贅沢なブレンドを特徴とするものが多く、天然染料や上質なクローム染料を使用することで色彩に鮮やかさが加わります。
ペルシャ絨毯の製作に用いられる細心の職人技により、豪華な質感と永続的な優雅さが生まれるのです。
一方、アフガン絨毯の高級品には手紡ぎのウールが使用されることがあります。
耐久性と弾力性で知られるアフガニスタンのウールは、これらの絨毯の丈夫さに貢献しており、人通りの多い場所に適しています。
アフガニスタンの風景に見られる土っぽい色調を彷彿とさせる天然染料は、これらの作品に暖かさと本物らしさを吹き込みます。
ただし、最近ではイランと同じくクローム染料が主流になっています。
3. パターンと文様
アフガニスタン絨毯とペルシャ絨毯を飾る複雑なデザインとパターンは、それぞれの地域の文化的、芸術的表現の視覚的な証です。
ペルシャ絨毯は、花柄、メダリオン、精巧な縁取りなど、多様で詳細なモチーフで有名です。
それぞれのデザインには、織り手コミュニティの歴史と美学を反映した文化的象徴の豊かなタペストリーが伴います。
一方、アフガン絨毯には、幾何学模様と部族文様の独特の組み合わせが見られます。
アフガニスタンの多様な民族の影響を受けたデザインには、八芒星やギュルのような形、大胆な連続模様などが含まれています。
これらのモチーフは織り手の技術を披露するだけでなく、アフガニスタンの伝統と歴史の物語を物語っているのです。
4. 結び方
結び方は、絨毯の質感と耐久性に大きく影響します。
ペルシャ絨毯は、トルコ結びとペルシャ結びの両方を用いて製作されています。
これはおもに地理的要因によるもので、イラン西部ではトルコ結び、中部以東ではペルシャ結びが使用されるのが一般的です。
トルコ結びは頑丈で耐久性に優れていることで知られており、絨毯の堅牢性をさらに高め、時間の経過や摩耗に耐えられることを保証します。
対するペルシャ結びはパターンに複雑なディテールを加えることができます。
何世代にもわたって受け継がれてきたこの結び方は、ペルシャ絨毯の職人技の特徴です。
一方、アフガニスタン絨毯はペルシャ結びを用いて製作されます。
5. 色彩
絨毯の色彩は、その絨毯が産出された地域について多くを語ります。
アフガニスタン絨毯とペルシャ絨毯はどちらも、独特の色彩を持っています。
ペルシャ絨毯は、温かみのあるパステルカラーから鮮やかな宝石のような色合いまで、多様な色彩を誇ります。
天然染料や上質なクローム染料の使用により、調和のとれた色のブレンドがもたらされ、視覚的な魅力が生まれます。
一方、アフガン絨毯はアフガニスタンの風景の自然環境の影響を受け、深い赤、青、土っぽい茶色を特徴とします。
これらの素朴な色調は、アフガン絨毯絨毯のデザインに適合し、この地域の遊牧民の伝統を反映しています。
6. 文化的重要性
アフガニスタン絨毯とペルシャ絨毯は、美的魅力を超えて、深い文化的重要性を持っています。
ペルシャの芸術と歴史に深く根ざしたペルシャ絨毯は、何世紀にもわたって贅沢、名声、芸術的卓越性の象徴として大切にされてきました。
複雑な模様は文化的または宗教的な重要性を持つことが多く、各絨毯は有形の遺産となっています。
一方、アフガン絨毯は、アフガニスタン人の遊牧民の伝統を反映しており、単なる機能的なアイテムではなく、アイデンティティと伝統の持ち運び可能な表現です。
丁寧に精密に織られたこれらの絨毯は、実用的な敷物であると同時に、アフガニスタンの歴史と物語を芸術的に表現したものでもあります。
アフガニスタンで最も人気のある絨毯は「カール・モハンマディ」と「ホジャ・ロシュナイ」です。
カール・モハンマディはアフガニスタン北部で製作されるアチェ絨毯の最高級品で、絨毯作家のカール・モハンマドにより製作されはじめたものです。
主な色は濃い赤色で、使用されるモチーフは八芒星やギュルで、濃い青、黄土色、ベージュの曲線的な花がよく描かれています。
ホジャ・ロシュナイは、主にアフガニスタン北東部に居住するトルクメンのエルサリ族が製作する、アフガニスタンのトルクメン絨毯の最高級品です。
有名な産地には、ファリヤーブ、バルフ、ジョズジャンなどがあり、こちらはエルサリ族のギュルが主なモチーフとなっています。
アフガニスタンは2021年に80万平方メートル以上のアフガン絨毯を輸出し、約3000万ドルの収益を上げています。
2022年には、トルコ、米国、アラブ首長国連邦、イタリア、ウズベキスタンに700万ドル以上のアフガン絨毯が輸出されました。
長きにわたる戦争・内線によりアフガニスタンは経済成長から取り残されています。
そのため産業が少なく人件費も安いことからアフガン絨毯は安価であり、それが競争力の源になっているのです。
アフガニスタンは多くのバルーチが居住しており、バルーチ絨毯の生産が盛んです。
イランのバルーチ絨毯に比べると品質は劣るものの半分以下の価格で買えるため、アフガニスタンのバルーチ絨毯、いわゆる「アフガン・バルーチ」がイランに密輸出され、イラン産として販売されています。
アフガン・バルーチはイランのバルーチ絨毯よりも派手な色調もものが多く、ベースには紺色が使用されることがよくあります。
密輸によりホラサンの絨毯産業は大きな打撃を受けているといわれますが、実際に日本のペルシャ絨毯専門店でもアフガン・バルーチが「ペルシャ絨毯」として販売されているので注意しなければなりません。
カ-ル・モハンマディ