ペルシャ絨毯の色
ペルシャ絨毯には芸術的なデザイン、高品質な素材、心地よい質感など、敷物として求められるすべての要素が備わっています。
しかし、ペルシャ絨毯が人々を惹きつける最大の要素は、おそらくその色です。
ペルシャ絨毯の色はデザインや質感などの要素を補完し、作品の魅力を高める役目を果たしています。
色は最も重要な視覚要素であり、人間が外部環境を認識する最初の段階です。
したがってペルシャ絨毯の色は、見た目だけでなく、作品のテーマを認識させる上でも効果的な要素となります。
ペルシャ絨毯の色は、その土地の人々が長年の経験と試行錯誤を重ねることによって得られたものです。
化学染料が導入されるまでの幾千年もの間、ウールを染色するために植物や鉱物が使用されていました。
イランの複雑な絨毯織り技術の創始者と考えられている遊牧民は、あらゆる種類の海洋生物、在来および輸入の昆虫や植物を使用して、目を引く色を作り出しました。
植物の葉や根、果実から昆虫に至るまで、あらゆるものがペルシャの魅惑的な色を生み出すために使用されたのです。
ペルシャ絨毯では、色はとても重要な要素であるため、産地を特定する基準になることさえあります。
博物館に収蔵されている作品には250 色近くの色が使用されているものが存在します。
これほどに色を複雑に組み合わせた作品を製作するには、長年の経験と専門的な知識はもちろんのこと、並々ならぬ情熱が必要です。 ペルシャ絨毯に使用される色には、それぞれ意味が込められており、パターンや文様を通して伝えたいメッセージに応じて慎重に色が選ばれました。
これらの色が組み合わされて、複雑で美しいデザインが表現されることがペルシャ絨毯の特徴となっています。
ペルシャ絨毯の色の役割
ペルシャ絨毯における色は、作品の美しさや価値を左右する重要な要素の一つです。
つまり、色の選び方や使い方が絨毯の魅力を引き立てる役割を果たしています。
以下に、ペルシャ絨毯の色の役割について解説します。
1. 色彩の美しさ
ペルシャ絨毯は美しい色使いが特徴的であり、色の組み合わせが美しい絨毯ほど高い評価を受けます。
色の鮮やかさや調和が絨毯の美しさを引き立てるからです。
2. 色の意味
ペルシャ絨毯には色にはそれぞれ意味があり、特定の色が象徴するものがあります。
例えば、赤色は情熱や愛を表し、青色は幸運や神聖さを表します。
3. 色の使い方
ペルシャ絨毯では、色を使い分けることで模様やデザインが表現されます。
色の使い方によって、絨毯の模様や意匠が際立ち、絨毯全体の美しさが向上します。
4. 色の価値
ペルシャ絨毯の価値は、色によっても左右されます。
特に希少な色や高級な天然染料を使用している絨毯は、価値が高くなることがあります。
ペルシャ絨毯の色の意味
ペルシャ絨毯の色には意味があるといわれます。
1. 赤
赤はアジアでは幸運の色であり、インドで見られるように、アジアの国々では花嫁が婚礼衣装に赤を用いるのが習慣です。
ペルシャ絨毯においても最も一般的で重要な色とされています。
赤は情熱的でエレガントな印象を与え、力強い存在感を持っています。
赤は血と火の色です。
喜び、幸福、熱意、勇気、強さ、信念、ダイナミズムをもたらすエネルギッシュな色です。
織り手は、特定のデザインやモチーフを強調するために、織りの中でレッド カーペットの色を自由に使用しました。
彼らが持っていたものを強調しました。
赤は活力を感じさせます。赤の色や辛さによって、温かく、元気で元気な色を表し、刺激的な気持ちを表現するときに使われます。人々はより注目を集めるために赤色を使用します。
赤は血と火の色であり、自然の力における 2 つの強力な象徴です。
ペルシャ絨毯では赤色が使用され、幅広い視覚効果を備えた素晴らしいデザインが生み出されます。
初期のカーペットデザイナーはデザインを強調するために赤色を使用し、カーペットのこの色は権力を表していました。
2. 青
青は平和の象徴であり、デザイン内に安寧を生み出すために使用されます。
また、青は信頼と忠誠を象徴するともいわれます。
ペルシャ絨毯では、しばしば天空や海を表す色としても用いられます。
様々な青色があり、深い青から明るい青まで幅広いバリエーションがあります。
ブルーインディゴ染料は、アナトリア西部に生育し、インディゴを生成する同名の植物から得られます。
より深い青であるインディゴは、神秘的な知恵、自己認識、精神的な認識を象徴しています。
青は他者とのつながりを表す色ですが、インディゴは青を内なる思考、深い洞察力、直感へと導きます。
赤とベージュに次いで、青はペルシャ絨毯で最もよく使われる色の一つですが、自然界には青色を作り出すためのリソースはそれほど多くありません。
おそらくそれが、ほとんどのアンティークカーペットがこの色を置き換えようとした理由です。
インディゴブルーで織られたイラン絨毯は、ある神話の孤独の中に希望に満ちた登場人物たちと混ざり合い、死後の世界を思い起こさせます。
3. 紫
紫は赤と青の組み合わせで、力、贅沢、繁栄を象徴します。
薄紫やライラックはロマンスや郷愁の感情を呼び起こしますが、濃い紫は悲しみなどのネガティブな感情を呼び起こします。
4. 金・黄
ゴールドやイエローは富や権力を象徴する色として使われます。
どちらの色もルーツは同じで、インドとヨーロッパに由来し、金を意味します。
イラン人は黄色を太陽の光や人生の喜びと結びつけます。
ペルシャ絨毯では、富と権力の象徴である金色と茶色がよく併用されます。
ただし、この色はペルシャ絨毯のメインカラーとしてはほとんど使用されず、かつて王室や統治者のために織られる絨毯に使用されていました。
5. 緑
緑は自然や成長を象徴する色として用いられ、生命力や安らぎをもたらすとされています。
緑は活力に満ちた森、新鮮な春の草葉、再生を連想させますが、ペルシャ絨毯では緑はメジャーな色ではありません。
コーランの記述によれば、預言者ムハンマドの好きな色はエメラルドグリーンでした。
そのためイスラム教徒にとって、緑は預言者にまつわる神聖な色と考えられています。
織り手は、カーペットのあまり踏まれない部分に緑色を少しだけ使用しました。
ペルシャ絨毯においては、植物や花をモチーフにした柄に緑色が使われることがあります。
イランのアンティークカーペットにはこの色が使用されることがあります。
6. オレンジ
オレンジは赤と似た効果を持ちますが、それほど強力ではありません。
オレンジ色は、活気があり、暖かく、居心地の良い雰囲気を作り出します。
もちろん、オレンジの色合いが異なると意味も異なります。オレンジがカーペット織りに使用されることはほとんどありません。
オレンジは火や興奮を連想させるユーモラスな色です。西洋文化ではオレンジを冒険の象徴と見なしていますが、東洋におけるオレンジの意味は大きく異なります。アジアでは、オレンジは仏教やヒンズー教と関連付けられることがよくあります。
オレンジ色の精神的な意味は、イランのカーペットデザイナーにとって良い選択であり、信仰と犠牲だけでなく敬虔さと謙虚さを表現するために使用されます。
オールドカーペットのデザインでは、オレンジのさまざまなトーンで黄色と赤の色が使用されています。
これらの色を組み合わせると、挑発的な色が生まれ、統一感が生まれます。
7. 茶
茶色は誕生と豊穣の色であり、地球と大地を表します。
イランのカーペットの茶色は母なる惑星である地球を表し、豊穣の象徴として使用されます。
8. 黒
黒は強力な色であり、通常は破滅と破壊をもたらします。
空虚や暗く暗い感情を連想させます。
カーペット織り業者が完全なデザインを作成したり、ペルシャ絨毯のメインカラーにこの色を使用することはほとんどありません。
黒は、特定の詳細なデザインを作成したり、カーペット内の他のデザインとの境界を明確にしたり区別したりするために主に使用されます。
黒は力や邪悪な力、神秘を想起させるフォーマルな色であり、しかし、適切な組み合わせの黒は威厳と栄光を示します。
イランの織り手はペルシャ絨毯のメインカラーに黒色を使用することはほとんどありませんでした。
しかし、デザインの細部を表現するために黒色を使用したユニークなイラン絨毯の例もあります。
9. 白・ベージュ
白は純粋さを表す色です。
ほとんどの国で純粋さと無邪気さの象徴として受け入れられています。
イランの織り手は同じものを信じており、白とベージュを混ぜてさまざまなデザインを作成することがよくありました。
白またはベージュの明るい色合いは、ペルシャ絨毯に使用されるウールの種類によって異なります。
染色とは
染料で繊維を着色することを染色といいます。
染色には、天然染料や合成染料を使用する方法があり、染料の溶液に繊維を浸すことによって色を付けることができます。
染色は色彩を与えるだけでなく、機能性を向上させるためにも行われます。
染料は繊維の表面に固着する場合と、繊維の内部に浸透する場合があります。
繊維への色の定着は、染料の状態および繊維の化学構造によります。
染色職人の技は、繊維に適切な色を固着させることであり、一連の作業によって得られた色は摩耗、光、洗濯に耐性のあるものになります。
こうして染織された繊維は、酸などの化学物質、紫外線、熱、湿気などに対して耐性を備えています。
染色の歴史
イランの染色には長い歴史があります。
イスラム教以前、特にササン朝時代には、染師は特別な尊敬を集めていました。
しかし、染色は通常、腐食しやすい有機素材に対して行われるため、古代の作品はほとんど残っていません。
イラン社会には絨毯や織物の高度な伝統があります。
発見された最古のパイル絨毯は、ペルシャ絨毯の最初の例と説があり、モンゴル郊外のパジリクと呼ばれる地域でルデンコ教授によって発見されました。
この絨毯のボーダーには多数の馬が見られ、緑、青、赤、黄色の色が使用されています。
ギリシャの歴史家クセノフォンは、紀元前400年頃にサルディスの町に存在したアケメネス朝の絨毯工房について言及しています。
この手工芸は次の時代にも続きました。
ザイン・アル・アクバル・ガルディジの本には、このテーマに関連した物語があります。
彼はディバの鉱山を掘って宝石を取り出し、海に行って真珠を見つけ、人々と一緒に染色を学び、衣服を染めるように言いました。
ササン朝の絨毯は、残念ながらアラブの攻撃によって破壊されましたが、タバリーの歴史を含む多くの本で言及されているものとして、バハレスタン絨毯があります。
タバリーはそれについて次のように述べています……彼らはディバで敷物を織った。どこにも花が咲いておらず、緑の世界にもいなかったときに、あなたは冬の扉を開け、そのテーブルを緑のエメラルドとアメジストで編んだ……。 サイラス・パーハムは……イスラム化以前には、イランには少なくとも3つの大きな絨毯の産地があったと考えられています………最初の明らかに繁栄した地域はダラブゲルドであったファサとジャーロムであった。アルジャンの端とレンシン・ケキルエの地に広がるビシャーブール山の第二地域、シャープール、カズロン、トージ、そして失われた町ガンジャンがその主要都市であり、どちらも最も裕福で繁栄した町の一つであった。サーサン朝文明の中心地。カルメ要塞があったボワナットとコンカリの地域は3番目の地域でした。
ササン朝時代に高度な染色の伝統が存在したことを証明するもう一つの理由は、この時代の織物の繁栄と発展です。 染色は繊維に関わる産業の一つだからです。
ササン朝時代、イラン人は織物、とりわけ絹織物を織る技術をもってで模様が織られているか、または白の背景に赤と黒、またはカラフルな青と緑の2色が使用されています。
イランは絹の生産国である中国と、絹織物の最大の消費国であるローマの間に位置し、生糸と加工絹の中継国となりました。
ササン朝の王たちは、シリア征服を目指して自国でこの技術を開発する傾向にあり、織工の大規模なグループをシリアからイラン、特にフゼスタンに移動させました。
残念なことに、イスラム時代に残された最初の作品はイランに関連したものです。
それは9世紀以降のものであり、それ以前の作品を調べるには、書物に頼らねばなりません。
イスラム世紀初期の詩人の一人であるサイード・ナフィシは、著書『生活環境とルダキの作品』の中で次のように書いています。
……ブハラ市には、シャダルヴァン(テントの一種)を織る特別な名手がおり、すべての都市からの商人がブハラにやって来て、シャダルヴァンを手に入れました…… この製品はシリアとローマに売られ、これらが織られたホラーサーンのどこでも、それはよく作られておらず、ホラーサーンの商人は皆、それで作られた服を着ていました赤、白、緑で織りました。
レストレンジの歴史的地理の本には、次のように書かれています。 生糸で作られた織物、テーブルクロス、ナプキン、かぎ針編みのカーテン、特に孔雀、青、緑の色が、ファサのグラブトゥンの間で織られていました。
この歴史的証拠に加えて、ニューヨークのメトロポリタン美術館には絹布の例が2点あり、1つは円を描いた一対のアヒル、もう 1つは円を描いた一対の馬、その周りに鳥の絵が描かれています。この2つの作品は、赤の背景に緑、黄、白、紫の色が施されています。
イランの織物の断片は他の国々でも見つかっており、スタイルや色合いの点でササン朝の織物に似ています。
この織物の主な中心地は、メルブやニシャーブールなどのイランとホラサンの西部であると考えられており、これらの地域には織物工房の隣に染色工房があった可能性が高いようです。
イランでセルジュク朝の統治が始まると、あらゆる技術、特に織物が隆盛を極めました。
メトロポリタン美術館に所蔵されているセルジュク朝期の織物には、オレンジと茶色の模様があり、別の作品には緑と白があります。
セルジューク朝期に製作さるたペルシャ絨毯はこれまでのところ発見されていませんが、この芸術の背景を持つイランの人々もこの時期に活動していたことは確実でしょう。
特にティムール朝とモンゴル時代の細密画に描かれた例はこの点を裏付けています。 モンゴル統治後のティムール朝時代には、中国のスタイルやデザインを求める顧客の要望により、職人や芸術家がこれらの織物を模倣し始めました。
サファヴィー朝期は繊維産業と絨毯産業の発展の最盛期であり、幸いなことにその作品の多くが世界の美術館に収蔵されています。
これらの作品には、優しく独特な彩色方法が見られます。
この時代、金織りが非常に流行しました。金銀糸でモチーフを描いたアルヴァン背景を使用し、主に文学的主題や武侠の場面に適したデザインを使用するとともに、明るさと安定性を保つ植物の色を使用し、保存されているものの1つです。
この時代のテキスタイルの特徴。
カジャール朝期には外国企業のイラン市場への参入が始まりました。
とりわけ安価なロシア製織物の参入は、イランの産業と芸術の停滞を引き起こし、多くの織物工房が廃業。
残った数少ない工房も多かれ少なかれ顧客を失いました。
パフラヴィー時代には、イスファハンやカシャーンなどの都市に大規模な織物工場が開設されたため、織物工房は完全に破産し、芸術家たちは普通の工場労働者となり、少数の芸術家が音楽院の処分により博物館の標本となりました。
ヘンリーは他の文化団体に配置されました。
その間、染色業者は一斉に絨毯や敷物などの敷物用の染料に目を向けましたが、化学染料の導入により、原料の安さや染色方法の簡単さなどから、徐々に天然染料を放棄していきました。
約50年、今では染色家たちも他の天然染料を知りません。
染色の方法
糸の染色は2回に分けて行われます。
先染め(さきぞめ)とは、織物や縫製品などの製品を作る際に、糸や生地を染色してから製品を製作する染色方法のことを指します。つまり、糸や生地がまだ織られていない状態で染色を行うことを指します。
先染めの場合、糸や生地が染色される前に染料を使って色を付けるため、色が均一に浸透しやすく、織物や縫製品全体に美しい色彩をもたらします。また、先染めによって染色した糸や生地を使用することで、織物や縫製品の製品全体が色あせたり色落ちしたりすることを防ぐことができます。
先染めは、織物や縫製品の製造において一般的であり、高品質な製品を作るために重要な染色方法の一つとされています。先染めによって、色合いの美しい製品を作ることが可能となります。
後染め(あとぞめ)とは、織物や縫製品などの製品が完成した後に、染料を使って製品全体を染色する染色方法のことを指します。つまり、製品が完成した後に最終的な色付けを行う手法です。
後染めは、製品全体に一様な色を付けることができる利点があります。また、既存の製品に染色を施すことで、新しい色合いやデザインを加えることができます。後染めは、染色したい製品全体を染料に浸す、スプレーで染料を塗布するなどの方法で行われます。
後染めは、製品が完成した後に染色するため、製品の形状や部位によって染色の浸透具合が異なる場合があります。そのため、均一な色合いや染色の均一性を確保するためには、慎重な染色工程が必要となります。
後染めは、織物や縫製品の製造において広く利用されており、製品に新しい色彩やデザインを加えるための重要な染色方法として位置付けられています。
工房での染色は主に2つの方法で行われます。
伝統的染色
伝統的染色を行う工房は少なくなりましたが、いまでもイスファハン、クム、カシャーン、タブリーズ、ケルマンなど、絨毯産業の盛んな都市のバザールで見つけることができます。
これらの染色工房は一般に家族経営で運営されています。
つまり、この職業では、息子は父親から仕事を学び、父親は自分の仕事と経験の秘密を息子に教えます。
この方法では、仕事の秘密は家族に残り、染色は存続します。
手織りのイラン絨毯がイラン国内およびイラン国境外に多くのファンを抱えていた時代に、伝統的な染色も非常に人気がありました。
しかし、イランの絨毯市場の冷え込みにより、染色業者は炉の稼働を減らしました。
最近では、染色工場はカーペット製造業者のロールを染色する場所であるだけでなく、イランの文化遺産の一部とも考えられています。
昔ながらの小さな染色工房では、大きな銅製の釜で染色が行われます。
釜の熱は、ガスまたはオイルに点けられた火によって熱せられます。
羊毛は紡がれていない状態、または桛のままで染色されます。
この大きな銅製の釜の中で染色や染色の作業を行います。
その後、遠心分離機を用いて脱水されますが、一般に小型の遠心分離機が使用されます。
色が均一になるように、コイルとその下のストランドを同時に乾燥する必要があるため、コイルの底部と上部が同じ割合で乾燥するように、しばらく日陰に置きます。
木の梁の上に置いたコイルを何度も回転させることで、水と色が同じ側に偏らず、コイルが2色にならないようにします。
染色業者は通常、かせを日陰で乾燥させた後、太陽の光が当たるようにバザールの屋上に運びます。
これらの工房での作業のほとんどは、主に熟練職人の監督の下、手作業で行われます。
工業的染色
大規模な染色工場では、すべてが機械化されており、作業は様々な装置を用いて行われます。
銅釜の代わりに蒸気ボイラーを使用し、糸を染色します。
まずスラップフォースという機械で穴あきボビンに糸を緩く巻きつけます(糸を巻いたボビンの直径は17.5cmになります)。
次にボビン同士がくっつかないよう、ボビンをボビンケースに入れます。
ボビンケースにはボビンを 330 個収納できる総重量が 250 kg の小型のものと、660 個のボビンを収容できる大型のものがありますが、ボビンのサイズと小ささに応じて、重量は450~500kg になります。
この段階で、ボビンは染色の準備が整います。
ボビンは蒸気ボイラーと接続された染色槽に入れられますが、その前に染料を均一かつ適切に浸透させるために糸を洗浄して余分な脂肪を除去します。
洗浄には工業用洗剤または工業用石鹸が使用されますが、染料の種類により使用されるものが異なります。
染色槽には染色中に染色槽へ冷水を注入するためのタンクが取り付けられています。
ウールの染色温度は45〜50度で、その温度になると染料が染色槽に注入され、100℃まで加熱されます。
45 ~ 60 分間加熱した後、染色槽に冷水を注入して温度が75度に達し、糸に色が定着するまで染色槽を冷却します。
ここでは、タンクの 2 つの壁の間のタンクの周囲にあるパイプに冷水が注入されます。
次に、染色槽内の水を排出して冷水で 15 分間ウールを洗い、ウールの洗浄を安定させるためにアンモニアを投入します。
その後、酢酸を投入してアンモニアを中和します。
これが終わると主槽からボビンを取り出し、水道の水で洗浄して残った酢酸を除去します。
次に、ボビンを遠心分離機に移して1時間脱水し、更に乾燥機に移して3~4時間乾燥させます。
この段階でボビンをしっかりと巻き、糸を市場に出す準備が整いますが、ここで羊毛の撚りがなくなり、いわゆるイナゴ状態にならないまで蒸気機で30分間加熱します。
媒染
媒染(ばいせん)とは、染色の際に染料を素材に移す際に、染料と素材の間に中間体となる物質(媒染剤)を用いる染色法のことを言います。
媒染の目的は、染料と素材の親和性を高め、染料が素材にしっかりと定着するようにすることです。
媒染を行うには素材や染料の種類に応じて適切な媒染剤を選択する必要があります。
媒染剤は染料と素材の間に入り込み、染料と素材を結びつける役割を果たします。
媒染によって、染色の均一性や色の明るさ、耐久性などが向上し、美しい染色効果を得ることができます。
媒染は、繊維工芸品や織物、染め物などの製造に広く利用されており、染色技術の重要な一環として位置付けられています。媒染によって、鮮やかで美しい色彩を持つ製品を作ることが可能となります。
先媒染
先媒染(さきばいせん)とは、染料を素材に移す際に、染料と素材の間に中間体となる物質(媒染剤)を用いる染色法の一つで、素材が染色される前に媒染剤を使って染色する手法を指します。
この手法では、媒染剤を素材に浸透させ、その後染料を加えて染色を行うことで、染色効果を向上させることができます。
先媒染は、染色の均一性や色の明るさ、耐久性などを向上させるために使用される染色技術です。
染色工房では、色が望ましくない、染料の吸収が不十分である、色にムラが出るなどの理由で、先媒染を行うことはほとんどありません。
先媒染は、繊維工芸や染色業界において広く利用されていますが、ペルシャ絨毯の染色工房では、色が望ましくない、染料の吸収が不十分である、色にムラが出るなどの理由で、先媒染を行うことはほとんどありません。
同時媒染
同時媒染(どうじばいせん)とは、染色の際に染料と媒染剤を同時に素材に適用して染色を行う染色方法のことを指します。
この方法では、染料と媒染剤を一緒に素材に浸透させ、染料の色が素材に均一に浸透しやすくなります。
同時媒染は、染色の均一性や色の明るさを向上させるために使用される染色技術です。
媒染剤は、染料と素材を結びつける役割を果たし、染料が素材にしっかりと定着することを助けます。
同時媒染によって、染色された素材に美しい色彩や柄を付けることができます。
同時媒染は、織物や縫製品の製造において広く利用されており、染色工程を効率的に行うために重要な染色方法として位置付けられています。
同時媒染によって、色の均一性や染色の明るさを向上させ、美しい染色効果を得ることができます。
後媒染
後媒染(あとばいせん)とは、染料を素材に移す際に、染料と素材の間に中間体となる物質(媒染剤)を用いる染色法の一つで、素材が染色された後に媒染剤を使用して染色する手法です。
つまり、素材が既に染色された後に、媒染剤を使ってさらに染色を行う方法です。
後媒染は、既に染色された素材に対して染料が浸透しやすくなるようにするために使用されます。
媒染剤は、染料と既存の染色された素材の間に入り込み、染料と素材を結びつける役割を果たします。
後媒染によって、色の均一性や染色の明るさ、耐久性などを向上させることができます。
後媒染は、織物や縫製品の製造において広く利用されており、製品に均一な色を付けるために重要な染色方法として位置付けられています。
後媒染によって、染色された素材にさらに美しい色調や柄を加えることが可能となります。
媒染剤
外殻とウールのスケールは浸透しにくい性質を持っており、色の吸収に直接影響します。
特定の化学物質や機械的操作により、この殻が弱まり、破壊される可能性があります。
このスケールが消えると、染料が繊維に浸透する速度が速くなります。
このようにして、化学溶液や機械操作の影響を受け、屋外に長時間放置されたウールは、通常のウールよりも吸水性が高く、膨らみが増します。
言い換えれば、前処理のない羊毛の白いかせを染料と一緒に煮ると、羊毛の繊維が採る色は非常に小さく不均一であることがわかり、洗濯すると、この短く望ましくない色の全部または一部が失われます。
コイルも光に対して不安定です。
さて、染色前に同じ量のかせを、白ミョウバンや硫酸鉄などの溶液で煮てから染色浴に入れると、ウールの繊維に多くの色が吸収されることがわかります。
光や洗濯に対する安定性も高く、色も均一です。
この経験は、歯形成と呼ばれるこの要素が存在しない限り、染料はウールや他の繊維に吸収される傾向を示さないことを示しています。
これは、繊維を安定させ、より染色するための材料を追加することを意味します。
これらの材料は、化学的には、次のような能力を持っている必要があります。
これらの溶剤は繊維の表面に空隙や傷を作り、色を繊維の中にさらに浸透させます。 歯は、繊維上での色の配置と安定性を妨げるだけでなく、色の透明性とその心地よさを高めます。
へこみにはさまざまな種類があり、ウールにへこみができる最も一般的な原因は酸性環境です。
この場合、硫酸、クエン酸、酢酸、フデミック酸がよく使用されますが、村や遊牧民では、酸性環境を作り出すために酢、アブゴーラ、ウルシ、カラクロット、ヨーグルトも使用されます。
天然染料は歯のない繊維に 2 つの方法で作用します。
あるものは繊維に完全に吸収されず、あるものは表面的に吸収され、光や洗濯によって破壊され、安定しません。
そのため、染色に媒染剤を使用します。
天然染料を使用する場合は、媒染が絶対に必要です。
媒染剤には次の2種類があります。
植物性媒染剤
いくつかの植物のさまざまな部分には安定化特性があります。
これらの植物にはタンニンまたはマジョジが含まれていることがよくあります。
いくつかの薬学書では、この物質はタンニン酸-タンニン-ガロタン酸-ガロタンニンとして記載されており、誤ってジ没食子酸として記載されています。
タンニンは多くの植物の皮や果実、特にオークやウルシの樹皮に含まれており、次の3種類があります。
・オーク樹皮、ウルシ、樺樹皮などの第二鉄塩を青黒く変えるタンニン。
・スイバなどの第二鉄塩を緑色にするタンニン
・イラクサのタンニンなど、第二鉄塩を灰緑色にするタンニン
これらのタンニンは 2 つの方法で存在します。
一つは植物に自然に存在するもの、もう 1 つは植物組織に含まれ、虫刺されによって引き起こされる病的または正常なタンニンです。
これはマズミと呼ばれます。
この物質は、樫の木についた昆虫(学名ペミヒガス・ユトリヴライウス)に刺されて得られ、マゾのエッセンスの40パーセントが含まれています。
乾燥したマゾを細かいミルで粉砕し、沸騰させます。
大きな銅製の釜で数時間かけて濾過し、染色に使用されます。
渋みがあり、弱酸性の反応があり、さまざまな溶媒で沈殿させてさまざまな色を生み出します。
は着色された歯の一部であり、主に色を濃くするために使用されます。
マゾの特別なプロセスは、ニンニクの色を準備するために使用されます。
鉱物性媒染剤
鉱物性媒染剤は、鉱物由来の成分を含んだ媒染剤のことです。
これらは天然の鉱物から抽出されたり、合成されたりして作られます。
繊維や布地などに染色する際、色素を素材に浸透させて色を付ける役割を果たすものです。
一般的な鉱物性媒染剤には、アルミ、鉄、銅、クローム、マンガン、錫などの金属塩があり、使用する媒染剤の種類によって染めあがりの色を変えることができます。
アルミ(硫酸アルミニウム、ミョウバン、ハクバン)
硫酸アルミニウムはアルミニウムの硫酸塩で、一般的に言われるミョウバン(明礬)は硫酸アルミニウム、硫酸アルミニウムカリウム(生ミョウバン)、硫酸アルミニウムアンモニウム(焼ミョウバン)を総称したもの。
いずれも無色透明の正八面体結晶で水によく溶け、古代ギリシャの時代から媒染剤としてだけでなく、医薬品や顔料、皮なめし剤、水の清澄剤等々、広い用途に使用されてきました。
毛や絹などの動物繊維にもっとも使われる媒染剤で、日光・洗濯堅牢度を高め明るく澄んだ色を生み出してくれます。
鉄(硫酸鉄、リョクバン)
硫酸鉄は鉄の硫酸塩で、リョクバン(緑礬)ともよばれます。
媒染剤としてすべての繊維に使用でき、色を濃くする、あるいはくすませる効果があります。
併せて日光堅牢度と洗濯堅牢度とを高めますが、毛や絹などの動物繊維に使用するとこれを傷め、やがて劣化させるという欠点を持っています。
よって使用する場合は少量にとどめておかなければなりません。
今日、鉄は媒染剤としてよりも修整剤として使われることが多くなっています。
銅(硫酸銅、タンバン)
硫酸銅は銅の硫酸塩で、タンバン(胆礬)ともよばれます。
媒染剤として繊維を選ばずに使え、日光堅牢度と洗濯堅牢度を高めてくれますが、硫酸銅と希釈した酢酸を使用すると繊維への吸収度がより高まります。
ただし毒性があるので、取り扱いには注意が必要。
染めあがりは緑色か茶色がかった色になる傾向があります。
クローム(クローム塩、クローム酸化物)
天然染料および酸性媒染染料で染色する際に、媒染剤としてクロム塩を使用できます。
ここでいうクロムは、主にクロム(Ⅲ)塩やクロム(Ⅲ)酸化物などの化合物のことです。
これらのクロム化合物は、染料の繊維への吸着性を高め、染料分子と繊維との間に架橋作用を果たします。
鉄や銅で媒染するより色が美しく、アルミニウムや錫を使用するより濃い色が染められるため、クロムは媒染剤として広く使用されてきました。
酸性媒染染料に最もよく利用されることから、酸性媒染染料はクローム染料とも呼ばれます。
マンガン(マンガン塩)
媒染剤として使用されるマンガンは、主にマンガン(Ⅱ)塩やマンガン(Ⅲ)塩などのマンガン化合物を指します。
これらの化合物は、染料の繊維への吸着性や染色効果を向上させる媒染剤として繊維産業で使用されます。
マンガンは、染色プロセスにおいて架橋作用を担い、染料と繊維との間の結合を強化し、染色した繊維の耐久性や色の鮮やかさを向上させます。
マンガン媒染剤は、繊維に染料をより効果的に定着させることで、染色品質を向上させると同時に、染色した繊維の耐久性や色の持続性を高めることができます。
ただし、マンガン化合物には一部有害なものも存在するため、環境への影響や健康リスクについても注意が必要です。
錫(すず)
錫は、主にコチニールで染色する際に透明度の高い色を得るために使用されます。
媒染剤として使用される錫の化合物は、スズ(Ⅱ)塩酸化物やスズ(Ⅱ)硫酸などが一般的です。 この媒染剤は無色なので色には影響しませんが、耐光性はクロームほどよくありません。
水に浸した羊毛の2~3%の量のシュウ酸と2~6%の量のスズ化合物を槽に入れ、1時間煮沸します。
この場合、浴室の材質が漂白された鉄や銅などの金属が存在すると、色ムラやくすみの原因となるので注意が必要です。
天然染料とは
天然染料は、自然界に存在する植物、昆虫、鉱物などを使用して染色する方法です。
これらの染料は化学的な合成を行わずに、自然から得られる色素を利用して繊維を染色することができます。
天然染料は、環境に優しく、安全性が高いという特徴があります。一般的な合成染料に比べて繊維に対する染色の浸透性が低いため、褪色しやすいという欠点もありますが、その風合いや色合いは独特で美しいと言われています。
代表的な天然染料には、藍(あい)、インジゴ、コチニール、ターメリックなどがあります。
天然染料は、染色の過程で発生する廃棄物も少ないため、現在でも多くの人々に愛用されており、また自然の恵みを活かした染色方法として、伝統的な技術としても大切にされています。
天然染料の種類
天然染料は3つの種類に分類されます。
1つめは媒染剤を使用せずとも繊維に色素を固着させることができる「直接染料」。
タンニンを豊富に含む植物が多く、スマックやナラのように、そのほとんどの部位を染色に用いることができるものもあります。
2つめは媒染剤は必要としないものの、染料の色素はそのままでは水に溶けないので、醗酵などの処理を施さねばならない「建染染料」。
建染染料は化学反応を起こさず、色素の多くが繊維の表面に残存します。
染色後すぐはほとんど着色していないように見えますが、空気中の酸素に晒すことで発色します。
インドアイやホソバタイセイなどがこの種類。
3つめは媒染剤なしでは完全に発色させられず、色素を繊維に固着することができない「媒染染料」。
多くの天然染料はこの種類に分類されます。
赤色の天然染料
赤色の染料を採取できる植物は少なく、アカネやベニバナはそれを可能にするものとして古くより珍重されています。
とりわけアカネは堅牢度が高く栽培も容易であるため、世界中で広く用いられてきました。
中世のヨーロッパで「ターキッシュ・レッド」として人気を博した赤色があります。
これは20以上の複雑な工程を経て、数か月をかけて生成されたといわれるもの。
動物の糞や酸化した油、ソーダ灰、タンニン、ミョウバン、牡牛の血などの成分が含まれていたと伝えられますが、
そのベースとなったのもアカネでした。
天然染料のほとんどは植物に由来したものです。
しかし赤色の染料の中には昆虫を素材としたものもあります。
カイガラムシのいくつかの種は、ややグロテスクな見た目とは裏腹に美しい赤色を供してくれます。
アカネ(セイヨウアカネ、ムツバアカネ、マダー)
アカネ(茜)はリンドウ目アカネ科アカネ属に属する多年草。
蔓状の小さな棘のある茎を持ち、托葉を含めた6枚の葉があることからムツバアカネともよばれます。
アカネは「赤根」に由来するがごとく、赤い根にはアリザリンやププリン、ルミアジンといった赤系の色素が含まれており、古代エジプトの時代から染料や顔料として利用されてきました。
地中海東部から西アジアにかけての地域が原産地といわれ、イランでは全土に分布していますが、とりわけ砂漠地帯で育ったものは高品質とされます。
夏から秋にかけて薄黄色の小さな花が咲いた後、秋の終わりに根を掘り出して乾燥させ、すり潰して染料に。
媒染なしで橙色を染めますが、アルミ媒染により黄味を帯びた深い赤色を染めます。
イラン中西部のアラク地方では媒染剤にヨーグルト(ドゥーク)を使用することがあり、その柔らかな色調は「ドゥーキ・レッド」と俗称されています。
胡桃の皮やインディゴなどと混合することで、茶や紫、緑などを出すこともできます。
ベニバナ(スエツムハナ、クレノアイ、クレナイ、サフラワー)
ベニバナ(紅花)はキキョウ目キク科ベニバナ属に属する一年草。
アザミに似ており、50センチから150センチの高さに成長します。
人類が栽培したもっとも古い植物の一つとされ、紀元前2500年のエジプトのミイラの着衣から紅花の色素が発見されています。
ベニバナの原産地については諸説あり、古くから栽培されていたインドやエジプトとする説、アザミ類の野生が多いアフリカ・ナイル川流域(エチオピアなど)とする説、ベニバナ近縁の野生種が多い中近東付近(アフガニスタンなど)とする説があります。
ちなみにベニバナの英語名であるサフラワーはアラビア語のウスファルに、仏語名のカルタム、伊語名のカルタモはアラビア語で「染める」を意味するカルトムあるいはヘブライ語のカルタミに由来するものといわれます。
8月から10月にかけてアザミに似た球状の花を咲かせます。
花は黄色から赤色へと変化してゆきますが、植物染料としては珍しく、染料にはこの花を乾燥させたものを用います。
ベニバナの花にはサフロールイエローとカルサミンという二つの色素が含まれています。
黄色の色素であるサフロールイエローは常温の水に浸すことによって容易に抽出できますが、赤色の色素であるカルサミンには水に溶けにくい性質があります。
そのため繊維に吸収されにくく退色しやすため、イランでは一部の地域を除き使用されていません。
ケルメスカイガラムシ(ケルメス、カーミン、カーマイン)
ケルメスカイガラムシ(ケルメス貝殻虫)はカメムシ目タマカイガラムシ科ケルメス属に属する昆虫。
オークの木に寄生し、樹液を吸収します。
地中海沿岸からイラン西部が原産で、その名は赤色を意味するアラビア語あるいはペルシャ語のゲルメズに由来。
クリムゾンやカーマインの語源になったといいます。
イラン南部の町ケルマンもこれから来たとされますが、ケルマンはかつてケルメスカイガラムシの輸出の拠点でした。
ケルメスカイガラムシはもっとも古い染料の一つとであるといわれています。
古代エジプトやギリシャ、ローマ帝国の時代から染料としてだけでなく薬品としても利用されていました。
雌は赤色の色素であるケルメシン酸を持ち、乾燥させてすり潰した後、水に浸して抽出します。
媒染剤にアルミを鉄を使うと青味を帯びた赤色に、鉄を使用すると紫色に染まります。
19世紀以降はコチニールカイガラムシに取って代わられ、ほとんど使用されなくなりました。
コチニールカイガラムシ(エンジムシ、コチニール)
コチニールカイガラムシ(コチニール貝殻虫)はカメムシ目コチニールカイガラムシ科コチニールカイガラムシ属に属する昆虫。
雄は体長1.5ミリほどで細長い楕円形をしており、大きな羽と一対の長い尾を持っています。
雌は体長3ミリほどで平たい楕円形。
色素を持つのは雌だけで、これを染料として用います。
コチニールカイガラムシは中南米原産で、アメリカ大陸発見以前のアステカ帝国の時代から染料だけでなく、薬や化粧品、「タマル」とよばれる蒸し団子にも使用されていました。
大航海時代以降、この地を支配したスペインにより金や銀とともに主要な交易品として世界に広められたといいます。
また当時スペインで製作されていた絨毯にも用いられ、その鮮やかな赤色は「スパニッシュ・レッド」として称えられました。
色素の含有量はケルメスカイガラムシの10倍ほどもあり、その後主流となりました。
今日、生産量の8割をペルーが占めています。
生後90日ほどが経った卵を産む前二倍ほどに膨れ上がったところを採取し、熱湯や蒸し器、オーブンなどに入れて殺虫した後に乾燥させすり潰します。
それを水やエタノールの浸ことによりカルミン酸とよばれる色素が抽出できますが、1キロの染料を得るのに約10万匹が必要とされます。
青味がかった赤色が特徴で、イランでは東部の絨毯によく見られます。
媒染剤にはアルミが使用されるのが一般的です。
ラックカイガラムシ(ラックムシ、ラックインセクト)
ラックカイガラムシ(ラック貝殻虫)はカメムシ目ラックカイガラムシ科ラックカイガラムシ属に属する昆虫。
インド、東南アジア原産で、マメ科やクワ科、ムクロジ科など多種の樹木に寄生します。
英国統治下のインドでは、東インド会社の主要な交易品となっていました。
枝に多くが群集し、自らを保護するため虫体被覆物(樹脂状の分泌物)を出して体を覆います。
これが一体となって枝を包んで棒状となりますが、これをスティックラックとよびます。
スティックラックにはラッカイン酸という色素が含まれており、繁殖期に新しい巣を作り始めたら古い巣を収穫し、すり潰し昆虫の残骸や木のクズを取り除いたものを水か湯に通します。
ラックの名は「10万」をあらわすサンスクリット語に由来しますが、これは多くが群集する様、あるいは染料を得るために多くが必要とされることを表したものと考えられています。
コチニールカイガラムシよりもやや黄味がかった赤になります。
青色の天然染料
赤色に同じく青色の天然染料も抽出できる植物が少なく、それゆえアイやタイセイは貴重な素材として扱われてきました。
アイとタイセイは同じ青色の色素を持っていますが、アイはタイセイに比べると色素の含有量が圧倒的に高いため、16世紀にはタイセイのシェアを奪いました。
アイ(インドアイ、キアイ、タイワンコマツナギ、インディゴツリー)
マメ目マメ科コマツナギ属に属する木本の植物。
インドやイラン南部などで栽培されており、いくつかの種類がありますが、とりわけインド南部原産のタイワンコマツナギが有名です。
わが国でよく知られる草本のタデアイ(蓼藍)とは異なる小低木で、キアイ(木藍)ともよばれるもの。
高温多湿なデルタ地帯に生育し、1メートルから2メートルの高さに成長します。
葉は9枚から13枚の奇数羽状複葉で、秋の終わりに小さなピンク色の花を咲かせます。
インダス文明の遺跡から藍染に用いたとみられる染色槽跡が発見されており、またエジプトのテーベ遺跡から出土したミイラの巻布にも藍で染められた布が使用されていることから、紀元前2000年以前より染料として利用されていたようです。
アラブ商人により紀元前1000年代には中近東一帯から地中海沿岸へともたらされたといわれており、ローマ人はインディゴを薬品、化粧品にも用いていました。
インディカンという青色色素を豊富に含んでおり、葉を発酵させて沈殿法により色素を抽出しますが、空気に晒すことで酸化し、美しい青色となります。
非水溶性で繊維が色素を吸収しにくく、そのため退色しやすいという欠点がありますが、それを味として楽しむ風潮もあるようです。
インドアイは他のアイに比べると色素の純度が圧倒的に高いため、ヨーロッパでは600年頃から藍染の染料として用いられていたタイセイのシェアを奪いました。
タイセイ(ホソバタイセイ、ウォード)
タイセイ(大青)はアブラナ目アブラナ科タイセイ属の二年草。
南ヨーロッパ、西南アジア原産で、新石器時代より染料として用いられていたと考えられています。
葉は細く茎は柔らかい毛で覆われており、夏から秋にかけて黄色い花を咲かせます。
葉や茎にはインドアイと同じインディカンという色素が含まれており、これを染料として使用します。
色素の含有率がインドアイに劣るため、16世紀以降はインドアイに取って代わられました。
青色の染料としては生の葉を使用するのが一般的ですが、一年目の真夏から秋の半ばにかけて採取した葉は乾燥させて保存することも可能です。
紫色の天然染料
紫色を染める染料にはタチアオイがありますが、タチアオイは耐光性が低く退色しやすいという欠点があります。
アッキガイ科の巻貝から得られる紫色は、ギリシャ・ローマの時代から帝王紫として珍重されてきました。
パープル腺を取り出し、濃い塩の溶液に何日も浸した染液で染めあげるのですが、現在この染色方はメキシコのオハカ地方にのみ残るといいます。
今日、紫色は赤色の染料と青色の染料との二重染色によって染められるのが一般的です。
アオイ(タチアオイ、マロウ)
アオイ目アオイ科ビロードアオイ属の多年草。
地中海地方原産で、主に観賞用として栽培されています。
イラク北部のシャニダールの洞窟の5万年前のネアンデルタール人の埋葬骨といっしょに種子が発見されており、人類が利用した最古の花の一つといわれています。
約2メートルの高さにまで成長し、葉は心臓形で浅い切れ込みがあり、初夏に赤色や紫色、白色等の大きな花を咲かせます。
色の濃い花は生でも乾燥させても染料として使用可能。
媒染が必要で、アルミ媒染により紫色を染めます。
繊維を染液に一晩浸け置きすると加熱なしでも染色できますが、加熱、非加熱を問わず植物繊維では淡い色にしか染まりません。
アカタマネギ(ムラサキタマネギ、レッドオニオン)
アカタマネギは、赤紫色のタマネギで、「ムラサキタマネギ」とも呼ばれます。
普通の玉ねぎに比べて含む水分量が多く、辛味成分が少ないため生食に向いています。
⾚紫⾊の成分は「アントシアニン」というポリフェノールの⼀種で、ブルーベリーやナスなどの紫果物‧野菜にも含まれているもの。
「アントシアニン」は植物が紫外線やウィルスなどから⾝を守る為に作られる、普通の⽟ねぎには無い⾚⽟ねぎ特有の成分です。
アルミ媒染や銅媒染では茶系の色にを染めますが、無媒染でピンク色、酸を混ぜると薄紫色を染めます。
黄色の天然染料
黄色系の染料の素材となる植物は自然界に多数存在しており、入手はきわめて容易です。
素材の違いだけでなく、媒染の有無や媒染剤の種類によっても染めあがりの色は違ってくるので、その幅は無限大といってよいでしょう。
ただし黄色はもっとも褪色しやすく、そのためかペルシャ絨毯には黄色をベースにした作品はあまり存在しません。
ウコン(ウッキン、ターメリック)
ウコン(鬱金)はショウガ目ショウガ科ウコン属の多年草。
インド原産で、東南アジアを中心に栽培されています。
葉は細長い楕円形で長い柄があり、高さ40センチから50センチほどに成長。
秋の初めに白い花穂をつけます。
地下に太い根茎があり、この根茎の皮をむき数時間煮て乾燥させ粉末状にしたものをターメリックとよびます。
ターメリックはクルクミンという黄色の色素を持っており、カレー粉の原料の一つとして有名。
「インドのサフラン」ともよばれ、香辛料としてだけでなく、古くからテキスタイルの彩色や捺染に用いられてきました。
そのためわが国ではキゾメグサともよばれます。
媒染は不要で黄色を染めることができますが、アルミ媒染により橙色に。
インディゴと併用することにより緑色に染めることができます。
媒染の有無にかかわらず、日光堅牢度が低く石鹸をはじめとするアルカリに弱く、退色しやすいという欠点があります。
カモミール(コウヤカミツレ、ダイヤーズカモミール、ダイヤーズカモマイル)
キク目キク科カミツレモドキ属の多年草。
地中海沿岸から西アジア原産で、乾燥地帯の荒地に自生しています。
コウヤカミツレは英名をダイヤーズカモミールといいますが、和名のコウヤ(紺屋)、英名のダイヤーズともに「染物屋」を意味します。
高さ20センチから80センチほどで茎は数本に分岐し、葉は羽状に切れ込み互生。
5月から9月にかけて白色から黄色のデイジーに似た花を咲かせます。
頭花は媒染なしで薄黄色を染めますが、退色しやすいので媒染を施すのが普通。
アルミ媒染により鮮やかな美しい黄色に染まります。
茎や葉も染料として利用でき、媒染なしで淡緑色を染めますが、やはり退色しやすいため媒染するのが賢明。
アルミ媒染により黄緑色を染めます。
カラカシ(カリロク、ミロバラン)
カラカシ(唐樫)はフトモモ目シクンシ科モモタナマ属の落葉樹。
インド、東南アジアが原産で、カリロク(訶梨勒)ともよばれます。
高さは20メートルから30メートルに達し、葉はほぼ対生の楕円形。
5月から8月にかけて白黄色の小さな花を咲かせ、10月から1月にかけて球形の実をつけます。
アーモンドに似た種子はエラグ酸を多く含んでおり、これを乾燥させ砕いたものを染料として使用します。
媒染剤にアルミを使用するとで美しい黄色に染まり、インドでは僧衣の木欄色の染めに用いられるほか、更紗の下染めにも使われてきました。
ケッパー(セイヨウフウチョウボク、トゲフウチョウボク、ケイパー、ケーパー、カプリエ)
ケッパーはフウチョウボク目、フウチョウボク科、フウチョウボク属の木本の植物。
地中海沿岸から中央アジア原産で、イランではイラム州、ファース州、ケルマンシャー州、コフギールーイェ・ブーイェル・アフマド州、ケルマン州、ヤズド州など、南部を中心とする標高2500メートル以上の地域に自生しています。
高さ1メートルほどの半蔓性の低木で、葉は丸みを帯びた卵形。
葉柄に2本の棘を持ち、春から夏にかけて白い大輪の花を咲かせます。
紫色の雄蕊が束になりとても美しいのですが、花の寿命は一日です。
この花の蕾をピクルスにしたものがカープルで、アンチョビの油漬けやスモークサーモンの付け合わせに使われるほか、ホワイトソースやマヨネーズの飾り付けなどにも用いられます。
黄色の色素であるクェルセチンを多く含んでおり、アルミ媒染により青味がかった黄色を染めることができます。
ザクロ(パメグラネット)
ザクロ(柘榴)はフトモモ目ミソハギ科ザクロ属の落葉樹。
原産地はイランとされ、ザクロの名はイラン西部のザクロス山脈に由来するともいわれます。
高さ5メートルから6メートルほどに成長し、密集した枝を持つのが特徴。
夏に枝先に赤色の花を付け、秋の初めに実が熟しはじめます。
ザクロの実は生のままでも乾燥させても染料として使用できます。
乾燥させる場合は外皮もしくは実全体を暖かくて湿気のない場所に置いて乾かします。
媒染は不要ですが、アルミ媒染でより鮮やかな色に染めることが可能です。
サフラン(サフランクロッカス)
サフランはキジカクシ目アヤメ科クロッカス属に属する多年草。
園芸用のクロッカスと同じ仲間の球根植物で、丈は10センチから15センチほど。
原産地は地中海沿岸からイラン北部とされています。
サフランの語源は古代ペルシャ語のザルパランに由来したものと考えられていますが、ザルは金、パーは花を意味し、「金と同じくらい価値のある花」を意味するものといわれます。
イランでは先史時代の洞窟の壁画にサフラン由来の顔料が用いられており、数千年にも及ぶ歴史があるとされています。
キュロス大王はこれを水に溶かして入浴したと伝えられます。
アケメネス朝のダリウス1世(前550年頃~前486年)の時代にはすでに香辛料や薬品、染料として使用されていたという記録があり、やがてアケメネス朝によりサフランはインド北部のカシミール地方に持ち込まれ、のちにインド亜大陸に広がりました。
インドでは仏陀の死後、僧侶たちは僧服の染色にこれを用いたといわれています。
アレキサンダー大王がアケメネス朝を滅ぼすとサフランはギリシャに持ち込まれますが、ギリシャ神話にはサフランのベッドで眠っているゼウスの物語があり、ギリシャ人はサフランを「神々と王の香辛料」と呼んでいたとあります。
9世紀、アラブ人によりスペインが占領されるとサフランはスペインに運ばれ、やがてヨーロッパに広まりました。
「秋咲きクロッカス」ともよばれるごとく10月下旬から11月中旬にかけてに紫色の花を咲かせますが、この花の雌蕊にはクロシンという色素が含まれており、1花につき3本ある雌蕊を手で摘み取り乾燥させたものを染料や香辛料として使用します。
10グラムのサフランを得るには1500本以上の花が必要とされ、そのため貴重なかつ高価なものとして取引されてきました。
イランでは年間300トンのサフランが収穫されており世界の生産量の90%以上を占めていますが、とりわけイラン東部のホラサン地方ではもっとも主要な農作物となっています。
赤色と黄色の割合により、ネギン、サルゴル、プッシャル、ブンチ、コンゲという等級に分類されます。
雌蕊は赤色ですが、これを水に浸すことによって黄色の色素を抽出することができます。
ダイオウ(ショクヨウダイオウ、ルバーブ)
ダイオウ(大黄)はタデ目タデ科ダイオウ属の多年草。
南シベリア原産で、欧米では野菜として栽培されており、わが国ではショクヨウダイオウ(食用大黄)ともよばれます。
茎は中空で高さ1メートルから2メートルに成長し、地中には大きな株を持ちます。
葉は根生し50センチほどにまで達する大きな心臓形。
夏の初めに緑白色の小さな花を円錐花序につけます。
ルバーブの名は古代ギリシャ語に由来するといわれ、古代ギリシャの時代から栽培されてきました。
ヒマラヤ山脈一帯では染料として珍重されていて、黄色の染料として欠かせないものになっています。
染料となるのは葉、根の部位。
葉は生の状態で使用するのが理想的ですが、乾燥させても使えます。
ただし、シュウ酸などの有毒物質を含んでいるので注意が必要です。
媒染は不要で黄褐色をそめますが、アルミ媒染により澄んだ黄色を染めることができます。
根は毒性がないので安心して使えます。
こちらも媒染は不要で深みのある黄色を染めますが、アルミ媒染によりサーモンピンクを染めることができます。
ダイオウは媒染剤として使用することも可能。
タマネギ(オニオン)
タマネギ(玉葱)はキジカクシ目ヒガンバナ科ネギ属の二年草。
原産地については定かでありませんが、地中海沿岸から西アジア、中央アジアとされ、中近東やインドでは紀元前数千年の昔から食用として栽培されていたといわれます。
ギリシャ、ローマ帝国を経て15世紀から16世紀にかけてヨーロッパに広がり、日本へは18世紀に伝わりました。
茎や葉は直立した中空の円筒状で高さ50センチほど。
秋に白または紫色の小さな花が集まって球状のいわゆるネギ坊主を茎の先端につけます。
地下の鱗茎(りんけい)は球形または偏球形で、春頃から肥大し始め夏頃に成熟。
これを食用とします。
タマネギは鱗茎の辛味度により、辛タマネギと甘タマネギに大別されますが、さらに鱗茎外皮が黄色い黄タマネギ、赤紫色の赤タマネギ、白色の白タマネギに分類されます。
鱗茎の外皮にはケルセチンという色素が含まれていて、これを抽出し染料として使用します。
ケルセチンはフラボノイドの一種で、蕎ソバや柑橘類の外皮にも含まれる色素。
冷水にはほとんど溶けないものの熱水にはよく溶けます。
媒染は不要ですが、媒染することにより堅牢度を増し色の幅が広がります。
黄タマネギの外皮はアルミ媒染で黄色・オレンジ。
鉄媒染で茶・モスグリーンに。
赤タマネギの外皮も染料として使えますが、安定した色を染めるのが難しいという欠点があります。
ハゼノキ(キハゼ、スマック)
ハゼニキ(櫨の木)はムクロジ目ウルシ科ウルシ属の落葉樹。
高さ3メートルから4メートルほどの低木で、南ヨーロッパから西アジアに自生しています。
葉は60センチほどに達する羽状複葉。
初夏に毛で覆われた小さな赤い花が密集した円錐花序をつけ、花が散ると房状の深紅の実がなります。
スマックの名は赤を意味するアラム語の「スンマーク」に由来するとされ、古代ローマの時代から実を乾燥させて砕いたものが香辛料として使用されてきました。
加水分解性のガロタンニンを多く含んでおり、根以外は染料として使用できます。
媒染は不要で黄褐色の色を得ることができますが、アルミ媒染すると鮮やかな橙色に染色することができます。
パセリ
パセリはセリ科の多年草で、通常は二年草として栽培されますが、各地で野生化もしています。
地中海沿岸原産で、古くから野菜として栽培されてきました。
古代ギリシア・ローマ時代には、すでに香味料や毒消しとして用いられていたようです。
全草無毛で香気があり、葉は叢生し、三出羽状複葉で、裂片は少数の欠刻を持ちます。
色は濃緑色で上面に多少の光沢があり、春に高さ数十cmの茎を立て複散形状に黄色、淡黄緑色の多数の小花を咲かせます。
カロチン、ビタミンC、カルシウム、鉄分などを含み、また全草にアピオールを含有し,通経剤やマラリア特効薬のキニーネの代用にされます。
アルミ媒染で柔らかい黄色を染めます。
ブドウ(ヨーロッパブドウ、グレープツリー、ヴァイン)
ブドウ(葡萄)はクロウメモドキ目ブドウ科ブドウ属の蔓性落葉常緑樹。
原産地はカスピ海沿岸から中央アジアとされ、紀元前4000年以前から栽培が行われていたといいます。
西はエジプトからギリシャを経てヨーロッパへ伝わり、東はインドを経て中国、やがて日本へと伝わりました。
ちなみに日本語の「ブドウ」の語源については古代ギリシャ語の「ボートルス」に由来するとした説、古代ペルシャ語の「ブーダウ」に由来するとした説がありますが(古代ギリシャ語の「ボートルス」に由来するとした説もあります)、イランでは紀元前2000年以前からこれの栽培が行われていたとされ、現在もイラン全土で栽培されています。
とりわけホラサンやカズビン、アゼルバイジャン地方はヨーロッパブドウの主要な産地となっています。
ブドウの葉にはキサントフィルという黄色の色素が含まれており、これを抽出し染料として用います。
媒染剤にはアルミが用いられるのが一般的で、これによりやや赤味がかった黄色が得られます。
ホシュク(トレポラク、ダフィーネ・ムクロナータ)
ホシュクは、主にルリスタン州とイラム州、ケルマーンシャー州に生えるジンチョウゲ科の一年草です。
この植物はアーモンド形の小さな葉と折れやすい茎を持ち、ペルシャ絨毯の繊維を染色するのに必要な色素はこれら2つの部分から得られ、淡黄色から金色、茶色、時にはオリーブ色を染めます。
葉は香りがよく、ケルマーンシャー州の食用とされます。
高さ1〜2メートルの木質の茂みまたは半低木を持つ安定した植物で、茎は直立して分枝しており、色は灰白色で、細い赤みがかった若い蔓があり、短い毛と葉で覆われています。
この植物の葉は長さが5〜7ミリ、幅が32〜45mm。
毛はなく端が狭く尖っていて、うっすらと網状の模様があります。
花は白または茶色がかった白または茶色がかった黄色で、長さ2〜8ミリです。
萼は果実が熟す前に落下します。
これは長さ6~7ミリの管状で、端は卵形で短い毛で覆われています。
果実は多肉質で、色は赤。
最初は花冠で覆われていますが、やがて裸の半球形となり、大きさは7〜10 mmで丸いです。
モクセイソウ(キバナモクセイソウ、ダイヤーズエウェルド、ダイヤーズロケット)
モクセイソウ(木犀草)はアブラナ目モクセイソウ科モクセイソウ属の二年草。
ヨーロッパ、中近東原産で、砂質や石灰質で水はけのよい土壌を好みます。
茎は直立し、20センチから60センチほどに成長。
単葉もしくは羽状複葉の葉が互生しており、6月から8月頃にかけて長い穂状花序に小さな淡黄色の花を多数咲かせます。
最古の染料の一つと考えられており、スイスの新石器時代の遺跡からモクセイソウの種が発見されています。
ヘレニズム時代には地中海地域とローマ帝国で栽培されていたと考えられ、ローマ人はこれを使用して、ウェスタの処女(女神ウェスタに仕えた巫女)の僧衣を染色していました。
葉や茎にフラボノイドルテオリンという色素を含み、アルミ媒染で鮮やかな黄色に染めあがります。
アイルランド人はこの黄色を「グレート・イエロー」(偉大なる黄色)とよんでいました。
リンゴ(セイヨウリンゴ、アップルツリー)
リンゴ(林檎)はバラ目バラ科リンゴ属の落葉樹。
西アジアから中央アジア原産とされ、野生種を含めると世界中で7500種以上が確認されています。
イランでは北部を中心に栽培されており、西アゼルバイジャン州とウルミエ行政区では同国で生産されるリンゴの38パーセントが生産されています(2014年現在)。
樹高は約6メートル。
葉は互生する鋸歯のある楕円型で、春に白色の花を咲かせます。
果実とされているものは花床が肥大した偽果で、真の果実は芯の部分です。
染料には葉と樹皮を使います。
葉は生でも乾燥させても使えますが、採取する時期により色に幅があります。
媒染は動物繊維には不要で灰色がかった黄色に染めることができますが、アルミ媒染を施すとより深みのある色に染めあがります。
樹皮も媒染は不要。
淡いピンクを染めますが、アルミ媒染により山吹色を染めます。
緑色の天然染料
自然界は緑色の色素を持つ植物で溢れていますが、そのほとんどには耐光性がなく、すぐに褪色してしまいます。
実は美しい緑色を出すのは容易ではなく、高い技術と費用とが必要になるのです。
緑色をベースとする絨毯が少ないのにはそうした理由があるのでしょう。
また緑色はイスラム教徒にとって神聖な色とされており、それゆえ一部の礼拝用の絨毯を除くとあまり使用されていません。
ただし補色としては16世紀から使われていて、現存する最古のペルシャ絨毯といわれる狩猟文様絨毯を見れば明らかです。
緑色を出すには初めに黄色を染色し、次に青色を加える二重染色の技法が一般に採用されています。
イラクサ
イラクサは、イラクサ科イラクサ属の顕花植物。
一部の種では一年生ですが、多くが多年生の草本植物です。
先史時代から存在する植物で、当時の人々はイラクサを食用および薬用として利用していました。
イラクサ属には多くの種と亜種があり、アジア、ヨーロッパ、北アメリカ、シベリア、西アジア、イランなどで見られます。
環境に応じて1〜3メートルにまで成長し、花は薄緑色、茎は真っ直ぐで断面が四角く、葉の下面や緑色の部分は刺毛(しもう)で覆われています。
この刺毛は体に触れると激しいかゆみを引き起こします。
乾燥させて食べることができ、マザンダランやクルドの料理に使用されています。
またルーマニア、スロベニア、ブルガリアでは、ピューレやオムレツを作る際の調味料として使用されてきました。
イラクサには、タンニン、レシチン、ギ酸、硝酸カリウム、カルシウム、鉄などの化合物が含まれており、ビタミンCとメラニン色素の生成を抑えるのグルコシドも含まれています。
染料としては葉と茎を乾燥させて用い、アルミ媒染で黄緑色を染めます。
ヒエンソウ(チドリソウ、ラークスパー)
ヒエンソウ(飛燕草)はキンポウゲ目キンポウゲ科ヒエンソウ属の一年草。
地中海沿岸から西アジア原産で、イランでは多くの地域に自生し、ホラサン地方では栽培も行われています。
ヒエンソウの名の由来は花の形が燕が飛ぶ姿に似ているからで、同じ理由からチドリソウ(千鳥草)ともいわれます。
茎は直立し、1メートル前後に成長。
葉は掌状で、初夏に茎の先端に青色、桃色、白色の総状に連なった小さな花を咲かせます。
青色の花は乾燥しても色が変わらないため、ポプリの材料としても人気。
染料にはこの青色の花を使いますが、水で煮出すことにより緑系の色を得ることができます。
シルクに対しては日光堅牢度、洗濯堅牢度ともに良好ながら、ウールに対してはやや劣ります。
茶色の天然染料
茶色には茶色の羊の毛が使われることもありますが、一般的にはタンニンを多く含んだ植物の葉や樹皮、果皮が使用されます。
とりわけ樹皮は季節を問わずに採取できるので便利です。
茶色の染料として知られるオークはブナ(椈)、ナラ(楢)、クヌギ(椚)などブナ科の落葉樹の総称ですが、ブナ科の常緑樹であるカシ(樫)からも同じように染料を得ることができます。
オーク(コナラ属の樹木)
オークはブナ目ブナ科コナラ属の落葉樹。
北半球の温帯から熱帯の高地に分布し、イランでは北部の山岳地帯、西部のザクロス山脈を中心にいくつかの種を見ることができます。
高さは10メートル以上に達し、樹皮は灰色がかった茶色。
やや滑らかで、深い畝があります。
葉は長細い楕円形で、縁は鋸葉状。
春に房状の雄花と小さな赤い雌花を咲かせます。
果実はいわゆるドングリで、秋に熟します。
ナラの木はどの部分にもタンニンを含み、樹皮、葉、果実は薄茶色を染めます。
媒染は不要ですが、アルミ媒染でより深い色に染めることができます。
クルミ(ウォールナット)
クルミ(胡桃)はブナ目クルミ科クルミ属の落葉樹。
中東原産とされ、樹高は5メートルから20メートルにもなる高木です。
葉は先端のとがった羽状複葉で、5月頃に房状の雄花と赤い雌花を咲かせます。
9月から10月にかけて仮果を収穫しますが、その中にある種子を食用とします。
クルミは紀元前7000年頃には既に食用とされていたといわれ、人類が食用とした最古のナッツ類の一つであると考えられています。
葉と実が染料として使えますが、クルミの実で色素を含んでいるのはまだ緑のうちの果皮。
果皮は生でも乾燥させても使えます。
媒染は不要で淡い茶色に染めることができます。
タバコ
タバコ(煙草)はナス目ナス科タバコ属の多年草。
熱帯アメリカ原産で、紀元前の昔から南米から北米のミシシッピ川流域に至る地域、西インド諸島で栽培されていたとされます。
古代マヤの遺跡には神々が喫煙している様が描かれており、マヤ人たちは喫煙で得られる香気と陶酔からタバコの葉には精霊が宿ると信じ、宗教行事に用いていたといわれます。
その後、タバコは北米からカナダ南部へと広がり、大航海時代以降ヨーロッパ、アジアへと伝えられました。
スペインでは薬草類を「タバコ」とよんでおり、それがタバコの語源。
高さ2メートルほどに成長し、先の尖った大きな卵型の葉が互生します。
夏に茎の先端に小さなラッパ状の花が集まった総状花序をつけます。
染料には葉を乾燥させ醗酵させたものを用います。
媒染は不要で薄茶色を染めますが、媒染することにより深い茶色を得ることができます。
チャ(チャノキ、ティープラント)
チャ(茶)はツツジ目ツバキ科ツバキ属の常緑樹。
原産地については諸説あり、ビルマのイラワジ川源流域とする説や下部チベット山系とする説等があります。
北緯45度から南緯30度にかけての温暖な地域において広く栽培されており、その若芽から得られる各種の茶は飲料として親しまれていることは周知のとおりでしょう。
チャノキはアッサム種と中国種とに二分されます。
アッサム種は酸化酵素の活性がとても強く発酵しやすいため、紅茶向き。
インド、スリランカ、インドネシア、アフリカ諸国等で栽培されています。
一方、中国種は酸素酵素の活性が弱く緑茶向きで、中国、日本、トルコ、南米、イラン、インドやスリランカの高地の寒冷地などで栽培されています。
イランでは15世紀末に中国から喫茶の習慣が伝わったといいます。
以降コーヒーに代わる嗜好品として全国に広がり、19世紀末にはインドから持ち帰った苗木をもとにカスピ海沿岸のギーラーン地方やマザンダラーン地方においてチャノキの栽培が始まりました。
インドに自生する野生種のチャノキは8メートルから15メートルの高さにまで成長しますが、栽培種は1メートルから2メートルになるよう刈り込まれます。
葉は先端がとがった楕円形で、秋にツバキに似た白い花を咲かせます。
タンニンを含んでおり、媒染なしでベージュ色に。
アルミ媒染を施すと薄茶色を染めることができますが、堅牢度はそう強くありません。
ピスタチオ(ピスターシュ)
ムクロジ目ウルシ科カイノキ属の落葉樹。
西アジアから中央アジア原産で、地中海沿岸では紀元前2000年以前から栽培されていたといいます。
1世紀にローマに伝わり、やがてヨーロッパへと広がりました。
夏に高温となる乾燥地帯を好み、樹高は6メートルから10メートル。
葉は羽状複葉で互生し、2センチから3センチほどの果実は先の尖った卵形で、果内の核は成熟すると自然に割れる裂開果です。
この果実がいわゆるピスタチオナッツで、塩入のほか菓子やアイスクリームの材料として人気なのは言及する必要がないでしょう。
ピスタチオナッツの生産量はイランが世界一で、イラン人はそれを「グリーン・ゴールド」とよんでいます。
イランで産するピスタチオナッツにはアクバリ、アフマドアガエイ、ファンドギ、カッレゴーチ、バダミの五つの等級があります。
染料としては果実の外皮を使用するのが一般的で、媒染なしで薄茶色を染めますが、アルミ媒染により黄褐色を得ることができます。
ヘンナ(シコウカ、ヘナ)
フトモモ目ミソハギ科シコウカ属の常緑樹。
北アフリカ、西南アジア原産の低木で、半乾燥帯、熱帯の水はけのよい丘の斜面に自生しています。
樹高は3メートルから6メートルほどで葉は対生し、先の尖った卵型。
良い香りのする小さな白い花をつけ、果実は多くの種子を持つ朔果です。
人類とのかかわりは古く、紀元前の昔からこの植物の葉から得た橙色の染料で手指などを染めていたとされます。
それにちなみ、わが国では指甲花(シコウカ)ともよばれます。
葉を乾燥させて粉砕したものを染料として使用しますが、それを「レッド・ヘンナ」とよびます。
媒染は不要で茶色を得ることができます。
ヤナギ(ウイロウ)
ヤナギ(ヤナギ)はキントラノオ目ヤナギ科ヤナギ属の落葉樹。
主に北半球の温帯から寒帯にかけて分布し、300以上の種類があります。
葉は単葉で互生するものが多く、披針形もしくは円状心臓形。
早春に尾状の花穂をつけ、その後、綿毛のある果実を実らせます。
ヤナギはすべての種類が染料となり、枝葉と樹皮は生でも乾燥させても使用できます。
枝葉は動物繊維には媒染不要で薄茶色を染めますが、ミョウバン媒染により黄色に。
樹皮も媒染不要で肌色を染めますが、アルミ媒染により薄茶色となります。
黒色・灰色の天然染料
かつて黒色を得るためには鉄の粉末が使われていました。
しかし鉄の成分は繊維を傷めることから現在はあまり使用されていません。
古いトルクメンやバルーチの絨毯で黒いパイルだけが他の部分よりも摩耗しているものをよく見かけますが、これは鉄の成分によって糸が劣化したため。
浮彫のようにパイルをカットしたのではなく偶然そうなっただけのことです。
モッショクシや黒い羊の毛が使われることもありますが、一般には青色や緑色を繰り返し染色して黒色に近づける、あるいは青い染料と茶色の染料とを併用するなどの方法が採用されています。
モッショクシ(ゴールナッツ、オークアップル、オークゴール)
モッショクシ(没食子)はブナ科の樹木にできる虫こぶのこと。
虫こぶとは昆虫などが寄生することにより植物体組織が異常に肥大成長したもので、モッショクシは若枝にインクタマバチが産卵することによって作られます。
直径10ミリから25ミリほどの球形をしておりタンニンを多く含んでいるため、染料や筆記用のインクとして使われてきました。
茶色に変わって固くなるまで待つとタンニン量が最大になります。
媒染は不要ですが、モッショクシから抽出したタンニン溶液に鉄を加えるか染色後に鉄修整を加えると濃い灰色ないし黒に近い色を染めます。
この方法は中世の時代にはウールを黒く染める一般的な方法でした。
モッショクシは植物繊維の媒染剤として使うこともできます。
化学染料とは
化学染料は合成化学的な方法で作られた染料であり、様々な色素を含んでいます。
これらの染料は、自然界に存在する色素を合成的に再現したものであり、天然染料と比べて色のバリエーションが豊富で、染色の安定性や耐久性が高いという特徴があります。
化学染料は、主に繊維産業や繊維製品の染色に使用されており、一般的なファッションアイテムや家庭用品に広く利用されています。
化学染料は、染色の速さや染色効率が高く、繊維に対する染色の浸透性も高いため、色鮮やかで均一な色合いを実現することができます。
化学染料の製造過程では、環境負荷が高いとされており、染色に使われる化学薬品や廃水処理における問題が指摘されています。
また、染色過程で発生する有害物質や廃棄物が環境汚染の原因となることもあります。
そのため、近年では環境への負荷を軽減するために、化学染料の製造や使用において環境に配慮した取り組みが行われています。
化学染料は、天然染料と比べて染色の安定性や耐久性が高く、多様な色合いを実現できるため、現代の染色産業において重要な役割を果たしています。
ただし、環境への影響や健康への懸念があるため、持続可能な染色方法の開発や環境負荷の低減が求められています。
化学染料の種類
アニリン染料
アニリン(アミノベンゼン)から抽出される合成直接染料です。
1856年に英国の化学者ウィリアム・ヘンリー・パーキン(1838~1907年)が、マラリアの特効薬であるキニーネを抽出中に偶然発見し、「モーブ」という薄紫色の染料として商品化したのが最初とされますが、実はモーブ以前にも合成染料は得られており、カフェインの単離やペーパークロマトグラフィーの発明でも知られるフリードリープ・フェルディナント・ルンゲがは1834年に既にコールタールからアニリン染料を得ています。
また、パーキンの指導者でもあったアウグスト・ヴィルヘルム・フォン・ホフマンもモーブ発見の前にアニリン由来の染料を合成しています。
しかし、ルンゲもホフマンも実用染料として製品化することを考えなかったようで、その生産化に着手しませんでした。
イギリスの会社でも試験的に合成染料を得ていましたが、当時は量が少なすぎて実用的と考えられず、生産・販売には至りませんでした。
アニリン染料は媒染などの前処理工程が不要で、媒介物である媒染剤なしに直接染着する染料であることから直接染料と呼ばれます。
使用が簡単なことから人気を得ましたが、彩度の高い色が少なく、耐日光性、耐洗浄性はあまり高くありません。1880年代にはイランやトルコなどの手織絨毯の原産国にも伝搬しましたが、アニリン染料を用いて染色された絨毯はすぐに退色し素材にもダメージを与えるため、イランでは1903年に輸入・使用が禁じられました。
アゾ染料
分子内にアゾ基をもつ染料の総称で、一般に繊維や皮革製品、一部の食品の染色に使用され、その過程に溶解・染着という現象が存在するのが普通です。
しかし染料のなかには、水系に微粒子状に分散して繊維に固溶体の形で溶解染色する分散染料もあれば、油溶染料のように溶媒に溶解して着色溶液をつくるものもあります。
アゾ染料には多くの種類が知られており、いくつかの分類体系が存在します。
直接染料、酸性染料、分散染料、反応染料、アゾイック染料、媒染染料、油溶染料などに分類されますが、「ナフトール染料」とも呼ばれる直接染料は、綿などのセルロース・ベースの繊維に使用されます。
別の分類では、アゾ染料はアゾ基の数に応じて分類できます。
ほとんどのアゾ染料には1つのアゾ基しか含まれていませんが、2つまたは3つのアゾ基を含むものもあり、それぞれ「ジアゾ染料」と「トリアゾ染料」と呼ばれます。
特色としては、色や染色特性の多様な品種が得られること、各種の置換基を適宜導入することにより水溶性、金属と錯塩を作る性質、繊維に対する反応性などを付与することができることが挙げられます。
日光や洗濯などに対する堅牢度は一般には中級ですが、構造の工夫によりかなり高級なものもあります。
製造が容易で安価なため、繊維産業及び食品産業で使用される染料の6~7割がアゾ染料で占められています。
そのうちの多くは無毒ですが、ジニトロ・アニリン・オレンジ、オルトニトロ・アニリン・オレンジ、ピグメント・オレンジ1、同2、同5など、変異原性および発癌性があるものも見つかっています。
クローム染料
クローム染料は媒染剤に主としてクロム塩を用いる酸性媒染染料で、ウールのほか、シルク・ナイロンなどの染色に使用されます。
金属媒染染色は古代から草木染などで用いられてきた伝統的染色技術ですが、現代でも酸性媒染染料の金属媒染(クロム・コバルト・鉄・アルミニウム・銅など)として受け継がれ、ウール染色では主流となっています。
このような型の金属錯塩酸性染料は1900年代初頭から使われ始めました。
天然染料に比べて染色が簡単で、色も金属の種類、染料の構造により豊富です。
また、耐日光性と耐洗濯性があることから天然染料と類似する点もあります。
しかし、天然染料ならではの柔らかい色調は持ち合わせていません。
絨毯に、より固く金属的な光沢をもたらしますが、これは約10〜15年間使用することで半減します。
天然染料とクローム染料を併用して絨毯を製作する場合があり、絨毯作家は最良の結果を見据えた上で使い分けをします。
例えば、絨毯のディテールにはクローム染料を使用し、背景などの広範囲を占める部分には天然染料を使用するなどです。
理由としては、大きい範囲に使用される染料はより容易に合成色の違いを見分けることができ、これらの場所に天然染料を使用することで、天然染料のみ使用された絨毯と同様の印象を与えることができるからです。
クロム染料は染色に重クロム酸塩を使用するので、クロム排水が環境問題として注目されましたが、重クロム酸塩の使用量の削減や排水の公害処理設備が整備され問題が少なくなっています。
アブラシュ
1回の織りの中で微妙な色の変化が起こることは「アブラッシュ」と呼ばれ、通常は予測できない一連の変化の結果でした。
本物のペルシャ絨毯は、機械で作られるのではなく、手で織られています。
手織絨毯の性質上、色のムラを含むユニークなパターンが生まれます。
これらの色ムラはアブラッシュ(「アー・ブラッシュ」と発音)と呼ばれ、天然染料を使用したペルシャ絨毯の特徴の1つです。
アブラッシュは、特に古い絨毯や部族の遊牧の絨毯に見られます。
本物のアブラッシュカラーリングを扱う場合、単色の特定の領域には実際にはさまざまなグラデーションがあります。
これらのバリエーションは、一般的に絨毯の横方向(水平方向)に帯状になって現れます。
縞模様の水平バーまたはバンドとして表示されますが、他の形状やタイプのバリエーションも可能です。
アブラッシュのバリエーションは、ごくわずかな色合いの違いにすぎない場合もありますが、非常に特徴的で大胆に目立つ場合もあります。
現代の現代的なラグやカーペットは、これらの色の変化を再現しようとすることがよくあります。
新しい機械製ラグのメーカーでさえ、色の変化を加えようとしますが、めったに成功しません。
機械製ラグの色は常に、はるかに一貫性があり、かなり正確です。
その理由は、機械が人間よりもはるかに正確だからです。
人間の目、手工芸家が製品を作るために使用するツールや手段は、多くの場合、はるかに正確ではありません。
そのため、機械で作られたラグよりもはるかに自然で不完全な外観になります。
要因。たとえば、小さな地域であっても土壌のミネラル含有量は大きく異なる可能性があり、それが植生に影響を与え、必然的に染料植物に含まれる色素の質にも影響を及ぼします。
ミネラル含有量の違いは、染色浴に使われる水にも影響を及ぼし、染色者が必ずしも予測できない方法で最終結果に影響を与えます。
色の違いのもう一つの原因は、手紡ぎの羊毛の不均一な厚さで、染料が不均一に吸収され、外側の糸が内側よりも多くの色を吸収し、カーペットの毛が最終的に熟練した刈り込みを受けたときにのみ明らかになる、豊かで深みのある色調を生み出します。
さらに、羊毛の品質は羊によって異なり、また羊の毛の部位によっても異なります。
織物の素材となった羊は、古くから伝わる製法に従っていましたが、何も書き留められていない世界では、染料、媒染剤、水の量、浸す時間などに多少の変化が生じ、それが織物の仕上がりにも影響を及ぼしました。
産地による染色法
1. ファース地方
ファース地方は天然染料への回帰が最も進んでいる地域です。
ファース地方に暮らす部族民、とりわけカシュガイの人々はカラフルな衣装で有名ですが、派手好きなこの部族が、鮮やかで色数が多く、しかも取り扱いが容易な化学染料を見逃すはずがありませんでした。
第二次世界大戦後、カシュガイは絨毯からキリムに至るまで化学染料を多用するようになります。
それはカシュガイに隣接する、ルリやハムセなどの部族も同じでした。
1970年代に始まるギャッベ・ブームに乗じて、シラーズの絨毯商の中から天然染料への回帰運動を推進する者が現れます。
運動はモダン・ギャッベの誕生により勢いを増し、やがてファース全土に広がってゆきました。
今日では、一部のギャッベやキリムを除くと天然染料を用いて染色したものが主流になっています。
2. アゼルバイジャン地方
アゼルバイジャン地方のほとんどの都市や村では、色や自然の色を保存するという古い仕事の独創性はまだ化学染料に取って代わられていません。
ウールクリームはより入手可能であり、ウールはシャーサバンによって生産されていますが、タブリーズにあるファルシュ社の工房では、他の工房では主に化学色を使用しています。
3. マシャド
現在では、大きな都市の工房や小さな村の工房に関わらず、ほとんどの絨毯が化学染料で染色されています。
この町の絨毯市場は日に日に減少しており、 ICC(イラン絨毯会社)の工房でのみ、天然染料が使用されます。
4. カシュマール
カシュマールでは天然染料はほとんど用いられず、その知識を持つ染色家もいないようです。
したがって、カシュマールで製作される絨毯はほぼすべてに化学染料が使用されています。
5. ニシャープール
。
6. グーチャン
現在、アンティーク調のペルシャ絨毯を多く産出しているグーチャンですが、それらには化学染料が使用されています。
7. バルーチ
バルーチは、トルクメン絨毯に似た絨毯を製作していますが、その美しさにも関わらず、彼らはトルクメン同様に化学染料を使用しています。
8. アラク、ボルジェルド、マハラト
英国のジーグラー社がアラクと近隣の村に染色工房を設立する以前のボルジェルドとマハラトの2つの町は、イランからヨーロッパへの天然染料の輸出の中心地でもありましたが、今日では化学染料が使用されています。
9. イスファハン
イスファハンでは第二次世界大戦後に化学染料が使用され始めました。
以後、天然染料の割合は激減しましたが、一流工房をはじめとし、依然として植物染料を使用する工房も存在します。
10. カシャーン
サファヴィー朝期にカシャーンで製作された絨毯や織物は、染色技術の高さでも知られていました。
しかし、現在では主に化学染料が使用されており、天然染料の割合は減少しています。
11. ケルマン
ケルマンは早くから化学染料が普及したペルシャ絨毯産地です。
化学染料は1930年代から使用され始めめ、第二次世界大戦後には一般的となりました。
現在もそのほとんどに化学染料が使用されています。
12. ヤズド
ヤズドでは天然染料を用いた染色と、化学染料を用いた染色の両方が行われています。
13. トルクメン
かつては、天然染料の美しさで知られていたトルクメンの絨毯ですが、化学染料が使用されはじめたのは比較的早かったようです。
20世紀前半には天然染料は化学染料に取って代わられ、伝統的な染色工房はほとんど閉鎖されてしまいました。
14. ハマダン
この地域では主に天然染料が使用されています。
そのため、絨毯には独特の艶があります。
しかし、ハムセ地方(部族のハムセではない)では化学染料を使用した工場製の毛糸を使用しています。
有名な染色家
染色家とは、ペルシャ絨毯のパイルに使用する糸の染色を専門的に行う者のことで、イランでは「ラングラズ」と呼ばれます。
ペルシャ絨毯は、その美しい色彩が特徴ですが、染色家は、植物、昆虫、鉱物などの天然染料や化学染料を使用して、ペルシャ絨毯に豊かな色彩を与える役目を果たします。
独自の染色技術や色彩感覚を持ち、長い歴史と伝統に裏打ちされた技術を駆使して、糸を美しい色に染めあげます。
また、染料の配合や染色方法、染色前の処理などを熟知しており、緻密な作業を通じて絨毯に深みのある色彩を生み出します。
染色家は、あくまで裏方であって、彼ら自身が脚光を浴びることはほとんどありません。 しかし、ペルシャ絨毯の品質や美しさに大きく影響を与えるきわめて重要な存在であり、彼らなくしてペルシャ絨毯は製作できないのです。
アフマド・ヤサイ
生没年不詳。
アフマド・ヤサイは、ケルマンにおける絨毯産業が復興後に全盛期を迎えた20世紀初頭に活躍した染色家です。
宮廷より注文を受けた絨毯には彼が染色した糸が使用されたといいます。
イラン絨毯博物館に残るカジャール王室が注文した絨毯はアリー・ケルマニの作品であると推定されるため、おそらくアリー・ケルマニらに糸を提供していたのでしょう。
アフマド・ヤサイは、その後、絨毯作家となり、数々の名作を残したと伝えられます。
アフマド・サッタリ
アフマド・サッタリは1908年、カシャーンに生まれました。
生家は代々染色を生業としており、祖父のサッタル・ラングラズは有名な染色家であったといいます。
サッタル・ラングラズにはモハンマド・サデクとジャバッドの二人の息子がおり、アフマド・サッタリはモハンマド・サデクの息子でした。
小学校を卒業後、彼は父親のもとで修業をはじめ、やがて天然染料による染色のエキスパートとして名を知られるようになります。
そうしたキャリアを買われ、小学校しか出ていないにもかかわらず、アフマド・サッタリはカシャーン大学の絨毯コースの講師として迎えられました。
その後、イラン絨毯学会の設立に関わり、また1957年からはイラン絨毯公社の染色の指導者として、ゴルパイガン支部とカシャーン支部において活動します。
1980年、彼は故郷のカシャーンにおいて永眠しました。
セイエド・アッバス・サイヤーヒ
セイエド・アッバス・サイヤーヒは1932年、イスファハン州アルデスタンの片田舎に生まれました。
生家は立憲革命の立役者の一人として知られるハキム・アル・モルクの血を引く家系ではあったものの、父親は文盲で暮らしは貧しかったようです。
10歳になってからアルデスタンの小学校に通いますが、他の新入生よりも年長であった彼はいきなり2年生のクラスに編入され、授業についてゆくのに苦労したといいます。
3年生になってからは夏休みになるとテヘランに行き、果物を売って得た金を学費にあてていました。
中学校を卒業した彼はテヘランの高校に入学し、文学を履修。
高校卒業後は大学の教育学部に進み、学士号を得て教師となった彼が初めて受け持ったのは、自らが学ぶことがなかった小学1年生のクラスでした。
その後、文盲撲滅のため僻地に赴くなど教育者と約30年を過ごしますが、イスラム革命を機に教職を離れ、1983年からは染色師としての道を歩み始めます。
その背景には幼い頃、テヘランに住む母方の祖母から教わった、染色に対する興味がありました。
染色師となったサイヤーヒはイラン南西部のシラーズに拠点を置き、天然染料を用いた絨毯用の色糸の生産だけでなく、染料の材料となる植物の栽培、自らが染めた糸を用いたアンティーク絨毯の復元までも手掛けます。
また、故郷であるアルデスタンに染色工場を設けて技術者を養成するなど、天然染料の普及に努めてきました。
そんな彼を一躍有名にしたのが1996年に公開されたモフセン・マフマルバフ監督による映画『GABBEH』(ギャッベ)への出演です。
この映画でサイヤーヒは、カシュガイのテント・スクールで教鞭をとる教師の役を演じました。
彼は2017年に没し、故人の希望によりカシュン霊廟にあるかつての同僚で「遊牧民教育の創始者」として知られるバフマン・ベイギーの墓の隣に埋葬されました。
サイヤーヒはイランの小学1年生の教科書で紹介されています。
ペルシャ絨毯の退色を防ぐには
ペルシャ絨毯の退色とは、絨毯の色が時間と共に徐々に薄くなる現象を指します。
絨毯は自然素材で作られており、日光や汚れ、摩擦などの外部要因によって色あせることがあります。
特に、直射日光や高温多湿な環境、不適切な掃除方法などが色あせの原因となります。
退色は絨毯の美しさや価値を損なうだけでなく、絨毯の寿命を短くする要因ともなります。
そのため、絨毯の褪色を防ぐためには、適切なメンテナンスや保管方法を実践することが重要です。
定期的な掃除や日光を避けるなどの対策を行うことで、ペルシャ絨毯の褪色を抑えることができます。
ペルシャ絨毯の退色を防ぐためには、以下の方法が効果的です。
1. 日光を避ける
直射日光は絨毯の色あせを促進するため、絨毯を直接日光が当たらない場所に置くようにしましょう。窓にカーテンやブラインドを取り付けて日光を遮断するのも効果的です。
2. 定期的な掃除
絨毯の表面にたまったホコリや汚れが色あせの原因となることがあります。定期的に掃除機をかけたり、専用の絨毯クリーナーを使用して汚れを落とすことで、褪色を防ぐことができます。
3. 湿気や乾燥を避ける
高温多湿な環境や乾燥した環境も絨毯の色あせを促進する要因となります。絨毯を保管する際は湿度の調整を考慮し、適切な湿度を保つように気をつけましょう。
これらの方法を実践することで、ペルシャ絨毯の退色を防ぐことができます。
絨毯の美しさを保つために定期的なメンテナンスを行い、適切な環境で保管することが重要です。
店舗案内
名称 | Fleurir – フルーリア – |
---|---|
会社名 | フルーリア株式会社 |
代表者 | 佐藤 直行 |
所在地 | ■ペルシャ絨毯ショールーム【予約制】 ■サロン・ド・フルーリア(フルーリア東京事務所) ■イラン事務所 ■警備事業部(準備中) |